第4話 傲慢な覚悟

両手で握りしめた「それ」を、目の前の敵へと振り下ろす。

渾身の力を込め、相手の命を確実に削り取れるように。


その瞬間。標的を見失い、空振る。一瞬焦るが、すぐに気がついた。

スケルトンウォリアーが「一歩後ろに下がった」のだ。

どうやらこいつ、ずっと気づいていたらしい…まぁ、当たり前か。

とはいえ、前回も避けられたのだ。この程度、焦るようなことではない。

そのまま左上に剣を振り上げ、頭を狙おうとし、


視界の端で、手が動くのが見える。


その手はそのまま、剣の軌道を塞ぐかのようにクロスする。

直後、剣と骨の衝突。鳴り響く、ガンッという鈍い音。

前回を思い出し、周りに気づかれていないか急いで確認。

視界の先には、ただ普段通りに歩く骨たちの姿が映る。


刹那、鋭い衝撃。


そう、今はまだ殺し合いの最中。

急いで顔を戻し、気付いた。奴が左足を伸ばしている。

どうやら私は、奴に蹴り飛ばされたようだ。

周りに気を取られ敵の攻撃を受けるなど、なんたる間抜けか。


そのまま数舜宙を飛び、転がる。

次に視界に映ったものは、のぼって来た階段だった。

どうやら階段の前まで飛ばされたようだ。

急いで顔を戻せば、ヤツがゆっくりと歩いてきていることに気づく。

…このまま急いで立ち上がり階段に飛び込めば、逃げられる。


しかし、頭の中でもう一人の自分がささやく。

「また、逃げるのか?」

「あの時のように、無様に逃げ帰るのか?」

「逃げ帰って、何になる?」


…そうだ。

私はあの時、「」そう誓ったはずだ。

であれば、こんなところで負けるわけにはいかない。

なぜなら、この世界ではなのだから。


だというのに、この体たらくはなんだ?

同種、に蹴り飛ばされて地べたを這いずっている。

あまつさえ、目の前に差し出された手に縋り付こうとすらしただと?

なんと、なんと情けない。なんと浅ましい。


…ふざけるな。

私は、私の目指す最強とは、こんなものではない。

こんな、そこらの骨ごときに負けている場合ではないのだ。

ここで立ち上がり、余裕であのゴミを軽くなぎ倒してこそ、私。

もう二度と、あのような無様を晒すわけにはいかない。

そんなことをすれば、その時こそ私は、本当の意味で死ぬのだ。


私は、まだ、死ねない。


ゆっくりと、立ち上がる。

たった一度吹き飛ばされた程度で震えている足をどうにか抑え、剣を構える。


その時。


《条件の達成を確認しました》

《ユニークスキル【傲慢】が覚醒します》

《ステータスが上昇します》

…なんだと?スキルが、?それも聞いたことのないスキル。


私のステータスにはそんなものなかったはず。

だというのに、。妙な感覚だ。

だがまぁ、一旦置いておこう。

今あの声は、ステータスが上がったと言った。

ならば、目の前のこいつにも勝てる可能性があるのではないか?


だというのなら、怪しい力だろうが何だろうが、全て使いこなして見せよう。

全てを利用し、私の糧とする。そのたびに私は強くなるのだ。

確かに私はまだ、脆く小さいただの一つの塵かもしれない。

だが、これからだ。

この怪しいスキルも、倒した敵の恨みすらも私の力へと変えてみせる。


だから、そう。


、私の成長のためのいしずえとなれ。

足を踏み出す。指で地面を掴む。

暴力的なまでに膨れ上がった傲慢をぶつけるように。

剣を上段に構え、獲物の懐へと飛び込む。

掴む柄に万力のごとき力を込め、そのまま振り下ろす。

今度こそ、この一撃で敵をほふるために。


二体のスケルトン・ウォリアーが交差する。


片方は剣を振り抜いた姿勢で、もう片方は何もなかったかのような姿で、静止。

一瞬の後、一方の魔物の頭蓋から骨盤までが、綺麗に左右に分かたれる。

そのまま全身の骨が地面に落ち、けたたましい音が鳴り響く。

もう一体の魔物はそれを振り返り、拳を握る。

《レベルが11に上がりました》

その声を聞きながら、戦いの勝者は足を引きずりつつ、階段を降りて行く。




階段の中腹で一旦、立ち止まる。今更蘇ってくる切った感触。

心臓などないというのに、なぜか鼓動がうるさいような気すらする。

震える手を抑え、呼吸などできないはずの体で深く息を吸う。

そうして、心の中で呟く。


【鑑定】


名前:なし

種族:スケルトン・ウォリアー

Lv:11


HP:170/170

MP:0/0


STR:30

VIT:30

INT:0

MIN:1

AGL:20

LUK:30


ユニークスキル:【傲慢】

スキル:【アイテムボックス】【鑑定】【言語理解】【成長加速】【思考加速】【剣術】

称号:【元異世界人】【知恵を持つ魔物】【幸運者】【同族殺し】


…ふふ、ふはは、ふっはははは!!!

やった、やったぞ!!ついにヤツを倒した!!

それに、やはりレベルが上がっている!!

その上、珍しそうなスキルまで!!

いいぞ、とてもいい!!


…ふぅ…一旦、落ち着こう。ひとまず、スキルの確認を。

今までのスキルは予想が出来たから鑑定していなかったが、今回は想像がつかん。

十中八九ステータスアップ系の能力があることだけは分かるが。


ユニークスキル【傲慢】:

世界中で最も傲慢であると認められたモノだけが所持できるスキル。

また、【傲慢】を所持できる資格のあるモノは、スキル覚醒前に一部の効果を持っていることがある。

効果:

格上進化の段階が上との戦闘時、常時ステータス3倍

同格進化の段階が同じとの戦闘時、常時ステータス2倍

・レベルアップ、進化を行った際、通常の2倍ステータスが上がる

格下進化の段階が下からの影響を受けない

格下進化の段階が下を倒した際の経験値が発生しない

・逃走や敗北など、自尊心を傷つけられた場合、【暴走状態】になる


…なるほど。

スケルトンを倒しても経験値を得られなかった理由がこれでやっとわかった。

どうやら覚醒前のスキルの影響を受けていた、ということらしい…。

つまり、このスキルさえなければ普通にレベルが挙げられていたということ。


…言いたいこともあるが、このスキルのおかげで戦闘にも勝てたというのも事実。

その上強化の効果で、ステータスだけは奴らより余裕で上だ。

デメリットもそれなりにあるが、まぁよしとしよう。

それに、このスキルがあれば、あの化物ゴブリンキングにすら勝てるかもしれない。

そう考えると少しわくわくするな。

まぁ一旦今は、上の階の奴らを倒しまくってレベルを上げていくとしよう。

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