第3話 絶望と希望、そして

このままここにいるのはまずい!!

スケルトンウォリアーたちに背を向け、全速力で階段を降りる。




…降りきった先で後ろを振り向いてみると、誰も追いかけてきていないようだ。

あいつら、階層の移動はできないのだろうか?

だとすれば、私にとっては好都合だ。

なんせ、この階には格下スケルトンしかいない。


しかし、今のはまずかったな…危ないところだった。

今の状態では正直、1対1ですら勝負にならないだろう。

再び上に行けば確実に負ける…というか、死ぬ。

私と同種なはずなのに2倍のステータス。

一体何故、これほどに差がある?


…ふと、持っている剣に目線が行き、脳裏に元所有者の姿がよぎる。

私が死んだ場合、ああやって死体として残るのだろうか?

それとも、他の魔物たちと同じように消えてなくなるだけ?

…怖い。出来ることなら、今すぐ家に帰りたいほどに。


だが、それはできない。なんせ地球の私は死んでいるのだから。

というかそもそも、帰る方法がわからない。

もし仮に魔法を使えば帰れるとしても、私にはINTとMP…魔法を使う力がない。

つまり現状、レベルを上げ、ここで殺されないだけのステータスを得る以外の方法はない。


そもそも、仮に今の状態でウォリアーを倒せたとしても、それより強い魔物が出てこない保証はない。

というか、十中八九でてくるだろう。なんせあのゴブリンキングがいる世界だ。

であれば私など簡単に殺されるし、進化したとて、生き残れるかはわからない。


…ああ、私は死にたくない。

そうだ、いっそのこと戦うのを辞め、この1階で大人しくしていようか。

…いや、駄目だ。今自分で言ったではないか。

たとえ私が立ち止まったとして、この世界が私に優しくなるわけではない。

既に私より強い者はごまんと存在しているのだ。

私が昼寝している間に流れ弾に当たって死なない保証などどこにもない。


確かに死ぬのは怖い。本当なら今すぐ家に帰って布団で暖まりたいほどだ。

だが、それでも、ここでただ震えて立ち止まるのはただの自殺だ。

そして、私はそのような選択をするつもりは1mmたりともない。


確かに今の私は弱い。同格相手にすら死にそうになるほどだ。

だが逆に言えば、「死なないほど強くなれば良い」ということ。

やつらだけでなく、あのゴブリンキングにすら負けないほどに。


いずれそれ以上に強い魔物が出てくる可能性もあるだろう。

だが、ならばそれすら倒せるほどに強くなれば良い。

つまり、今はレベルを上げること。

とにかくレベルを上げ、ひとまず「ヤツ」を倒す。話はそれからだ。


…ふと、辺りを見渡す。

視界に入るのは、いつも通り生気のない顔で闊歩かっぽしているスケルトンたち。

そう、こいつらを倒せばいいんだ。

それによって上がったレベルでスケルトンウォリアーを倒し、さらに進化する。

たったそれだけのことだ。


そう覚悟を決め、私は足を踏み出す。

右手の「さびた鉄の剣」の柄に左手を添え、全力で近くのスケルトンに振るう。

それと同時、剣の重さに体全体が持っていかれそうになる。

どうにかこらえ、敵が起き上がらないことを確認。

すぐさま近くにいたもう一体のスケルトンに標的を定め、突進。

体当たりでそいつを倒しつつ、さらに近くに居る奴らを薙ぎ払う。


…そうだ。私はこいつら相手ならまず負けない。

ここで安全に、こうしてレベルアップをするんだ。

そう考え、幾多いくたの骨を切る。

そうして気づけば、すでに1日が経過していた。

狩ったのは概算100体以上。そこまで考えて、ふと、気づく。


これまでなら、これだけ狩ればレベルアップの音声を何度も聞いていた。

なのに、今日は一度も耳にしていない。

そう考え、自分のステータスを確認する。

やはり、レベルは1たりとも上がっていない。


進化して経験値の上限的な物が爆増でもしたんだろうか?

仕方ない、数日狩りを続けて確認してみるとしよう。

…そういえば眠気が来ないな?

この体は睡眠が必要ないということだろうか。




恐らく12時間ほどあと。

再び100体ほど狩った。だが、未だ一度もレベルアップの音声は聞こえない。

それと、寝なくて良いせいか時間の経過がよくわからん。

これまで数分だと思っていたのが、実は数時間経っているとかもありえそうだ。

まぁ、今は一旦置いといて、狩りを続けよう。




多分、翌日。

ただ近くの敵を切り続けるだけなせいで色々と曖昧になった気がする。

というか、そろそろ進化しないんだろうか?

流石に飽きてきたというか、ほとんどただの作業になっているんだが…

…まぁ、これで強くなれるならやるしかないか。




1週間ほど経った…と思う。

作業のように骨を切り、気付けば【魔物の天敵】とかいう称号すら獲得していた。

1000体の魔物を倒すと獲得でき、周囲の魔物から狙われやすくなるんだとか。

というか、いくら何でもおかしいだろう。

1000体以上倒したのに、全くレベルが上がる気配がない。

もはや頭の中で思考することすら放棄しかけていたぞ。


…ずっと考えていたことがある。なぜ、レベルが上がらないのか。

一つには、という可能性。

しかし、二階にも同種はおり、それらはLv3やLv5が多く存在していた。

もしも本当に必要な経験値がこれほどに多いなら、それほど容易にレベルを上げることなどできないはずだ。


そしてもう一つは、という可能性。

確かに私は異質な存在元異世界人なのだし、可能性は0ではないと思う。

とはいえそれを現在確認している暇も手段もない。

となると、思いつくのは一つ。


もしもとしたら?

そうだとすれば説明がつく。そりゃあ進化した途端に経験値が入らない訳だ。

だが、理性ではわかっていても、頭が理解するのを拒む。

なんせ、もしその仮説が当たっているとしたら、

同種格上ということなのだから。


…とはいえ、いつまでも現実逃避をしていても仕方がない。

気は全く進まないが、再び上に行くとしよう。

そう思い階段に足をかけ、一歩一歩、慎重に階段をのぼる。


いつ魔物が来ても良いように、両手に抱えている「さびた鉄の剣」。

頼りないが、現状一番強い装備なのだから仕方がない。

あの冒険者も、もう少しマシな装備をしていてくれれば良かったものを。

顔も知らぬ相手に悪態あくたいを吐きつつ階段をのぼりきり、急いで周囲を警戒する。

…だが、前回ゾンビパニックばりに私を追いかけてきていた喧騒はどこへやら。

再び骨と骨が徘徊するだけの、ただの洞窟に戻っていた。


…とはいえ、当然スケルトンウォリアーはいる。

それも、前回と同じような位置に1体。

これはもう、やるしかないだろう。

とはいえ、相手は私と比べ2倍のステータス。

正面からでは、前回と同じように回避されるだけ。

今度こそ奇襲…不意をつく必要がある。


そっと、近づく。

いつ攻撃されても良いように、慎重に。

しかし、相手は私に気づいていないようだ。

もしくは油断しているのか?

どちらにせよ、好都合。




そのまま横に立ち、剣を振り上げ、






―全力で、振り下ろす。

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