第26モフリ 神使のツイン尻尾は毒舌

「えッ!? 御饌津みけつさんって、あの稲荷大明神だったんですか!?」


 俺は和風な屋敷の広間にて宴会型の夜食を食べている。その最中に青葉あおばから俺が会った人物の正体を教えてくれたのだ。


「なんだお前、知らなかったのか? ……まぁそんなもんか、わざわざ教えるようなやつじゃねぇしな」


 そう言って彼女は食事に戻り、米をかきこみ始める。


「ふぇぇ……マジかぁ。俺結構フランクに話しちゃったけど大丈夫ですかね? 祟りとかなんか後で来ませんかね?」


 俺の中で神様という部類は基本的に後々になって災いをふっかけて来るという中々読めない存在と認識している。だからその場では怒らずとも実は根に持っているタイプというわけだ。


「来ねぇ来ねぇ」


「ほんとにほんと?」


 すると、俺がうじうじと聞き返したためか彼女の中で何かが切れ始める。


「来ねぇつってんだろ! はたくぞコラッ!!」


「ィッ! す、すみませんッ!!」


 怒られた俺は少し情けない声を出してしまうと同時に耳と尻尾が『ビーーンッ!』っと、勢いよく伸びた。なんとも我ながら情けない姿だ。


(お、怒らせてしまった。なんだろう、食事中だからいつもより短気な気がする……。何ていうか、さながらそれは動物的だな。いや野性的か? 取り敢えず祈りながら俺も食事に戻ろう)


「……何もありませんように」


 俺はそう呟き、食事に戻ろうとするも俺の身に異変が起こる。


「ウッ!!」


 俺はうめき声と共に腹を抑え始める。


「ん? お、おいどうした?」


 あからさまな俺の身の異変に、先程キレたばかりだというのに彼女は俺の身を案じる言葉を投げかけてくる。一方で俺はそんな事に応答することすら出来ないほど余裕がなかった。


(は、腹が痛い! こ、こんな時にぃいい!! ウッぐうぅふ!! ト、トイレに行かねば……!)


「ちょ、ちょっとトイレ行ってきます……!」


 俺は痛みを我慢しているため、まるでうなるような声で言いゆっくりと席を立つ。


「お、おう。……トイレは角にあるからな」


「は、はいィ。アリガトウゴザイマス」


 辛抱たまらない俺は小声なのもあってカタコトで言った。だがそんなことがどうでもいいほど痛い。痛くてしょうがない。下手したら漏らす。


(い、急げぇエエエ! ま、間に合わなければッしゃ、社会的に死ぬぅうう!!!)


 この時のトイレ目掛けて小走りで廊下を歩く俺の顔は焦燥感と危機感でいっぱいだったがために、顔が面白い鬼の形相だったという。



 俺はなんとか無事にトイレにたどり着き、用を足せた。

 そして俺は今、洗面台にて手を洗っている。


「ふぅ……助かったぁ。……はぁ。腹が弱いってのはホント嫌だな」


 俺は昔から、それこそ小学生の頃から腹が弱く。気温の変化や寒さやストレスといった要因でよく腹を壊したものだ。それで登校中、近場にトイレが無い時に腹を下すために学校のトイレまで間に合わず……なんてことも。ま、まぁでもギリギリ片手で数えられる程度だし……中学生時代を含まなければだが。そして試験中や試験当日に腹を下すなんてのもそれなりにあった。とまぁそういうわけで俺の腹はとても弱い。ほんとに調子が悪いとトイレのし過ぎで肛門が痛くなっても、また腹壊してトイレなんてよくあることだ。


(どうしてこんなに腹弱いんだ俺……)


「ま、いいか。取り敢えず今回はまだマシなほうだし。……はぁ、トイレしてんのに、出そうとしてんのに腹がキリキリして痛くなるとかほんと嫌だ! 何でだよ! こちとら必死に出そうとしてんだよ! なんで逆に痛くなるんだよ、ゴラァッ!!」


 思わず愚痴がこぼれてしまう。腹の痛みというのはしつこいし、状態に寄ってはかなり痛いから腹痛を起こしやすい身としては悩みのタネでしか無いのだ。特に、試験中といったどうしても抜け出せない大事な時ほどなるからマジでムカつく。


「ハァ……ハァ……。ま、今に始まったことじゃない。こういうのは受け入れるしか無いんだ、自分の肉体だし」


 そうして俺は本来、用を足してスッキリするはずなのに悶々と暗い気持ちのままトイレをから出た。


「えっと……さっきの部屋って何処だっけ? 多分こっちだったよな」


 そう思い歩を進めようとした時、別方向から声がかかる。


「おい! そこの人間! こっち見ろ!」


 俺は声が聞こえた方に顔を向ける。なんだか高圧的な物言いにあまり良い予感がしない。そんな不安と一抹の好奇心が俺の心を揺さぶる。

 その先に居たのは二人の狐娘の姿だった。


 (同じ顔……双子かな? 横柄な態度満載の顔で腕組んでる赤髪みたいな奴は姉っぽそうだな。それでその姉を盾にして後ろにいる水色っぽい髪色の娘が妹か?)


