第30モフリ 怒髪天! 尻尾の逆鱗に触れる
由緒正しき神使の狐である少女――
(一体どういうこと!? あの
彼女は先程
そもそもどうやってこの
(一体何で……――ハッ!! もしかしてあの人間は
彼女の中でさらなる妄想が広がる。そしてそれと比例するように彼の評価はドン底へと落ちてもいた。彼女はさらに深読みをしていく。
(だとすると……。
このまま
(あれ? でもそれだとあの人間が
もしあの人間が本当に罪人だとするならば、監視を怠ったり、単独行動させるのを許すというのはおかしい。これは明らかな矛盾であると考えた彼女は天才的な辻褄合わせという名の合理的回答を思いつく。
「ハッ! 分かったわ! きっとあの人間が小狡い事でもしたのよ! きっとお優しいあの方々はそれを
あまりにも彼女にとって納得のいく素晴らしい答えに、彼女はそれを思わず声に出してしまう。
「だったら言われた通りにさっさと帰しておかないと!」
ルンルン気分で彼女は歩を進み始める。そしてそれを見ていた
「……良く分からねぇがこのまま付けるとするか。……にしてもあの野郎はほんと世話が焼けるな」
◆
「それじゃあ続き……しようか」
俺はその言葉を聞いて酷く鼓動が鳴り始める。一体何がどうなるんだというドキドキは期待なのか困惑なのか、もう分からない程ぐちゃぐちゃだ。
そんな俺の様子を見てか、
「まぁでもこれ以上君の耳を舐めてたら君の頭がおかしくしなっちゃいそうだし、趣向を変えようか」
「え?」
趣向を変えるという言葉に俺は理解が出来なかった。もはや先程の事があまりにも刺激的すぎて俺の心はほぼ溶けていた。
そんな俺に構わず彼女は軽いノリで話し続ける。
「……うーんとね。それにはまずこの邪魔な荒縄を
先程は勿体無い等と言っていたのにも関わらず、彼女は俺を縛っていた縄を
「よしッ! それじゃあそのまま足伸ばして、膝枕してもらおうか」
「膝枕? ……あ、俺がするの!?」
なんと彼女は俺に膝枕を要求してきたのだ。普通逆では? と、思うところもあったが……もはやそのような些事なぞどうでもいい事だと思わざるを得なかった。
(逆膝枕ってことだよな? ……本当に趣向が急転回したな)
俺は大人しく足を伸ばす。
すると彼女は嬉々として反応する。
「そうそう! それじゃあ失礼するよ」
「あぁはい」
彼女は俺の膝の上に頭を乗せてくる。……本当にどうして急にこうなったのだろうか? 考えるだけで頭痛に悩まされそうだ。
「……何してるんだい? 頭も撫でて」
「はい……」
俺は言われるがまま彼女の頭を撫でる。すると、なんだか幸せそうな顔をするもんだから……もう全てがどうでも良くなってきた。
(なんだか猫みたいな人だな。いや狐はイヌ科だな。……いやいやそういうことではないな……気分屋ってところか?)
俺は彼女の頭を撫でながら小さな独り言を上の空に向けて呟く。
「何だか初めて味う気持ちだ……。自分が癒されるっていうのではなくて、自分が誰かを癒すことになるとはなぁ……」
「いや、こんな自分でもそういう事ができるんだっていう小さな感動のような気持ちかな? 何だか照れ臭いけど……」
自分が癒される。そういう感覚は望んでいたものだし、誰もが望むことではある。というか寧ろ俺こそが癒されるべきみたいな気持ちさえあった。
だがどうだろうか?
今あるこの現状は?
俺が他人を癒しているのだ。自分が癒される姿は想像できても、自分が誰かを癒すなんて考えてもみなかったし、できるとすら思ってもみなかった。
俺はもしかしたらかなり独りよがりな考え方をしていたのかもしれない。
「癒す……か。ある意味、俺を初めて気にかけて、癒したりあやしたりしてくれていたのは俺の母親だよな……」
俺は自分の母親……両親について思い出そうとする。俺を生んで育ててくれた人達、かけがえのない家族。……そうそれほど大切な家族を俺は――せない。
「……あれ? そういえば俺の母親っていうか……親って」
――どんな顔してたっけ?
◆
そして彼が閉じ込められている倉庫の近くに
彼女は見張りとして置いてきた
「あれ?
