第23モフり I GET A 神気尻尾

 人間とはどんな生き物か? その答えはであると俺は考えている。

 人は「会話」をすることに特化した生き物であるが故に、「察しろ」とか「気の利かない」などと言った考えや発言というのは真っ事解釈違いである。人にその様な機能はない。一言一句その口で伝えなければ100%伝わることはない。


 だからこそ、俺は例えどれほど親密な間柄でも「ありがとう」という言葉や「すみません」といった言葉は伝えるべきだと思って気をつけている。……一見すると当然の事を言っているように思えるかもしれないが、人に寄っては親密な人間ほど「わざわざ言わなくても伝わるだろう」とか「言うのが億劫だ」と感じて放棄してしまうのだ。例えいくらくどく感じても言うべきなのだ。


 よくある説教の中に「口より行動で示せ」という言葉もあるが、そんなことはない。正しくは「謝ってから行動で示せ」だと。まぁそういう感じで俺は会話というものが人として何より大事にすべきことだと思っている。


 決して会話を怠らず、そして思いはきちんと伝えるべきだと。どれほどくどくともね。


(そして今の俺は会話ができそうにない。だって何話したらいいのか分からん。各々の趣味は別々、寡黙、ロリ、大仰、陰キャ……どれも使えんな。こうなったらもう個々に会話をする「1 on 1」をするしかない)


「えーっと、じゃあ酒膳しゅぜんさんって普段どんな……あーいえ、どんな料理が好みですか?」


 俺は比較的当たり障りのない質問を投げかけた。それに対し彼女はその独特な喋り方で答えてくれた。


「……未知の……食物」


(未知の食物ッ!? それはつまり見た目からでは全く味が予想できない料理ってコトッ!? チャレンジャーと言うべきなのか、はたまたただのゲテモノ好きなのか)


 俺は彼女が意図していることを、恐らく伝えたいことを自分なりに解釈した。続けて俺は質問した。


「へぇーーそれって結構勇気がいるんじゃないですか? もし不味かったらとか」


「……その時は……滅します」


「へぇなるほどー! 滅しますかぁ……。……め、滅するゥ!?」


 俺はあまりにも予想外な答えに驚愕せざるを得なかった。


(いやそこは「美味しく食べられるよう調理します」とかじゃないの!? 滅するの?! ……そ、存在から否定するのか。さっき頼んだ料理が彼女の口に合うことを願うよ)


「あ、あーえーっとぉ。……か、かなりパワフルっすね」


「……」


 彼女から特に何の返答もない、ていうか喋らない。しくったと感じた俺はこれ以上どうしたら良いのか分からなかったので……取り敢えず切り替えることにした。


「……そういえば! 瑚滑こなめちゃんってどうして按摩あんま……所謂マッサージがそんなに好きなの?」


 俺がそう聞くと彼女は丸めた両の拳を自らの頭に当てて「むむむ……」と、深く考えている素振りをする。暫しの熟考を経て彼女が導き出した結論はこうだった。


「うーんとね。……分からないのです!」


(そっかぁ、わからないのかぁ……だいぶ感覚派なんやね。でもどうしようか、これじゃあ会話終わっちゃうよ。何か策は……あ、そうだ!)


 まぁ分からないものは仕方ないと諦めた俺は次の質問を閃き、それに移行した。


「それじゃあ按摩あんま以外に好きな物……例えば食べ物とか――」


「桃!」


「即答!? ああそういえばさっき頼んだ料理も桃が使われていたね」


 即答というあまりの速さからよほど好きなのがうかがえる。彼女は続けて言った。


「桃は良いのです! だからこそ桃は良いのです!」


(Wow! 随分な桃狂いの様ですな。まぁでもそれほど好きな食べ物があるっていうのは良いことだよなぁ)


 やはり見た目相応の精神性からくる思考というものはなんだか安心するというものだ。何事も好きなものや趣味というのはあればあるほど良いものだ。俺は彼女の意見に賛同するもの言いをする。


「そうだねぇ。これから来る桃のパフェも美味しいと良いねぇ」


 しかし次の瞬間に驚愕の答えが返ってくるのだった。それは……。


「はい! でも低品質な桃だったら許さないのです! 激怒です!!」


(姉妹だァァアア!!! こいつら完全な姉妹だよォッ!! 髪色以外で姉妹感全くなかったけど、今この瞬間に欠けていたピースがカチッと嵌ったよ!)


 先程の酒膳しゅぜんとほぼ同じ様な答え、不味かったら許さないという食に対する厳しさは彼女たち姉妹ならではの特徴のようだ。正直凄い似たような点を感じられない二人だと思っていたがここで頭角を現したようだ。


「そ、そうなんだ。……お口に合うと良いですね。ハハッ……」


 まぁこれ以上聞くことはないと思い、阿久良王あくらおうさんへ目線をシフトしたのだが……。


「えーっと……お酒、お酒かぁ」


(何聞けば良いんだ? 酒飲めないから味とか分かんないし、盛り上がるような種が思いつかない)


 色々考えるもネタが思いつかないので、趣味以外のことを聞くことにした。


「そういえば阿久良王あくらおうさん、どうしてこの神界に人間の街みたいな感じで商店があるんですか? あまり必要性がそんなに無いようなというか……自分のイメージとちょっと異なってて」


「あぁそれな。小僧の言う通り実はやらなくて良いことなんだが、理由は主に2つある。一つは人間の真似事。一つは神使の修行ってところだ」


「真似事に……修行ですか」


 それを聞いた俺はこの店のことを一度、思い返してみたら腑に落ちたのだった。


(つまり、この店は現代のコンセプトカフェを真似たというわけか。通りでネーミングセンスが酷いわけだ)