 その双子の髪型は同じくぱっつんボブで前髪はやや片目隠れ。姉らしき方の髪色は主には薄めの梅鼠うめねずみ色だが横髪は薄めの錆浅葱さびあさぎ色で、右目は薄めの梅鼠うめねずみ色、左目も薄めの錆浅葱さびあさぎ色というオッドアイだった。妹の方は姉の髪色と瞳の色の配色が真逆だった。


「えっと、何か?」


「あ! 今認めたな! 自分が人間だって! 何しに来た! ここはお前みたいな下賤なモノが来れるような場所じゃないんだぞ!」


(げ、下賤ッ! なんて失礼な子だ。これは懲らしめなければ……。……いや、あながち間違ってないかもしれない。俺、自分が下賤じゃないってあんまり言えな……いやいや! まず彼女らは俺のこと何も知らないはずだし、勝手な偏見で言っているに決まってる! 落ち着け俺、流されるなよ)


 一瞬、彼女らの言っていることに納得しかけるも、俺はこう言い返してやった。


「誰が下賤だ! 俺はそんな醜い心は持ち合わせて無いつもりだぞ!!」


 俺に負けじと彼女はすぐに言い返して来る。


「うるさいやい! 人間は往々にして下賤だァ! それに耳と尻尾を生やすことで他の皆を騙すなんていう卑怯で小癪な真似をしている時点で下賤以外の何物でもない!!」


「は? 耳と尻尾なんて……あ、そうだ俺今生えてんだった」


(なんかついつい忘れちまうなってか、まだ残ってるのか。あーなんか勘違いされてるみたいだし……どうしようか。この様子だと、何を言ってもまともに聞いてはくれ無さそうだしなぁ)


 俺がどうしたものかと考えていると、妹っぽい方が姉っぽい方に相談し始める。


「あっ姉様、どうします? こういう時は他の皆さんに早急にお伝えしたほうが……」


「何言ってんのよ、和倉わくら! アタシ達だけで解決するに決まってるでしょ! そしたら御饌津みけつ様に褒めてもらう絶好のチャンスなのよ! それにアタシ達は御饌津みけつ様専属の見習い神使なんだから!」


 どうやら、俺の予測通り双子の姉妹だったようだ。しかも、どっちが姉か妹かも当たってるようだ。


「……。なぁ、もう良いか? 俺今腹減ってんだ。出したばっかりでよ」


 俺がそう話しかけると姉の方が俺の顔を「キッ!」っと睨みつける。


「良い訳ないでしょ! さぁ覚悟しなさい!」


「私は姉様に従います」


(えぇ。……見た目は子供っぽいが、神使なんでまぁまず勝てるわけ無いだろうし、逃げるしか無いが……それも無理な気がする。ここはそうだなぁ……閃いた!!)


 この時の俺は絶対成功する最高の作戦を思いつく。最高の切り札を手にした俺は自身有りげな表情でそれを実行する事にした。そんな俺の顔色を見てか、あの姉妹も警戒心をあらわにし始める。だがもう遅いわ!! うおおお!!!


「すみませんでしたーーー!! どうぞ! お縄! つけちゃってください!!」


 俺は盛大にその場で土下座、彼女たちに向けて両手を差し出した。


「……え」


「あ、姉様これって……?」


(クククッ困惑しているな。そう! これこそが俺のすーぱーで、はいぱーな作戦。抵抗して怪我するくらいなら始めからしない……だ!!)


 俺は心のなかでほくそ笑む。戦わずして負ける。これが弱者の選択だと言わんばかりにだ。実際色々とあーだこーだとせずとも、後で狐朱こあけや皆がなんとか誤解を解いてくれるはずなので、どうとなっても大丈夫という考えがあったためだ。


「さあ煮るなり焼くなり好きに――へぶッ!?」


 突然俺の後頭部に強い衝撃を感じる。そのまま俺の意識は暗闇へと沈んでいった。その最中、わずかに声が聞こえる。


「何なんだこの人間? まぁいいお陰で楽に引っ捕らえたというもんだ。さ、コイツ運ぶぞ」


「はい、姉様」


 一体俺は……どう……な。


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☆や♡といった感想等々よろしくおねがいします!!!

さすればあらたな世界が広がるだろう……!


次回予告 無尻尾鬼蛇暗躍

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