「……ほーん。ここに居んのかアイツは?」
「そうよ! ここに例の人間が……って、え?」
彼女は不意に後ろから話しかけられ、驚いて振り向く。そしてそこに居たのは先程話した
「よう。またあったな」
「え、え? ど、どうしてここに?」
動揺している彼女とは裏腹に、
「尾行した。……んでここになんだって?」
その質問に彼女は歯切れが悪そうに正直に答える。
「えーっと、その……例の人間が居ましてぇ」
「何でここに居るのかはともかく、どうして嘘吐いた?」
その理由は嘘を吐いた理由と直結していると、そう考えたからだ。
「えっとぉ……ちょっと驚いてしまって、つい」
「つい嘘吐いたと?」
「……はい」
「……良く分からねぇがまぁいい。取り敢えず全部話してもらおうか? いいか全部だぞ? 全部だ」
それを聞いた
「
「す、すみませんでした!! まさか人間の方もここのお客様だなんて思わなくって……」
彼女は自分が犯した過ちに気づく。それゆえ、彼女は誠心誠意頭を下げて謝る。
「はぁ……。たくっ、面倒くせぇな。まぁでもここに居んだな?」
「はい。あたしがここに閉じ込めました」
「まぁもう反省したんなら今日のところはもういい帰れ。後日ちゃんとアイツにも謝れよ。いいな?」
「はい! すみませんでした!」
そう深々と頭を下げて彼女はどこかへと去っていった。
◆
先程までの陽気さは一変して
「はぁ……まさかあの人間が来賓の一人だったなんて……」
「あ、姉様」
すると向かい側から
「あ!
「すみません姉様。ちょっと
彼女の様子を見てそう思ったのか、
「えッ?! いや、別に……それよりも! あの人間のことはもういいわ! あとで……まぁ謝っときなさいよ」
「え? それはどうしてですか? やはり何かあったのですか?」
いつもと態度が急変しているため、ますます質問される。
それを彼女はどうと答えることなく強引に押し切る。
「いいから! コソッと謝っときなさい!! コソッと!」
「はぁ……? わかりました。姉様」
◆
「……はぁ。さて、さっさと連れ出すか」
その時彼女は衝撃の光景を目にする事となった。
「おーい、助けに来……は?」
そこには勿論俺……いや
彼が彼女の存在に気づき話し出す。
「あ、
「……何がなんだか良く分からねぇが、おい
「…………」
彼女の問いかけに
それに
「あ? おい、どうした」
「寝てますね」
どうにも先程までお酒を呑んでいたのもあってか、彼女は彼の膝の上で夢の世界へととっくに
「……舐めた真似しやがって」
「……う、うーーん。ちょっとやめてよ
彼女は目を覚ます。そして目を開いた先に写ったのは、しかめっ面の
「おはようサボり魔クソ野郎。お前何してんの?」
「え! あっ……あはははは。……べ、別に変なことじゃないよね? ね?」
焦りながら助命を乞うかのように彼女は喋る。
だがその言葉に
「……」
「え? 何、なんか言ってよ!? ちょ、やめ! 足! 足引っぱらないで! ねぇ!? 助けてぇえええ!!!」
「……まるで嵐が去ったようだ。……帰るか俺も」
そう言って彼はその倉庫から出る。
すると、扉から出たその瞬間に横から誰かに話しかけられる。
「主よ。息災であったか?」
そこに居たのはニコリと笑っている
驚かせるように現れた彼女に彼は思わず驚いてしまう。
「うわ! ビックリしたぁ……。
「まぁ……そうじゃな。もう良いじゃろ? 戻ろうではないか」
さっさと帰ろうと言う彼女に彼は待ったをかける。
「ああそのッ……その前になんですけど少し良いですか?」
「なんじゃ? 構わず申してみよ」
「ええと、俺そろそろ家に帰って親を安心させないといけないなって思って」
「……どうしたのじゃ、突然かような事を申すとは」
彼女は急にどうしたのかと彼に尋ねる。
それもそうだ、このような夜更けに急に帰りたいなどと言うのはおかしいし、それに今言うべきことではないのは確かだからだ。
だがそれは彼自信も分かっていることだ。ではなぜ今言うのか? それは今、言わねば忘れてしまいそうだったからだ。
「いや、俺も正直今更この事を言うのも変だとは思うし、どうして今までそうしようと思えなかったのかよく分からないんですけどやっぱり、俺がいないと悲しませるじゃないですか……」
「勿論! 今戻っても確実に怒られるだろうし、色々あるのは分かってます。だから……」
彼はふと彼女の顔を見た時、朧げながら悲しそうな顔をしていた様に見えた。
声色は変わらず、彼女は言う。
「……いいじゃろう。では転移の鳥居を開くがゆえ、後ろを向くが良い」
「え、はい……――ッ!」
後ろを振り向いた瞬間、彼は気絶してその場に倒れ込む。
気絶した原因は勿論彼女……
彼女は倒れた彼の側まで近づいてしゃがみ、彼の横顔に自身の顔を少し近づけてこう言った。
「……主よ。いや……
そして彼女は倒れ込んだ彼を持ち上げる。
すると、彼女の後方から声が掛かる。
「随分と強引じゃないか、
その声は建物の縁側の角、柱の辺りに立っていた
どうやら彼女は事の一部始終を見ていたようだ。
「……なんじゃ。何か言いたいのかの?」
「いや別に。ただ……そんなんじゃ失った時、また辛いよ?」
その言葉を聞いた彼女は、感情的になったのか声を低くして答えた。
「……もう失わぬわ。たわけ」
その言葉はまるで
「ただ……そうじゃの、どうにも術が少し甘かったようじゃ。掛け直しておくかの」
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次回予告 朝の照り日、香る尻尾の匂い
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