 俺が心の中でそう納得していると、彼女は続けて話し出す。


「ま、人に寄っちゃあ長い時を生きる暇つぶしでやる奴もいるようだがな」


「あ、それで気になってんですけど――」


「おまたせしましたー。ご注文の品でーす」


 せっかく話に花が咲きそうだと思った所で、注文してた品が届く。なんと間の悪いことか! ……いや、実は俺だけ盛り上がろうとしていたのかもしれない。という自らの認識に対する疑念も何故か湧き始める。ちょうどいい区切りだったと思うことにしよう。


 そして各々頼んだ料理がテーブルに並べられる。並べられた料理は写真通りのものだった。良かった写真に寄るサイズのごまかしまでは真似てなかったようだ。人間社会に現存する悪しき手法だからね、根絶してほしいよ。


「おお! 来ましたねぇ……さーって俺の頼んだジュースはどんな味やろか?」


 俺は嬉々としてグラスに手を添えて口元に近づけようとするも、ある異変に気がつく。


「……ん? アレッ? これ、中身ある?」


 なんと出されたグラスに何の液体も入っていなかったのだ。写真で見た時は透明なだけかと思っていたら、まさか何も入ってないとは……新手の詐欺だろうか?


(え、えぇ。そんなことある? まさか、“神気いーっぱい”っていうのはそのままの意味ってコトッ!?)


「え? これって中身無いですよね?」


 信じられない光景に直面した俺は自分だけがおかしいのかもしれないと思い、周りに確認を取る。


「あ? んーいや、あるぞそれ」


「えっ」


 それを聞いた俺は驚きで硬直しかけるも、これにはちゃんとした理由があったようだ。


「それな、言っちまうと透明度が高すぎて何もないように見えるやつなんだ」


(セン◯リースープッ!? ま、まぁ中身があるなら……いいか。……見えないけど)


 いくら透明度が高いとはいえ光の反射を駆使しても液体を視認できないというのは中々不安が募るものだ。だが俺は信じてそれを飲むことにした。


「ゴクッ、……う、うまいッ!! いや待てよ……これ一体何の味だ? ――ッ!?」


 俺はその液体を口に含んだ瞬間、それを美味いと感じた。だがそうは思っても何の味か瞬時に理解はできなかった。口にした事があるような……はたまた色んな味がするのか。そう考えた瞬間、俺は気づいた。この味はッ!!


(あ、油揚げじゃねかァァアアアア!!! 逆に油揚げを一体どうやったらこうなるんだよ!! あ、油揚げに関する料理の道が極致へと至っている……!!)


「こ、これも油揚げだったかぁ……。ていうかこれのお供の菓子も油揚げで出来たラスクだし……」


 俺はもう呆れを飛び越えて感心するしかなかった。ここまで好きだというのならもうそれは彼女らにとって人生の伴侶と言えるのかもしれない……と、思わざるを得なかった。


「ま、美味いからいいか」


 他の皆も美味そうに酒を飲み、美味そうにパフェを喰らい、美味そうに……ん? 


 ふとそのままの流れで俺は酒膳しゅぜんの方を見た。彼女は仮面を付けたまま、しかし片手で仮面をずらしながら口に食べ物を運んでいたのだった。

 その一瞬の隙間……その微かな時に見える彼女の口は実になまめかしかった。


(おお、やったぞ! 口元だけだが見えた!! なんだろうかこの気持ちは……。この高揚感は……。例えるなら、強風がなびく朝日の登校日和に平坦で飽きるほど見た景色に突然花が咲いたかのような!!)


 俺は本来そこまで感動する事のない筈のものにこれほどの情動を覚えることに不思議な感覚を味わっていたが……なにやら後ろの方が少し騒がしい。というか何か重いような? 俺はその違和感の正体を掴むために振り返ることにした。


「ん? なんだか重いような……。――えッ!!」


 ――ブンブンッ!!


 そう音を立ててそこにあったのはだった。だが普通に尻尾単体がそこにあるはずがない。だからこそ、それは誰かの尻尾であることには間違いはなかった。じゃあそれがである。この時の俺はそれを瞬時に悟った。


「う、嘘だろ……!? こ、この尻尾……俺のだ……」


 俺は恐る恐る自分の尻、つまるところ付け根に相当するところを触る。結果しっかりと生えていた。


「な、なんで……。――ッ!! まさか!!」


 俺は何故自分に尻尾が生えているか疑問に思い今までの己の行動を振り返った時、その心当たりのがここにあると気づく。それがあの“ドリンク”だと。


「このドリンク……“神気いーっぱい”ってあったよな。……それが原因なのか?」


「お? 何じゃあ小僧お前、尻尾生えたんか? これは実に愉快じゃのう! アッハッハッハッハ!!」


 俺に尻尾が生えている様を見た彼女は実に楽しそうに酔っ払っていた。


(いや笑えねぇよ!! お、男に尻尾なんて誰得なんだよ。マジで! ……まさか耳もか?)


 そう思った俺は恐る恐る本来人間が生える耳の位置に手を添えると、それは狐耳へと変貌していたのだった。


(うわあああ! もふもふになってるぅぅうう!!)


 俺は何気ない気持ちで頼んだ商品によって、ケモ化レベル1へと進化したのだった。この展開以前どこかであったような気がすると、デジャブを感じながら俺はとある教訓を得た。


 『触らぬ神に祟りなし』と……。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

☆や♡といった感想等々お持ち申し上げます!!!

くれなきゃ悪戯するぞ!! 誰がって? ……マイク・タ◯ソンさん?


次回予告 門戸を叩く尻尾達

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る