第22モフリ 神界は尻尾の宝石箱
今ここにあるのは白い世界。そして無限に続いて一直線に連なる鳥居。
その鳥居の僅かな隙間から見えたここから遠い場所にまた同じものがいくつかある。きっと誰かも同じように鳥居のワープを使っているのかもしれない。
そういう意味では今自分が歩いている場所はどこなのだろう? 真っ白な床とでも言うべきなのだろうか? 歩を進めると水面の波紋のように揺れる。重力を感じるようで感じない。されど空中に体が浮くこともない。
このような空間という体験に感極まるのがものだが、その高揚は自然と平坦なものへと変わっていく。これは精神を侵されているとでも言うべきなのだろうか? それとも自然と心が落ち着いたとでも言うべきなのだろうか? まるで夢の中にある無限の回廊を果てもなくただ突き進んでいくことに何の疑問を感じないような。
そんな夢の中の
「……お……!……」
(何だ? なにか聞こえるような?)
「……おい! 起きろッ!」
「はっ!」
気づけば俺はいつの間にかあの空間を抜けていた。何か途方もない感覚を味わっていたような気がするがあまり記憶がない。一体自分はどうてしまったのだろうか。
「たくッ……何寝ぼけてんだ」
どうやら棒立ちで上の空だった俺を起こしてくれたのは
「えっと、ここは……ッ!! もしかしてェ!!!」
「お察しの通り、ここが
(うおおおおおおおおおお!!!!!!! やったアアアア!!!! キタ――――――ッ!! フォオオオオ――――ッ!!)
俺は心の中で喜びの奇声を上げた。狂宴乱舞する俺の
「おお!! こ、ここがァ!
俺はまるで人生で初めてテーマパークに来た子供のような心地でウッキウッキになる。踊り狂うかのように360度隈なく辺りを見渡す。全体的に瓦屋根の建物が縦並び、ここから一番奥に大きな建物が見え、自分の背後には巨大な太鼓橋が架かっていた。そして地面は石畳であり、大路のように道幅は広かった。さらには金雲の上にいくつかの建物や街のようなものが浮き島みたいに浮いているのが見えた。
「なんと荘厳な……! あッ!」
有頂天の俺はある重大なことに気付く。
(今俺って、あの列車に乗る時みたいに狐面とか付け耳してないけどいいのか?)
「心配せずともよい。ここは共有された大衆世界ではなく、神使の狐限定の世界じゃ。故に主みたいな人間に悪さをするような者はおらんから大丈夫じゃよ」
俺の心の声を聞き取った
「あーなるほどぉ! ……それでここからどこへ向かうんです?」
「そうじゃの……まぁ今から向かったところでちと待たされるやもしれぬしな。妾と
「はーい! いってらっしゃーい!」
というわけで自然と俺は
(そういえば俺、丁度このメンツの人たちとあまり会話したこと無いな……。ちょっと気まずいお)
既に知り合っている人なのにあまり会話したこと無いって、初対面の人と話すより若干気まずさが多いのは何故なのだろうか。
(いくた狐娘とはいえ、その精神は人のそれであるのは間違いないはずだ。どうしたものか……ッ! そうだ、
「……さて、どうしますかね。 そういえば
「
(お、大人ッ!! 思ったより大人な解答が返ってきたァッ!! 嬉しいような困ったような……いやそれ以前に今更かもしれないが、この
「えっと……
「……特に」
「うーん……儂も特段なぁ。200年前と比べてあまり代わり映えはしておらんようだしのぉ」
(ここに来てその時間間隔の差が如実に出てくるかぁ……。彼女たちにとってここは数年か数ケ月前に来たばっかりみたいなものなのだろうか? この反応を見るにそんなものなのかもしれない。ま、まじかぁ……。あ、そうだッ!!)
「じゃあそれなら! ここの名物みたいな何かおすすめの場所とかあります?」
俺の咄嗟に思いついたこの満点みたいな解答なら流石に何かあるだろうと俺は心の中で勝利を確信したのだが……。
「……名物……おすすめ」
と、何だかあまりいい反応が返ってこず、寧ろ頭を捻っている。この様子を見て俺はあることを思い出す。
(この歯切れの悪い反応……まさか、地元民特有の地元過ぎて逆に特産とか名所とか興味がわかないっつう現象か!? いや俺も同じタイプの人間だが、ここでまさかそれを引くとは思っても見なかったんやがマジかいな)
もうなんだか上手くいきなさすぎて自分のエセ関西弁(?)が出てしまう。
「……えっとぉじゃあ……どこか喫茶店でも行きます? あればですが」
「……私は……構いません」
「
「儂も構わん」
「じゃあそうしますか」
何だか釈然としない微妙な空気のまま店を探す。明るくなく暗くもないこの空気感は何よりも重いものだと俺は感じた。
(それにしてもこのような場所に来たというのに、喫茶店とは……まぁでも良いか! 見せてもらおうじゃないか、ここの喫茶店の性能とやらを!!)
