第3章 魔王軍

第21話 話合い

―『いつでも、話しに来て』


目を覚ますと、そこは3階の部屋だった。

どうやらあの後、皆が運んでくれたようだ。

…それはそれとして、一つ確認しないといけないことがある。

直属骨騎士コマンダー】は今は見回りかレベル上げ辺りか?


「ポーン、話がある。【直属骨騎士コマンダー】の皆で来い」

「かしこまりました」


…そう。何故、あの時「参戦しなかった」のか。

確かに、「戦え」という命令はしなかった。

しかし私は「下がれ」とも言っていない。

つまり、自由に動ける状態にあったはず。

【支配状態】にありながら、私が死にかけている時に動かないというのは少し疑問が残る。

何かしらの理由があるならそれでいい。

だがそうでないなら、評価を見直さないといけないかもしれない。


そう考えていると、【直属骨騎士コマンダー】が到着する。


「ミナ様、お待たせいたしました」

「良い。しばらく、ポーン以外は外に出ていてくれ。…よし、ポーン。少し聞かせろ」

「なんなりと」

「…まず、私が倒れてからどの程度経過した?」

「5時間ほどです。まだ日は跨いでいないかと」

「そうか。では次の質問だ。あの時…私がヤツ、ソウイツの手によって死にかけた時。何故助けに来なかった?」

「…」

「何故黙る?理由によっては、私はお前を殺さないといけないかもしれない」

「…私はあの時、ビショップを守っておりました。万が一にもこちらへ攻撃が来れば、ビショップでは対抗できないと考えましたので。それに、少し前にヤツの腕を切り落としたミナ様であれば問題はないかと」

「…念話で確認することは試したか?」

「はい。ですが、何の返事もございませんでしたので、命令がないのに動くのもいかがなものかという風にも思いまして、あの場所でビショップを守っておりました」


…なるほど、一応の筋は通っているか…?

念話に関しては覚えがないが、暴走していたからという可能性もある。

まぁ不信に思って助けようとしなかったのかとも思うが、確かに少し前に腕を切り飛ばしてるしなぁ…

まぁ、ひとまずはいいか。


「…なるほど。ビショップを守っていてくれてありがとう。それと、他の者を中に入れてくれ」

「かしこまりました」


やはり疑うというのは難しいな。

それに、あの時【私】に言われた「配下を信頼していない」というのも、ある意味でそうなのかもしれないしな。

確かに、ポーン以外に「信じている」だとか、そういったことを言った覚えがない。

…まぁ、ひとまずよしとしよう。

それより、他の【直属骨騎士コマンダー】にも伝えたいことがある。


「ミナ様、【直属骨騎士コマンダー】一同揃いました」

「ありがとう…さて、最初にビショップ。あの時はバフをありがとう。お陰で助かった」

「いえいえ。少しでもお役に立てたのであれば嬉しいです」

「次もしも同じことがあった時はよろしく頼む。…次にナイトとルーク。お前たちを助けることができず、すまない。どうやら、私とソウイツの持つ【嫉妬】や【傲慢】というスキルは、持っている者同士が戦う場合においては効果を発揮しないようだ。私が最初に戦うか、あるいは乱入していればお前たちが危ない目に会うこともなかったかもしれない」

「…!!いえ、俺たちが弱かったことが原因です。ミナ様が謝られるようなことではありません!!」

「そうです。我々がもっと強ければ、ミナ様のお手を煩わせることもなかったはず。それに、明日、ヤツがもう一度このダンジョンに来ると言っていました。その時こそ!」

「…そうか。…だが、もしもその時に戦闘になったとしてもお前たちコマンダーは手を出すな。」

「何故です!?俺たちはミナ様が戦われるのを指をくわえてみていろと!?」

「確かに我々は今回は負けました。ですが、だからと言って除け者にするというのはあまりにも酷いのでは?それに、ミナ様のステータスも我々とそう大した違いはないはずでしょう?」

「我々は【直属骨騎士コマンダー】であります。ミナ様のためとあらばこの命、失うことも致し方ありませぬ」

「…先ほども言ったが、私が戦う場合は相手の【嫉妬】…【大罪系】は効果を発揮しない。しかしお前たちは違う。…確かに、お前たちは【直属骨騎士コマンダー】だ。私の配下の中で、最も優秀な4体だ。しかし…だからこそ、お前たちを失いたくはないのだ」


…これは、強欲なのだろうか?それとも、先ほどの戦いの後で憂鬱になっているだけなのだろうか?

そう考えていると、ポーンが言う。


「…そもそも、私に関しては【最初の配下】の効果で【傲慢】の効果を頂いております。それはどうなのでしょうか?」

「…試してみないことにはわからん。もしかしたら私の【傲慢】と同じ状態になるかもしれないし、もしかしたら私が共有しているだけだから意味がない、という可能性もある」

「であればひとまず、意味がないという方針で見た方がよさそうですね。…それと、もう一つ。もしも我々が【大罪系】のスキルを獲得することができれば、戦うことを許される…という認識でよろしいでしょうか?」

「…まぁ、確かにそうだ。しかし残り4つ、仮にポーンが【傲慢】を所持しているという判定だとしても3つ…」


そう、【大罪系】…つまり七つの大罪、または七つの罪源と呼ばれる存在。

名前の通りに7つしかない。ソウイツと同じくあの夢に出ていた者が全員生きているのだとすれば、のこりは【強欲】しかない。

その上、【大罪系】なんて名前のスキルがそうホイホイと手に入るとは思えない。

少なくとも、これだけ数がいるこのダンジョンでも他に【大罪系】と思われるスキルを所持しているスケルトンは見たことがない。

というか、恐らく1つずつしかないのではないだろうか?

因みに、さきほど【私】に【大罪系】と言われた時に思い出したことだ。


重くなった空気の中、一つの声が上がる。


「…とはいえ、なんらかの称号やスキルの影響で手に入れる可能性がゼロという訳ではないのですし、ひとまず手に入れられるかは置いておいて強くなることを頑張ってみるというのもアリなのでは?」


ビショップだ。

戦闘能力が最も低い分、ある意味で一番不安なはずだというのに…

この空気を壊すために、無理をしているのだろうか。


「…確かに、そうかもしれませんね。このようなことを悩んでいる暇があれば、我々はより強くなることを目指すべきかもしれません」

「そうだな。俺も、更に強い防御系スキルが欲しいところだ。ミナ様を守るためにも、悩んでいる暇があれば強くなるべきか」

「なるほど、一理ありますね。少々不安ではありますが、そうすべきかもしれません」

「確かにな。ビショップ、助かった」

「いえいえ。普段の戦闘ではほとんど役に立ちませんから、こういう所くらいは活躍しませんと」


…とはいえ、助かったのは事実。

それと、倒れる前にソウイツが「また明日来る」と言っていた。

さきほどポーンが言っていたことが正しければ、今はまだ夕方~夜くらいの時間帯。

確かに、悩んでいる暇があれば強くなろうとすべきか。


「よし、わかった。では、皆明日に備えて各々できる限りのことをしなさい。レベルを上げるもよし、寝るもよし、試合をするもよし。…ああ、私とやりたい場合は言いなさい。遠慮はしないで良い」


明日までに、少しくらいは強くなれるだろうか?

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