第23話 魔王城

―異種族のコミュニケーションって難しいんだな…


そのまま魔王とソウイツに続く私たち一行。

魔王城の少し前にそびえたつ黒い門の両隣にはゴブリンが2体。

そのゴブリンたちが私たちに対して挨拶をしてくる。

こちらも挨拶を返して門をくぐり、城の中に入っていく。

そのまま少し進むと城の扉があり、ここにも再びゴブリンたち。

扉を開き中に入るとそこには大きな通路。

黒と赤をメインとした色合いの廊下だが、外に比べると幾分か清潔感がある気がする。

どうやらここが玄関らしい。

左右にはそれぞれ、3~4mほどの四角い穴と2m程度の木の扉がある。

二人が右を向くこともなく左を選んで進む。

迷子になっても困るので、当然後をついていく。

そのまま少し進むと、正面に扉と右側に階段。

どうやら階段を上るようだ。

同じような構造の廊下を2回ほど繰り返し、更にもう一度階段を上る。

…ここが最上階4階のようだ。

二人がそのまま右へ向かって進んでいくので、ついていく。

しばらく進むと、夢の中で見たような大きな扉が目に入る。

ソウイツがその扉を開き、部屋の中央にある長机の椅子の一つに腰掛ける。

そこまで黙って歩いていた一行だったが、ここでようやく魔王が口を開く。


「ここは普段、ソウイツたち四天王と魔王たる我が会議などをするために使っている部屋だ。少し他の者に連絡をしてくる。ここで少々待っていろ」


そう言い残して魔王が部屋の奥にある扉を開けて出て行ってしまった。

少し居心地の悪さを感じていると、同じ空気を感じ取ったのか、ソウイツが喋り出す。


「…恐らく、他の四天王たちに紹介するおつもりなのだろう」


そういえば、入るのなら四天王にしても良いとか言ってたな…あれ本気だったのか。


「ああ、それと。この城の構造について気になっていることがあるかもしれんが、それについては実際に四天王になってから色々と話をすることになるだろう。ここは【魔王城】だからな、そう簡単に部外者に情報を漏らすわけにはいかないのだ。…私としては既に話をしても良いと思っているが、他の四天王に話を通すまでは正式に身内だという判定を下すことができん。同じ理由でこのテーブルに着席するのも少し待っていて欲しい…すまないな。その代わりと言ってはなんだが、壁の方においてある木の椅子は好きに使ってくれて構わない。スケルトンが疲労を感じるのかは分からないが…」


…なんというか、ソウイツは結構苦労人のようだ。

魔王もそうだが、ここの人…魔物たちは基本的に優しいのだろうか?

特にソウイツは、顔や体のせいで威圧感はあるが、実は凄く面倒見が良いんじゃないか?

なんせ、特殊進化した個体とはいえ元はただのスケルトンである私を四天王として受け入れようというほどだ。

それに、そのためには自分で魔王に「スケルトン系の特殊個体にやられた」という話をしなければいけない。

なんというか、正直な魔物なんだろうな。

まぁ、ひとまず椅子には座っておくとするか。

そんなことを考えていると、奥の扉が開く。魔王が戻ってきたようだ。

そのまま長机の一番奥にある椅子に座った。


「…ひとまず連絡はしてきた。少し待っておれば奴らも来るはずだ」


奴ら…【色欲】と【暴食・怠惰】の二体だろうか?

