第31モフり 朝の照り日、香る尻尾の匂い

「……ここはどこなんだ?」


 ――時は近い。


「何だか良く思い出せないような気が……」


 ――目覚めよ。


「何だ? 何か聞こえるような……」


 ――目覚めよ。


「誰だ! 一体どこに居るんだ!」


 ――第二の運命を背負うのだ。


「はぁ? どういう……」


 ――お前は鍵だ。


「何?」


 ――だがお前に必要な鍵はもう一つある。


「いやちょっと待て……」


 ――それは言葉の鍵だ。


「話聞けよ!!」


 ――それで心の錠前を開錠しろ。


「……何だって?」


 ――さもなくば直行だ。肝に銘じておけ。


 ◆


「……うぅ。眩しっ」


 俺は目を覚ます。布団から起き上がるとそこはどこかの和室の中だった。そして右側の障子から陽光の光が漏れ出ている。


「……朝? ふわぁ……。何か夢でも見てたような気がするけど、いまいち思い出せないな。まいっか」


 俺は眠いを目を擦りながら欠伸を掻く。起きたばかりで上手く頭の回らない俺は何をしたものかと考え込み始める。


「うーんと……。まずは……朝飯?」


 朝起きたら朝ご飯。これは世の常である。しかし俺はその朝飯を摂る部屋と言うべきだろうか、それがどこなのかも、ここがどこなのかも知らないことに気づく。


「……って、そもそもここがどこの部屋なのかもよく分かんねぇし。どこ行きゃあ良いんだ?」


 俺はぼけーっと、どうしようかそのままの姿勢で考えていると左側の襖が突然開き始める。


「やぁ起きたのかい? 青年」


 襖を開けて出てきたのは翠蓮すいれんだった。俺は取り敢えず挨拶する。


「あぁ翠蓮すいれんさん。おはようございます」


「おはようさん。それじゃあ早速で悪いけど朝ご飯の時間だからね、付いて来てもらうよ」


 挨拶を交わすと今度はどうやら朝食を摂る場所の案内までしてくれるようだ。まさに至れり尽くせりだ。


「はい。わかりました」


 そうして俺は彼女に言われるがまま付いて行った。そしてその道中にて、彼女が俺に話しかけてくる。


「そう言えば昨夜は良く眠れたのかな?」


「え? まぁそうですかね。特に寝付けが悪かったとかは無かったと思います」


 実際は良く覚えていない。だがそれはまだ寝起きだから意識が鮮明でない故かもしれないがな。


「そうかい、なら良かったよ。人に寄っては初めて来る場所というものに慣れず、寝付けが悪くなるそうだからね。大事無いのなら安心だよ」


 随分と気にかけてくれる彼女の言動に俺は違和感を覚える。とても人の体で勝手に人体実験して女体化させた人とは思えない発言だ。

 だが目の前に居る人物は紛うことなくその人である。この一見矛盾とも言える事実のすり合わせ……とどのつまり、その辻褄合わせで俺が辿り着いた結論はこうだ。


「……もしかして睡眠には拘りとかあるんです?」


 かつて彼女に関することで青葉あおばがこう言っていた。良く寝ていると、つまり彼女は睡眠が何よりの娯楽で、凄い拘りがあるからこそ、他人の睡眠事情さえも気になったのではないのかと……。

 俺の完璧な推理に対して彼女はこう答えた。


「ん? まぁそうだね。他よりかはあるかもね」


「そうなんですか」


 ザッツライト。どうやら俺の推理は正しかったようだ。最早これは名探偵の領域に片足突っ込んでいるのではないかと、俺は自身の天狗の鼻をそのように高く伸ばしていると彼女が目的地の到着を告げた。


「ここだね。着いたよ」


 そう言い切った後、彼女はその襖を開いた。そこには既に他の皆が居た。どうやら俺が一番最後だったようだ。……もしかして待たせたりとかしてたのかな?


