第22話 転移

―明日また来るって話だったし、一応レベル上げ頑張ろう


…それから1週間とちょっと。

私は今、魔王城入り口に居る。


事の発端は1週間ほど前のこと。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「すまない、ミナ殿。急に予定が入ってしまったのだ。1週間ほど、会うのを伸ばして貰っても良いだろうか?」


1階に現れたアイツ—ソウイツが開口一番そう言った。

こちらとしてはいつでも構わない上に、レベル上げにはいくら時間があっても足りないわけで、1も2もなく承諾。

そのままレベル上げに勤しんでいた。

…それから1週間後のことだ。


「時間を伸ばしてしまってすまなかった。すまないついでに、もう一つ」


現れたソウイツが、そういいながら右に動く。

するとその後ろに、これまた見覚えのある顔をした黒い顔の「誰か」が立っている。

その「誰か」は、一目見るだけで強いと分かる雰囲気のようなものがあった。


「あー…この方は…」

「良い、我が自分で言おう。我が名は【憤怒】のサタン…魔王軍で魔王をしておる者だ。貴様がソイツを倒したというスケルトン・クイーンか?」


…というわけで、魔王が現れた。

どうやら、「四天王のソウイツを倒したやつ」が気になって来てみたらしい。

1週間遅れたのも、魔王が外に出るために準備をしていたとかなんだろうか?

取り敢えず挨拶と肯定を含めて、お辞儀をしておく。


「うむ、なるほどな。確かに通常のスケルトン・キングではありえない程度の知能があるようだ。それに、貴様の周りにおるスケルトン共も少々特殊な個体のようだな」


通常のスケルトン・キングはそこまで知能が低いのだろうか?

少なくとも前のボスだったあいつは、柱の後ろにセイントを隠しておく程度の知能はあったようだが…

それより、通常のスケルトンと【盤上骨棋チェス】のメンバーは見た目自体はそう変わっていないはずなのに一目で見抜くのか…あるいは【鑑定】か?


「それで…貴様の名は『ミナ』といったか。…ああ、ソイツに聞いたのだ」


…?今、何か違和感があった気もするが…まあいいか。

肯定しておく。


「ふむ………い、が…よし、良いだろう。貴様、我が軍に入らないか?入るのであれば、四天王の座をやっても良いと考えておる。それに、貴様が連れているスケルトンたちも共につれてきて構わない」


魔王軍に入れ、ということか。

正直、四天王なんて座には全く興味がないんだが…

まぁ恐らくこのダンジョンもこの魔王かソウイツの物なのだろうし、ほとんど無断で占拠しているのと変わりない状態だ。

ここを壊されでもしたらその瞬間に【盤上骨棋チェス】ごと岩に押しつぶされて死にかねん。

それに加えてコイツ、【鑑定】で名前すら見ることができなかった。

今の私では天地がひっくり返っても勝てそうにないほど強いのだろう。

《ミナ は 逃げ出した!》

《しかし回り込まれた!》

《魔王 サタン の 攻撃!》

《ミナ は 目の前が真っ暗になっていく…》

なんてことにもなりかねん。

夢で見て気になっていたところも少なからずあるし、もしかするとそこに入れば今以上に強くなれるかもしれない。

そうなれば、この魔王すら倒せるようになる日も来る…のか?

まぁいい。現状「断る」という選択肢は選べそうにないしな。

渋々ながらではあるが、頭を縦に振る。


「よし。ではそうだな…貴様以外にスケルトンの中から4体選べ。その者たちと共に城へ行くとしようではないか」


と言われたので、【直属骨騎士コマンダー】の4体を選択。


「ふむ、そやつらで良いのか?では行くとしよう。我の近くへ来い」


一つ頷いて、近くへ行く。


「…よし、では行くぞ。【帰還】」


目の前が一瞬暗くなったかと思った次の瞬間、私たちは周囲を覆う植物たち―自然というには少し赤や黒が多すぎる―と城の目の前に立っていた。

というわけで現在に至る。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


…今のは、いわゆる【転移魔法】とか【空間魔法】とか、そういう類のものなのだろうか?

それとも、ダンジョンの持ち主だけが使えるダンジョンの機能的なものか?

…そういえば、ソウイツが「ここは私か魔王様くらいしか入れないはず」とか言っていたな。

魔法なら使えるものなら誰でも入れるはず…とすると機能の方だろうか?

いやしかし、【結界】とかそういう部類のものが存在すれば許可されたもの以外は入ってこられないという可能性も…ふむ、悩んでいてもわからんな。

というか、この周囲の木々や草花、それに空の色はどういうことだ?

本来自由を感じさせる、解放感あふれるはずの空が、血と憎悪を混ぜ合わせてドロドロに煮込んだような色に染めあがっている。

少なくとも前世の科学的な事実に基づけば、本来ほぼあり得ないはずの光景だ。

当然…というべきか、前世で見たような生物はほぼおらず、強いて言えばカラスの一部が骨になっているかのような、妙な姿の魔物がそこらで羽ばたいているのが見える程度。

加えて視点を下げると、そこにはまるで炭化したかのように黒く枯れ細々とした木が存在している。

しかし枯れているはずの木であるというのに、今にも動き出しそうな妙な気配を感じとることができた。

それも、「生命力が溢れる」なんていうプラス方面の感情によるものではなく、今にもそこらを飛んでいる鳥たちをその枝で捕らえて食べ始めそうな、えも言えぬ気味の悪さを感じるのだ。

そのまま視線を足元にやると、枯れ果てて骨のようになった草や、それらをアクセントとするかのようにまるで何かに汚染されたかのような汚い黒の地面が目に入る。

それに、目の前にある黒く格子状の門と、その奥に鎮座する巨大かつ隣にいる魔王に近しい雰囲気を漂わせている城。

それら全てが、ここは先ほどまでいたダンジョンでも、ましてや地球などでは絶対にありえないということをひしひしと伝えてくる。

今起きた現象や周囲の風景について考えていると、頭上から声がかかる。


「ミナ殿?ついたぞ?」


…ああ、ソウイツか。少し考えすぎていたようだ。

頷くことで気づいたことを伝える。


「気にするな。初めて転移する者は大抵驚いた上で吐くのだ。私も最初に転移したときは吐きそうになったものさ。ミナ殿も無理はするなよ」


この体でどうやって吐けというんだ…?

…それはそうと、皆は無事に来たのだろうか?

そう思いつつ後ろを向くと、【直属骨騎士コマンダー】たちと魔王が立っていた。


「む、なんだ?…ああ、入りたいのか。では行くとしよう」


あ、いや、違…まぁいいか。

すっと前に出て歩き始めた魔王とソウイツに、皆で付いていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る