待ってみるとしよう。


数分後、先ほど入って来た扉の向こうから、


「失礼しま~す、魔王様ぁ♡」


なんとも甘ったるい、猫なで声のような女の声が聞こえる。

そのまま扉を開けて入って来たのは、悪魔だった。

それも、前世基準で言えば大分煽情的な服装の…サキュバスか。

間違いない。「【色欲】のベル」とかいうヤツだろう。

となると、もう一体はアイツでほぼ確定か。

…というか、私はこういう奴が一番苦手なんだ。

できれば一生関わり合いになりたくないタイプだというのに…

そんなことを考えているうちにソウイツの正面の椅子に座る。


「魔王様ぁ♡急に呼び出すだなんて、どうされましたかぁ?♡」

「うむ、少々皆に紹介したい魔物がおってな」

「なるほどぉ♡…あら、この子たちかしら?今気が付いたわぁ♡」


永遠に気づかないで欲しかった。

とはいえ流石に無視するのはまずいし、頭を下げておく。


「あらあら、中々クールな子なのかしら?それとも私に照れちゃってる?♡」


そんなわけないだろう。斬るぞ。


「…あ、もしかして喋れないのかしら?♡」


バレたか。

…ここは素直に頷いておくとしよう。


「そうなのねぇ♡どういう意味の紹介なのか分からないけど、取り敢えず、ヨロシクね♡」


絶対によろしくしたくない。

というか今すぐ目の前から消えて欲しいくらいだ。

それはそうとお辞儀くらいはしておく。


「んふふ♡…それにしても、いつもながらあの子は遅いのねぇ…」

「まぁ、ヤツはいつもそうだしな。仕方あるまいよ」

「とはいえ、なんだかんだ仕事を請け負ってくれる奴ではあるのだ」


目の前の魔物たちが話をしていると、廊下の向こうからゆっくりとした水音のようなものが聞こえてくる。

その音が徐々に近づき、部屋の入口辺りで停止した。

更に数秒後、扉をノックし、押し開ける音。


「ごめんなさぁい、遅れましたぁ…」


こいつも夢で見た通り、青眼白髪の人間のような風貌だ。

つまりは「【暴食・怠惰】のラズ」とかいう奴だろう。

上司に呼ばれて遅刻するとは…中々大物らしい。

そのまま歩いて行き、ソウイツの隣へ座る。


「うむ、いつも通りだな」

「いつも通りねぇ…♡」

「前も言ったが、もう少し早く来るように努力せよ」

「努力してるつもりなんだけどぉ…駄目だねぇ…」

「因みに今日は何故遅れたんだ?」

「ちょっと食べ過ぎちゃったぁ…」

「魔王様に呼ばれたというのに食事をする阿呆がいるか、まったく…」

「いやぁ、ごめんごめん…」

「まあよい。今回集めたのはラズを叱るためではないのだ」


「今回」ってことはそのために呼んだこともあったのか…?


「今回集めたのは、ここしばらく空席だった四天王最後の一席を埋めるためだ。この件はソイツには先に伝えておる」

「あらあら」

「なるほどぉ…ところでぇ、誰なんですかぁ?」


…まぁ、私だとは思わないか


「そこにおるスケルトン・クイーン…ミナである」

「…あら、あなただったのね~?♡」

「…っ…あ~、そこに居たんだぁ…よろしくねぇ」


気づいていなかったのか…?

ひとまず頭を下げておくとしよう。


「こやつは【暴走状態】のソイツと1対1でやり合って勝ったらしい。つまりはソイツを倒したというわけだ。ならば四天王たる実力はあるだろう?ということで今回四天王の最期の席を埋めるに相応しいと考えたのだ。反対の者はおるか?」

「魔王様がそうお決めになったのなら私は文句はないわねぇ♡」

「僕も別にいいと思うよぉ…あーでも、僕とベルはそのひとの戦う姿を見たことないし、一回見ておきたいかもぉ…」

「ふむ、確かに貴様のいうことも一理あるか。では、どうすれば良いと思う?」

「うーん…あ~そうだ。魔王様、確かこの近くに最近魔王様に反抗的なゴブリン村がありましたよねぇ…そこを潰してきてもらうのはどうですかぁ?」

「ふむ、良いかもしれないな。他に何か案のある者はおるか?…よし、居ないようだな。ではミナよ。貴様にゴブリン村の討伐を命ずる。見事果たしてみせよ」


なんか、勝手に話が決まったな…まぁいいか。

ひとまず行くとしよう。

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