「青年はあそこの席だ」


 彼女は俺が食事を摂る席の位置を指を差して教えてくれる。


「はい! ありがとうございます」


 俺はここまで案内してもらった彼女に感謝の言葉を述べて、言われた場所へ向かっていく。

 その時、狐朱こあけが彼女へ何かを聞く。俺には聞こえないように話す。


「して翠蓮すいれんよ。あやつは大事ないかの?」


「あぁ、君の望む通りにね」


「ほうか、なら良いのじゃ。ご苦労じゃったな」


「はいはい。労いどーも」


 そうして彼女たちの会話は終わり、翠蓮すいれんも食事を取るべく己の席へと向かう。

 その頃俺は丁度席について食事を取ろうとしていた。


「さーって、いただきまーす」


 俺は席に着いてさっそく目の前の朝飯を摂ろうとすると、隣に座っている狐朱こあけが俺に話しかけてきた。


「ほれ主よ、ひな鳥のように口を開けるがよい。妾がその口へ食べ物を運んでやろう」


 彼女は俺にそう言いながら俺の飯の皿を持ち、箸でそれを掴み、俺の口へ運ぼうとしてきた。

 俺は唐突にそのようなことを言われて驚くのと同時に、こんな他の人が居る前で堂々とそんな小っ恥ずかしい事を言われて頬を赤らめる。


「え!? いやそんないいですよ。別にそんなことしてもらわなくても自分で食べれますって!」


 俺はそのありがたすぎる申し出を断るも、彼女は引くことなくさらに押して参られた。


「まぁまぁそう遠慮せずとも良いではないか、良いではないか」


「うッうぅ……分かりましたよ。でも、流石の俺でも恥ずかしいので一回だけでお願いしますよ」


 結局彼女の押しに俺は根負けする。だが一回っきりという条件を付けた。彼女はそれに少し不服そうだったが俺の意を汲んでくれたようでその条件を了承してくれた。


「しょうがないのう。ほれ、あーんじゃ。あーん」


「……あーーん。……ん?」


 俺は彼女に言われた通り口を開けてひな鳥の如く待機したものの、彼女はすんでの所でそれを自身の口の中へ運ぶ。もぐもぐと彼女の口は動く。そして綺麗さっぱり食べきった所で心底不思議そうに俺に言ってくる。


「おや? どうしたのかの? 何じゃその間抜けな顔は? 狐にでも摘まれたのかの?」


 最後に彼女はニヤリと笑いながら俺にそう言ってのけた。俺はどうやら彼女にまたしても摘まれたようだ。俺は心の中で悔しさと、先程までの薄っすらどころかだいぶ抱いていた期待感を裏切られた気持ちを込めてこう叫んだ。


(こ、こいつぅううう!)


 ◆


「ふぅ食った、食った。ご馳走様でした」


 俺達は食事を終えた。

 食事を終えた俺はふと思った。そういえば阿久良王あくらおうを見かけていないなと。気になった俺は狐朱こあけに聞いてみることにした。


「……そういえば阿久良王あくらおうさん見かけませんけど、どっかに居るんです?」


「なんじゃお主。妾たちが居るというのに節操がないのう」


 彼女は俺をなりふり構わない変態か何かだと言わんばかりに言ってくる。正直それを否定できるかと言えば少々怪しい気もするがそんなことは決してないだろう!

 無論俺はそれを食い気味に否定する。


「いや別にそういうつもりじゃないですよ! ただ見かけないから気になっただけで……」


「何もそう焦るでない、主よ。それでは余計に怪しいものじゃぞ」


 どうやら食い気味に否定してしまったのは悪手だったようだ。俺は何と言い直そうか、何と否定しようか思い考えるも、最早もう手遅れだという事実に気づき、ぐうの音しか出なかった。


