第24モフリ 門戸を叩く尻尾達

 ――諸事情により二手に分ける事となった一行の狐朱こあけ達の動向を記した物となる。


 その後、『狐朱こあけ』『青葉あおば』『喜久彌きくや』『翠蓮すいれん』の四人はこのみやこの最奥に位置する巨大な建物へと向かっていた。

 その道中にて、両手を頭の後ろへと回しながら歩いていた喜久彌きくやが先頭を歩く狐朱こあけに話しかける。


狐朱こあけちゃんさ、どうしてわざわざ二手に分けたのさ?」


「何、先程も言ったように突然の訪問じゃからな。如何せんすぐに会うことは叶わんのじゃよ。まぁ、来たことを伝えさえすればすぐに会えるとは思うんじゃがの」


 さもありなん、と彼女は答えた。それを受けた喜久彌きくやは「ふーん」といった反応を見せる。


「なるほどねー。やっぱ忙しいんだね、御饌津みけつ様は」


「ま、そうじゃな」


 すると次に翠蓮すいれんが彼女に質問する。


「それはいつものことだから別に良いんだけどね。ただ気になることがある」


「なんじゃ? 翠蓮すいれん


 翠蓮すいれんは珍しく少し真面目な様子で彼女に訪ねた。


「それにしたってどうしてこのメンツなんだい? 訪問するだけなら一人でも事足りと思うけど? それに阿久良王あくらおうさんを連れて来なかったのは気になるね。彼女こそ今回の事件の被害者なのだから」


 その質問にやや真剣な顔で彼女は答えた。


「……ぬしたちも知っておろう? 特にわらわ含めてぬし達が一番分かっている事じゃろうからな」


 ハッキリとは言わない含んだ物言いで彼女は答えた。


「……この前の阿久良王あくらおうの件だけじゃなく? なら……かい?」


「ああそうじゃ。……して、青葉あおばぬしの言う通り、奴らは急に逃げたんじゃな?」


「ああそうだが……おいまさか」


 今まで何のことか分かってなかった青葉あおばもそれを聞いて何かを察する。それに答えるように彼女は喋る。


「恐らくじゃがその虎熊なるものが気づいたのやもしれぬ」


 それに対して青葉あおばは反論する。


「だけどよ! わかった所で何でわざわざ逃げんだよ! 別にそこまであいつらにとって大事なことじゃねぇはずだろ?」


 その疑問に彼女も概ね賛同する素振りを見せる。


「まぁそのはずなのじゃが……今回のことは正直な話、読めぬ部分が大きいのじゃ。万が一もあるからの」


「……ハァ、随分と厄介なこって」


 思った以上に事態は難解化しているようだ。


「ほっ、そろそろじゃな」


 そうこうしている間に彼女たちは目的の建物の玄関の門へと辿り着いた。それは大内裏だいだいりへと入るための門であった。大内裏だいだいりより外の街並みは所謂修行の場とも言える場所であり、雑多なものである。しかし大内裏だいだいり内部には熟達した神使の狐が主におり、このみやこの中心的な建造物である。そしてこの大内裏だいだいり内に御饌津みけつ宇迦之御魂神ウカノミタマノカミで知られる稲荷大明神その人が居るのである。


 そしてそこの門番をしていた者が彼女たちに話しかける。


「ここより先は神足地しんそくちです。許可が無ければ入れません」


「なれば御饌津みけつに言ってやれ、狐朱こあけが来たと」


「は、はい」


 すると門番はポケットから木製のスマホのような物を取り出して内部の人と連絡を取り始めた。


「ま、これで何とかなるじゃろ」



 門番からの連絡を受けた者が例の『御饌津みけつ』に確認を取る。


御饌津みけつ様、門番から連絡があり貴方様に訪問者だそうです」


 御簾みすの先にいる御饌津みけつが反応する。


「何ね?」


 おっとりとして上品な声には厳格な佇まいを感じるものだった。


「その、狐朱こあけと名乗る者がおいでになっております。いかが致しましょう」


 その問いかけに彼女は一拍置いて答えた。


「何やあの娘かいな。ええよ、早うお通し」


「はっ」


 それを受けた彼女の側仕えは門番に連絡し始める。その間に彼女は独り言を呟く。


「あの娘が幾年振いくとせぶりにここにやるとはの。……中々どうして嬉しいもんやわなぁ。やけど、これはあんましよろしゅうないんかもしれへんなぁ」



 再度連絡を受けた門番はそれを狐朱こあけたちに伝えた。


「通って良いそうです。どうぞ、今門を開けます」


「そうか、ならば……どうしようかの」


 彼女が思った以上にすんなり開いたものだから、どうすべきか迷い始める。

 それを受けて翠蓮すいれんが呟く。


「意外とすんなり開いたね」


 それに乗じて青葉あおばも喋る。


「どうすんだよ? あいつら今すぐ呼び戻してくるか?」


 狐朱こあけは目を細めて「うーん」っと悩むもすぐに答えを出す。


「まぁ、そうじゃの。取り敢えず入るとしようかの。……まぁ、あやつらはあやつらで何とか時間でも潰しているじゃろうて」


 彼女たちはひとまず、この建物内に入って御饌津みけつと会う事としたのだった。

 そして大内裏だいだいりへと入った後、その中にある内裏だいりと呼ばれる場所へと入る。


 ――ここで、このみやこの構造を簡単に説明しよう。

 まず、イメージ的には大内裏だいだいりとは所謂貴族が中心的に住む場所、その中でも内裏だいりは王族が住む場所で、大内裏だいだいりより外の街は一般人が住む場所という感じのものである。