「うーん……一体どこに――ッ! 何々? “
俺はその店を指さしながら他の皆に確認を取る。その結果そこでいいようだ。というわけで入店していく。すると店員らしき狐娘が近づいてくる。そういえばここに来る道中でもそうだったが狐娘しかいないな。狐男はいないのか……ヨシッ!!
「いらっしゃいませーー。4名様でよろしいでしょうかーー?」
「あっはい。4名です」
それと同時に俺は親指を曲げて4の数字を表すハンドサインを取る。
「それではお好きな席へどうぞーー」
と、言って去ってしまった。何しに来たんだろうか? まぁいいか、取り敢えず俺たちは適当なテーブル席へと座ることにした。その席は壁際の
「んしょっとぉ……。さて、メニュー表は……ああこれかな」
俺はテーブルにあったメニュー表を取って皆に見やすいように広げた。
「何か色々ありますねぇ……俺は、んん?」
俺はそのメニュー表をよく見てみるとあることに気がつく。
(なんだこれ。油揚げ関連の料理が多い! いやね、納得は行くけどさ。パフェと一緒にとか……そんなになのか)
稲荷神社へのお供えものとして油揚げは超絶有名である。だからこそ何も違和感を覚えるわけではないのだが、デザートと混ぜてしまうほどとは思わなんだ。
「……えっと、皆さんは何か決まりました?」
「……私は……これを」
と、
(マジかッ……
「瑚滑は……これ!」
と、彼女が指さしたのは【ピッチピチな桃もや〜ず♡】という桃を主体としたパフェだった。……勿論油揚げも備え付けだった。
「そうさな儂は……これじゃな」
新たに指さされたものは【狐の神酒「解」】だった。いやお酒じゃねーかッ!! 因みにおつまみも勿論油揚げである。
「さて、俺はどうしようか?」
一通り見てわかったのは全てに油揚げがあることだった。いや好きすぎな? そう心のなかでツッコミながらも俺が選んだのは……。
「じゃあ俺はこの【神気いーっぱい! 万物ジュース】にしますかね」
これがどんなジュースなのか正直わからない。色がない透明の飲み物のために見た目でも判別できない。詳細には
(ていうかさっきからこのメニューに載ってる料理名なんなん? ネームセンスがコンセプトカフェみたいなんやけど、ここコンセプトどころか本物やろ!!)
「……細かいことはいいか。さてと、すみませーん! 注文良いですかァー?」
「はーい! ……お待たせいたしましたー、ご注文をどうぞー。」
「えっと、この【ドロドロ悪霊油揚げ☆】と【ピッチピチな桃もや〜ず♡】と【狐の神酒「解」】と【神気いーっぱい! 万物ジュース】でお願いします」
「はーい承りました。ご注文を繰り返させていただきますねー。【ドロドロ悪霊油揚げ☆】と【ピッチピチな桃もや〜ず♡】と【狐の神酒「解」】と【神気いーっぱい! 万物ジュース】。以上これら一点ずつでよろしかったでしょうかー?」
「はい」
「それでは出来上がるまで少々お待ちくださーい」
と言い残して店員は去っていった。……ほんとに何だか繰り返し聞いてると恥ずかしくなってくるような内容だったな。
(まぁ料理できるまで何か話題でも作って親睦でも深めよう作戦でも実行しますか!!)
「突然ですが、皆さん何か趣味とかありますか? 俺は漫……いえ読書(?)ですかね」
「……お料理」
「按摩!!」
「酒」
各々趣味を述べてくれるものの俺の期待とは裏腹であった。
(……分かっていた。分かっていたことだけどもッ! これほどまでに掴みようのない話題しか完成しないとは……。この3つのどれをとっても皆との会話が盛り上がる気がしないんだが……かなり絶望的だぜ☆)
三者三様、いやこの場合は四者四様と言うべきなのだろう。しかしこの場でこそ会話に見事花を咲かせてみようではないかッ! ホトトギスッ!!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
完
☆や♡といった感想等々お持ち申し上げます!!!
PLEASE GIVE ME POWER.
次回予告 I GET A 神気尻尾
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