「ぐぬぬ」


 俺がそう困り顔をすると、彼女は変わらず明るい口調で先程の質問にようやく答えてくれた。


「そう顔を歪ませるでない。あやつならば同じくこの屋敷内にて気長にしておるわ」


 それを聞いた俺は感謝の言葉を述べる。

 しかしもう少しスムーズに答えてほしかったと、そう不満を心に思いながらだが……。


「そうなんですか。ありがとうございます」


 すると彼女は立ち上がりどこかへと行こうとする素振りを見せてこう言った。


「さて、話も済んだようじゃし。妾は少し散歩でもするでな。主もゆっくりとしておるが良い」


「はい。分かりました」


 そして俺は他の皆と離れ離れとなった。

 一人になった俺はここからどうしようかと考える。特段何かする事というのも思い浮かばない。果てしなく暇。ただそれだけが頭の中にあった。


「……さてと、どうしようかな。……試しに阿久良王あくらおうさんに会いに行ってみるか」


 俺は先程の話で上げた彼女の場所へ行ってみることにした。思えば彼女とはあまりちゃんと話したことはない。彼女がどういう人物なのかを知るには良い機会かもしれないと、俺は勝手にそう思った。

 だが一つだけ問題が合った。


「……そういえば俺、この屋敷の間取り把握してないんだったな。……どうしたものか」


 そう、俺はこの屋敷……。客人用の屋敷か御饌津みけつの屋敷かどうかは良くわからないが、少なくともここの主は彼女であろう。その間取り図を体感で理解していないのだ。

 別に誰に教えられた訳ではないのだから当たり前と言えばそうだが、どこもかしこも襖で閉じられているためにどこを開けて良いものか悩ましいのだ。下手したら開けてはイケナイ場所だったとかなんてあるかもしれない。

 ……客人を招く場所にそんな部屋あるのかと問われればまぁ……確かに無いとは思うが、そこに知らない誰かが居たらどうだろうか? だいぶ気まずいだろう?

 と、いうわけで俺が悩んだ末に導き出した答えは実にシンプルであった。


「そうだ! 普通にそこらに居る神使さんに聞いてみるか」


 そうして俺はその神使さんを見つけ次第、お店の店員さんに捜している商品の位置を聞く感覚で聞くことにした。

 しばらく廊下を歩いてみると何やらここの神使さんらしき人物を発見する。俺は少し駆け足気味でその人の下へ向かって話しかける。


「すみませェん。ちょっと良いですか?」


「はい。……あぁ、あなたですか。何です? 何か御用でも?」


 俺が話しかけた神使さんは髪色は主には薄めの錆浅葱さびあさぎ色だが横髪は薄めの梅鼠うめねずみ色で、右目は薄めの錆浅葱さびあさぎ色、左目も薄めの梅鼠うめねずみ色というオッドアイだった。

 彼女とは初対面のはずだが、どうにも俺のことを知っている口振りだ。俺はそれに若干驚きつつも、そもそも俺は今ここの客人として居るのだから逆に知らないはずがないだろうと勝手に納得する。


「え? まぁいいや、その阿久良王あくらおうさんの所まで行きたいんですけどお部屋がどこにあるか教えてくれませんか?」


「はぁそうですか。分かりました。それでは御案内致しましょう」


 その神使さんは若干気だるそうに答える。……だいぶ不真面目そうな雰囲気を感じる。そんな態度に俺は意外だなと感じつつも感謝の言葉を述べた。


「ありがとうございます!」


 俺は元気良くそう言うが、それに対して彼女はどこか納得していないような表情をしていた。何か変だっただろうか?


(何なんですこの人間? 昨日のことはまるで無かったような態度。……ま、興味無いのでどうでも良いですけど)