 因みにこの説明もわかり易くしたものであるため、残念ながら完全にその通りというわけではない事を念頭に置いて欲しい。



 さて、狐朱こあけたちはその内裏だいりに住む御饌津みけつと面会するのだった。御簾みす越しではあるが知れた仲であるため、かなり会話はフランクなものだった。そして彼女の両側には側使えの双子の狐娘が居た。


「随分とまぁ……お久しゅうどすなぁ、狐朱こあけ? それに他の娘も一緒みたいやね」


 物腰柔らかい声が主に狐朱こあけに対して向けられる。それに対して狐朱こあけは少しばかり冷ややかな反応をする。


ぬしも元気そうで何よりじゃ御饌津みけつよ」


「ほんに相変わらず冷たいわぁ。何百年うてないと思ってますん? もうしばし嬉しゅうしはっても良いとは思いまへん?」


 彼女の冷ややかな反応を言葉では残念がっているが、言葉の抑揚からは一切そう思っていなさそうであった。


「……それは無理な話じゃ。それよりもさっさと話進めても良いかの?」


「あら、いけずなこと言い張りますなぁ。ま、お好きにしてええよ」


 取り敢えず要件を話して良いという事なので彼女は真面目に話した。


「先日、阿久良王あくらおうが恐らく酒呑童子しゅてんどうじ一派の大江山おおえのやま四天王である虎熊と熊なる者に襲撃されたようでの。彼の者はこの青葉あおばがなんとか助けられたが、他の神使も襲われとるだろうというのもあってここに来たのじゃ」


「それはお疲れさんどす。それにしては随分と悠長な様子やったけど、何かありましたん?」


 如何にもそういう事例が起きているということを既に知っているという口ぶりだった。だというのに随分とゆっくりした様子だったために、狐朱こあけはあまりいい顔ができず、疑念が詰まった顔が表に出てしまう。


「……なんじゃ知っておったんか?」


「ホッホッホッ、そう怖い顔せんでやぁ。ウチかてここ最近知った事やさかい。……ま、多少の手筈は整えておんやけど如何せんよう分かりまへんからなぁ」


 どうやらそれに対して多少は対処しようとしていたらしい。それを知った彼女の顔は先程より少しばかり緩む。


「なんじゃぬしでも検討つかんのか。来て損したわい」


 彼女は御饌津みけつであるならば、何か今回の事件の重要な事でも知っている、もしくは検討でもついているものと思って来たのだが、どうやらまとが外れたようだ。


「そないな事は無いと思いますよて。丁度あんたはんが大好きでしょうがないあの者やって、ここに来れて随分と嬉しゅうにしとります」


 どうやら彼女は時哉ときやたちの動向を追っていたらしい。そうとは知らずこの時の店内に居た時哉ときやの顔は幸福に満ちていた。


「それに現状行方不明のあのやってもしかしたら……その悪鬼共が保有しておりますかもなぁ」


「そう……なのかもの」


 それを聞いた彼女は少しばかり暗い顔をした。それを感じ取った御饌津みけつは話を切り替え始めた。


「……えらいしんみりとし始めましたなぁ。これ以上話すんのもやぶさかでは無いねんけど、それはまだ後でもええやろし今ここにおらん達も連れてくるとよろしおす」


「そうじゃの。では失礼するのじゃ」


 それを了承した狐朱こあけと一行はその場から立ち上がって去ろうとした。

 が、最後尾に居た喜久彌きくや御饌津みけつが呼び止めた。


「……それと喜久彌きくや


 『ビクッ!』っと、喜久彌きくやの体が跳ねる。続けて彼女は喋った。


「触れはんかったけど、大人しゅうな?」


「あっ……はははは! も、勿論ですよ! 御饌津みけつ様、はははっ……」


 そうして彼女たちは御饌津みけつとの面会を終えたのだった。

 そこから離れた後、翠蓮すいれんが話し出す。


「それでどうするんだい? 誰が呼びに行く?」


 その問いに狐朱こあけが答える。


わらわが行こう。それにあの感じじゃとしばらくここに居る事になるかもの」


 それを聞いた喜久彌きくやは「え!?」と、声に出さずとも嫌そうに驚いた表情をした。


「そっかぁ。……ま、まぁいいか」


「それじゃわらわは行って来るでの」


 そう言い残して彼女は時哉ときやたちが居るところまで向かって行った。その後ろ姿に向けて喜久彌きくやが手向けの言葉を送った。


「はーい、いってらっしゃーい!」


 思いの外、御饌津みけつとの面会はすんなり済んだものの、事態は全く良い方向に変化することはなかった。一体酒呑童子しゅてんどうじ一派は何を企んでいるのだろうか?

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☆や♡といった感想等々よろしくおねがいします!!!

さすれば新たな扉が開かれるであろう……


次回予告 尻尾の最上級は久遠

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