第18話 【嫉妬】、再来
あの戦いから1週間。また来た【嫉妬】のソウイツ。
…正直めんどくさい。諦めて帰ってくれないだろうか?
「…む、来たか。待っていたぞ」
そう言われた瞬間感じたのは「うっわ…待ってやがったコイツ」だった。
確かに居そうだとは思っていたが、四天王相手は普通に疲れるから嫌なんだよな…
「…ナイト。やってみるか?」
「ミナ様、俺でよろしいのですか?ヤツはミナ様との戦いを望んでいるようですが」
「相手は私とやることを望んでいるようだが…まぁいいだろ」
いきなり来た上で「待ってた」とかはた迷惑かつ気持ち悪いことを抜かしているこいつには、わざわざ私が出る必要もない。
「せっかくだし、修行の成果を見せてやるといい」
「ありがとうございます…とはいえ俺一人では流石に厳しいので、ルークをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「ああ。好きにしなさい」
そもそもこの二人は今度もコンビを組ませるつもりだしな。
「かしこまりました。では、ルーク」
「ええ。行きましょうか」
そう言って前に出る二人。
「む…?何故貴様が来ない?私を舐めているのか?」
まぁ、端的に言えばそうだな。
「…まぁいい。さっさと倒して貴様と戦うとしよう」
そういいながら、前回と同じように殴ろうとしてくる。
どうやら、前回よりいくらか強化されているようだ。拳の風を切る音が激しくなっている。
もしくは、コケにされて怒っているのだろうか?
とはいえ、ナイトも強くなっている。その程度の攻撃は軽く受け止めてみせた。
更に、それに合わせてルークが【魔法弾】を連射する。
【鷹の目】も有効活用しているようで、腕や顔に何度も命中。
これにはさすがにこたえたようで、また前回と同じ槌を持ち出した。
盾の上から無理矢理殴るかと思いきや、あくまで身を守るためだったようだ。
地面に突き立てて【魔法弾】を防いでいる。
しかしそんな隙を見逃すわけもなく、ナイトの【シールドバッシュ】が発動。
もろにくらったようで、少しよろけた…かと思いきや、ヤツが何かを言っている。
「…ふ…ふふふ…ここまでとはな…舐めているのかなどと言ってすまなかった。正直、この戦力なら四天王として、ひいては魔王軍のための強力な力となるほどだ…いやしかし、【魔法弾】に特化している代わりに非常に高威力な魔法に、私の拳を何度くらっても倒れない硬さ。実に面倒で…そして羨ましい。いや、本当に。妬ましいほどに、面倒で、羨ましい…ああ、羨ましい。欲しいなぁ…欲しい。…しかし、お前たちはそこの【
コイツ、何を言って…ッ!?
その瞬間ヤツは、横に立てていた【金剛槌】を引っこ抜いて思い切りぶん回し始めたのだ。
「そうだ、殺そう!!お前たち皆、死んでしまえ!!ハハハハハハハ!!!!」
ぶん回した【金剛槌】を、ナイトに向かって思い切り振り下ろす。
盾がへこみ、一瞬、互いの動きが止まる。
「ヤツ」がにやりと笑い、更に「ソレ」を振り上げる。
そうしてまた、叩きつける。
何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、集っている働きアリを踏み潰す人間のごとく、持ち上げては叩きつけ、再び振り上げる。
その使い方は、今までのような知性ある使い方ではなく、まるで野生動物のように野蛮で、力任せな攻撃だった。
流石にこの攻撃はナイトも耐えるのが難しく、防御で手一杯なようだ。
私とポーンで助けに行こうとするが、あまりの激しさに中々近づけない。
とはいえ防御を捨てたというのなら、ルークの【魔法弾】が刺さるはず。
ルークの魔法が奴の体力を削り切るのが先か、あるいは。
ルークもそう考えたのか、今までよりいくらか近づき物理的に当てやすくした上で、命中精度度外視でとにかく数優先で乱射しだした。
そうしてルークの攻撃が命中。2発目。3発目。その後も何発も当たっていく。
しかし、ルークが【魔法弾】を当てるたび、段々と違和感を感じる。
そのまま両者の攻撃が段々と激しさを増し、土埃が舞う。
煙幕のように舞い上がったそれによって視界がさえぎられ、何も見えなくなる。
数分後 バキッ!!
その直後 ゴトッ
数秒後、2度目の バキッ!!
その音を境に、周辺は静寂に包まれる。
まるで、戦闘なんてなかったかのように。
そうして視界が晴れていく。
次の瞬間視界に入る、あの戦闘が嘘だったかのように立っているゴブリンキング。
しかし、その手に持っている金剛槌が半ばから折れていることで、戦闘があったことを「嘘じゃないぞ」と伝えてくる。
そしてその周囲には、「誰も居ない」。
…つまり、倒されたのだろう。
「盾持ちの奴には最後の最後に金剛槌を折られてしまってな…思っていたよりも強かったぞ」
…ッ!!
ヤツがそういった瞬間、小さく、骨が折れる音。
なにかと思えば、どうやら無意識のうちに歯を食いしばっていたようだ。
それによって少し冷静になり、もう一度、ヤツの周りを確認する。
そこには、ひしゃげた鉄の板が落ちていた。
それを見た瞬間、気付く。そう、あれはナイトの持っていた盾だ。
肺などないはずなのに、息が乱れているような気がした。
血管などないはずなのに、ないはずの目が、充血していくような気がした。
ないはずの心臓が、この体にソレがないことを、心の底から後悔していた。
頭は冷静だった。
【嫉妬】の効果は一体何なんだ?
そうか、ナイトは一矢報いたのか。
最初に私が出ていたら、勝っていたのだろうか?
ナイトが出てくれたから、私は情報を得られた。感謝しなければ。
【傲慢】があれば、勝っていたのではないか?
怒る必要なんてない、「ただの配下」なのだから。
ただの、「魔法が使えない配下」だったのだから。
そうしてもう一度、ナイトの盾を見る。
「アレ」がぼこぼこにひしゃげている理由など、ただ一つ。
ナイトを守ったのだ。最後の一瞬、その時まで。
そう、守ったのだ。「私と同じ」、魔法を使えない「ただの配下」を。
冷静だった、はずだった。
ナイトは、「ただの配下」なのだから。
「ただの配下」だったはずなのに。
気が付いたら、走り出していた。
許せなかった。私の配下を殺したコイツを。
憎かった。何度も、何度もナイトをいたぶったコイツが。
殺したかった。あの時、二人に行かせた自分自身を。
叫ぶのだ。渦巻く黒いナニかが。
見つめるのだ。心の奥で淀んでいる、血のようなナニかが。
私の心を、ただ塗りつぶそうとその手を伸ばす。
そうして私は、その触手に絡めとられ、
気付いた時には、ヤツの腕を切り飛ばしていた。
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