 そうして俺は彼女の後へ続く形で阿久良王あくらおうが居る部屋の場所まで案内してくれた。


 ◆


 それからしばらくして、目的地へと到着する。


「こちらになります。……それと昨夜の事は姉様含め申し訳ありませんでした」


 昨夜の事? 一体何のことかわからないが、俺は取り敢えずここまで案内して貰った事の感謝の気持ちを伝えねばと思った。


「ん? 何のことか分かりませんが道中案内していただきありがとうございます!」


「……そうですか。まぁいいです。それでは」


 俺のその言葉に何だか腑に落ちないと言いたげな反応を彼女は示し、そのままどこかへと去っていった。

 俺は彼女が行っていた昨夜の事は何だったのだろうと考える。


「……昨夜の事? うーん、あの子と会った記憶無いよなぁ? まぁいいか! 別に何でも!」


 わからないことは考えたって仕方ない。そもそも人とは自身の知らぬ所で他人に迷惑を掛けていたりするというもの、そういうことだってある。

 それよりも今は阿久良王あくらおうへ会いに来たのだから、さっさと当初の目的を進めることにした。


「すみませぇん! 阿久良王あくらおうさん居ますか! ていうか入っていいですか?」


「お、おぉ? あ、ああ、いいぞ」


 俺の問いかけに彼女らしき声が返ってくる。だがどうにも歯切れの悪い言い方だ。中で一体何が起きているのかは知らないが、とにかく入って良いそうなので俺は入ることにした。


「失礼しまぁす。って」


 襖を開いた先にあったのは、横たわっている阿久良王あくらおうに按摩をする瑚滑こなめであった。


「あれ、お兄さん! どうしたんです?」


 こちらに気づいた瑚滑こなめが話しかけてくる。

 だが俺はそれよりもどう見たってマッサージの最中だという様子に本当に今いいのか聞き直してしまう。


「え、良いんですか? 今施術中じゃ……」


 俺の問に彼女は横たわっている所為か気の抜けた声で返答する。


「ああ、別に構わんさ。それで何用だ?」


「ええっと……その特に用がある訳じゃないんですが、ちょっとご挨拶をしに来たというか」


 俺は一瞬何か用事でもすぐにでっち上げようかと思ったが……何も思い浮かばなかったので素直に話してしまう。


「ああ、何だ。そんな……んっもんか。んで何用だ?」


 彼女は何故かまた同じことを質問してくる。今それを話したばかりのはずなんだが……。これは恐らくだが、瑚滑こなめによるマッサージで骨抜きになった彼女は一時的に思考能力が低下している可能性がある。……なんと末恐ろしい。


(今それを言ったような……どうやら頭が回っていないようだな)


 このままでは平行線のまま一向に会話が成り立たない可能性があるため、彼女の脳に刺激になりそうな話題を考え、そして思いつく。


「えーっと、それじゃあ……。これ聞いて良いのか分からないんですけど、阿久良王あくらおうさんの固有妖術を教えてくれませんか!」


 俺は以前、青葉あおばから教えてもらった妖術に関する話で出てきた固有妖術。彼女が持っているであろうそれについて聞いてみたのだ。


「ん、んお? 何で?」


 どうやら俺の目論見通り少しは刺激になったようだ。俺は話を続ける。


「まぁ別に深い意味とかはなくて、ただの興味本位なんですけど……駄目ですかね?」


「ん、んん……。ま、いいか。いいよ、教えたる」


 どうやら俺に彼女の固有妖術を教えてくれるようだ。しかし頼んでおいて何だが、そんなホイホイと言って良いものなのだろうか? やはりまだ彼女の頭の中はトロトロなのかもしれない。


「儂の固有妖術は鑑識眼妖術かんしきがんようじゅつっていう狐の窓の強化版みたいなのだ」


「へぇ……それってどう凄いんです?」


 狐の窓と言えば手でその形を取り、その指の間に出来た空間から世界を覗き込むと、人間に化けた妖怪や本来は目に見えぬはずの周囲に隠れ潜んで居る妖怪といった存在を見ることが出来るという……あまりやらないほうが良いやつのはずだ。

 その強化版とはどういうことなのだろうか?


「んーっとまぁ、実際使いどころっつうのはまぁそうそうねぇな」


「だが、どんなに擬態能力高くても儂の妖術にかかれば絶対! 間違いなく見抜ける! ……そういう自信だけはあるな」


 彼女はそう自身満々に答える。確かに戦闘向きではないし、その真価が発揮されるという場面というのもそうそう無いのかもしれない。

 しかし人間よりも遥かに幾千の時を生きるであろう彼女たちにとって決して微妙な能力というわけではないはずだ。


「はぇ……。それは確かに凄いですねぇ」


 そう感心する俺だったが、頭の中に一筋の稲妻が舞い落ちる。

 それは彼女の能力を使えば……俺の中に眠っているであろう何かスーパーな才能とか、そういう隠されし力みたいな物凄いものが分かるかもしれない。

 実際本物の狐娘に巡り会えたという揺るがぬ事実が存在するのだ、恐らくこの世で一番幸運なオーラでも身に纏っているのかもしれない!

 というわけで俺は期待で胸をいっぱいにして彼女に言った。


「それ……俺に使ってみません?」


 俺は目をキラリと輝かして言った。彼女は俺の提案に対して呆れたように反対する。


「はぁ? 何で? 別にお前に使わんでいいだろ。それにお前がどう思っているかは知らんが儂の妖術はそう派手なもんではないぞ。やるだけ無駄無駄」


 キッパリと無駄と言ってくる彼女に対して俺は引けを取らず返答する。


「えぇ……でもでも、もしかしたら何かあるかもしれないじゃないですか! こう秘められし力が眠っているみたいな!」


「儂の妖術は才能を見抜くわけではないのだが……まぁいいさ。やるだけやってやる」


 俺の熱の籠もった言葉に根負けしたのか、彼女は俺の要望を聞き入れてくれた。


「よろしくお願いします!」


「はいはい。……真なる者はかの地にて、顕現たる者共はよこしまなものをこの眼に宿したる力で全ての皮を取り去る……拝観悟視はいかんごし


 気だるそうに詠唱を終えた後、彼女の目が蒼く光って見える。どうやら俺の中に眠っているかもしれないものを見ているようだ。

 ……彼女は俺を見つめる。……しばらく見つめる。

 待ちきれない俺は口早に聞く。


「……どうです! どうです?! 何かあります!?」


「…………特段何も無いな。さぁお前の夢物語も終わりだ。さっさと行け、全く余計な妖力削ぎやがって」


 沈黙の末に出てきた回答は何とも寂しいものだった。彼女が俺を見る気だるそうな顔はピクリとも変化しなかったし、本当にそうなのだろう。

 そして彼女にここから出ていくよう言われた俺は余計な手間を取らせた謝罪の言葉とともに出ていったのだった。


「ウェ! す、すみませんでした。それじゃあ失礼しました。」


 そうして俺が部屋から出ていった後、彼女たちは何か会話をしていたようだ。

 俺が居なくなって少ししてから彼女が口を開く。


「……何だアレ。……なぁ瑚滑こなめよ。あいつから出ている黒いもやは何なんだ? あれ呪いの類じゃねぇの?」


 彼女は時哉ときやから醸し出ているものに良くないものだと感じたが、それを狐朱こあけが見落とすはずがない。そしてあの呑気な様子から彼はそれについて何も知らないことを察した。

 ということはつまり、あれは今すぐどうこうできるものではない。だから変にその事を告げて不安がらせるのは良くないと彼女は彼に何も異常はないと嘘をついたのだ。


「……さぁ? お姉ちゃん達の方が詳しいと思います」


 その問に瑚滑こなめは自分は良く知らないと何の気無しに答える。それを聞いた彼女は取り敢えず今すぐには知ることができないのだと諦める。


「……そうかい。んじゃ後で聞くわ」


 一息置いて、瑚滑こなめは明るく元気に切り替え始める。


「それじゃあ施術の続きをしますね!」


「あぁよろしく頼むわ」


 ◆


 阿久良王あくらおうの部屋から出た俺はどこへ何をしに行こうかと思い悩む。


「さぁて! 次はどうしたものか……。スマホで動画視聴したりとか、ネットサーフィンとか出来ないしな」


 当の果に俺のスマホの電源はシャットダウン。つまり電池が切れているのだ。それにそもそも圏外だろうから禄に使えはしないとは思うけどね。

 だがまぁせっかくこのような場所に居るのだ、隅々まで探索し尽くすような少年の如き心の持ち用で楽しく居るべきだと俺は思った。だからもう少しこの廊下を進んでみることにしたのだった。

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次回予告 昼の面影、目に映るはオレンジ玉と尻尾

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