第3章 出先は神狐界!

第21モフり 鳥居の準備は尻尾から

 神狐界、それはが集う場所……って違う違う。

 ……それは神使の狐が集う場所。その世界はまさしく現世とは全く違う場所。様々なアニメや漫画といった作品で各々が解釈する世界を描き再現してきた。誰も彼もその最終到達点へと至ることは出来なかった。

 だが私の友人が残した“ブラックヒストリー黒歴史”の「神界へ行く方法」には、14の言葉が必要だと――。


「その主の友人の事は良くわからんが、そんな事ないぞ」


「……狐朱こあけさん! (俺の心を)見ているなッ!!」


 俺は右手で顔を覆い、狐朱の方へ左手を伸ばした。


ぬしの心の声がデカすぎるのが悪いのじゃ。随分と浮かれているようじゃの。それほど楽しみなのか?」


「そらそうですよ! 何てったて、神界って言えば恐らく誰も行ったことがない場所でしょうし。いやーあっぱりね、これはどうというのは難しいんですけどねぇ。いやッほんとにね。なんだろね? もう神界って言ったら色んなこう神使の狐の方々がズラァーーっといるわけじゃないですか! あーいや、勿論! 狐朱こあけさんも他の皆さんも素晴らしいですが、それ以上にも……なんと言えばいいか。んーそうだなぁ……」


 俺は興奮のあまり止まることを知らないマシンガントークを披露してしまう。正直ほぼ勢いで喋っていたため、その言葉にまるで中身がなかった様に後から思えたのはまた別の話である。


「分かった、分かったのじゃ! ……なんだか先が思いやられるの」


「ん? 何か言いました?」


 この時の俺は自分の世界に入っていたため聞き取ることが出来なかった。それに対し彼女は話を進めることにした。


「何でもないのじゃ。それよりも、取り敢えずの荷造りは済んだのかの?」


「あーはいッ。でも取り敢えずって言っても俺の私物禄にありませんけどね。ここ俺の部屋じゃないし」


 この部屋は彼女達が住む屋敷の一室であり、その部屋を俺の部屋として好きに借りているものの、実家ではないから俺の秘蔵の私物なんてのはからっきしである。ま、それらすべてを捧げても構わないほどの状況下にあるため全く持って問題ではないのだがな! ハハッ!!


「ま、それはそれじゃ。さて、皆のところへ向かうとするかの」


「はい!」


 そうして俺は彼女と共に屋敷の玄関まで行き、その扉を開けたのだった。


「さて皆準備はいいかの? では神界へ久しぶりに行くとするかの」


「そういえば、どうやって行くんですか? 鳥居ワープじゃないんですか?」


 これから向かおうとする彼女の様子を見て、俺は例の風呂場にあった様な鳥居でのワープではないことに気づいた。


「いや、そう簡単に行けるほど甘くはないのじゃよ。少々いくつかの手順と道筋を辿らねば行けないのじゃ」


「そうなんですか。でもそれって結構不便ですよね?」


「……まぁの」


 そう純粋に疑問を投げかけると彼女は何故か目を逸しながら言った。それに呆れた様子で青葉あおばが代わりに答えた。


「ほんとはな。直通の鳥居出せなくはないんだが、もうあそこに行くのは懲り懲りとか言ってコイツそれ専用の鳥居取らなかったんだよ」


「しょうがないじゃろ。だって嫌じゃったんだから、もう昔の話じゃけど」


 その会話を聞いた俺はこう思った。


(一体何があったと言うんだ? そういえば初めて会った時、チェーン店型じゃないくて個人経営って答えてたのと何か関係があるのかな?)


「ま、無いものは仕方ないということさ。青年、地道な旅は嫌いかい?」


 俺の様子を見てか、翠蓮すいれんが話しかけてくる。


「いや、まぁ……経験がないのでよくわからないんですが、結構掛かるんですか?」


「んーそうだねぇ。それなりかな? 具体的に言うと……? すまないね、考えたこともなかったよ。だから分からないや」


 彼女は手を広げて舌をチロッと出す。まさしくその様はお手上げといった様子だった。


「えぇ……なんとか割り出せないですか?」


「……言い訳させてもらうと、幾許いくばくかの時を生きていると時間感覚なんてあって無いようなものだよ」


「そういうもんなんですか……あっでも! 阿久良王あくらおうさんならあるんじゃないですか?!」


 俺は閃いたのだ。彼女は恐らくどちらかといえばチェーン店型の可能性が高い。つまりそういうのも持っているはずだとッ!


「ん……儂か?! いや、そのな……切れてた」


「え」


「更新、切れてた。……更新日、120年前だった」


(ええーーッ!! いや鳥居に車の免許みたいな更新期限あるのも驚きだけど、それよりも120年前って……なぜ今まで気づかなかったんだこの人)


 120年の時の流れに気づかないほどのボケ。これが長寿ゆえの弊害なのだと俺は痛感した。


「こやつは昔からズボラでの、そういうちまちまとした細かいことは不得手なんじゃよ」


 それを聞いた阿久良王あくらおうは聞き捨てならんといった反応をする。


「う、うるさいやい! だいたいお前さんだって持って無いじゃろーが!」


「妾は意図してじゃよ。そこを一緒にせんでくれんかの」


 それに対し狐朱こあけは反論する。なぜそれで張り合おうと思ったのだろうか。甚だ疑問である。


「何をーーッ! ってそう言い争ってる場合でもないか、早く行こうぞ」


「そうじゃの。気を取り直して出発するとしようかの」


「あ、はい」


(なんだか急に収まったな。ま、いいか)


 こうして神狐界へと至る旅が始まったのである。


「それでまずどこへ行くんですか? もしかしてこの前みたいに百鬼夜行列車でも使うんですか?」


「まぁゆったりと行くならそうしたいのじゃが、ちとそうしても居られんのでな。途中までは鳥居は使うぞ」


「あ、そっすか」


 早くも旅終了のお知らせ。


「さて行き先は……福徳稲荷神社かの」


 すると、彼女の目の前に鳥居が現れる。相変わらず潜るところに淡い色の渦巻き状のゲートがあった。俺たちはその鳥居を潜り、その先にあったのは物凄くたくさんの鳥居が長蛇の如く羅列していた。近くにあった看板には「千本鳥居参道」と書かれていた。


「わぁお。凄いな、てかここどこなんです?」


「ここは確かえっとぉ……。えっとの……?」


「山口じゃねーか?」


 と思い出せず頭を捻る彼女の代わりに青葉あおばが答えてくれた。


(山口県かぁ……ん? え!! 山口ってこの前の岡山より遠い場所やないか!! えぇ……これはまさしく“どこでも鳥居”だな)


「それでこの千本鳥居潜ったら行けるんですか?」


「まさかそのようなわけがなかろうて、それでは人の子がうじゃうじゃと神界に来れてしまうのじゃ。ちょいと特殊なことをする必要があるのじゃよ」


(特殊なことか……神界って次元が違う場所にあるとかなんかね?)


「では翠蓮すいれんよ、よろしく頼むのじゃ」


「それじゃ失礼するよ。……“楽都”、“転札”、“紅の星”、“天魔の歩行”――」


 すると彼女は連なる鳥居の入口にて何やら詠唱を始めた。


「おお! すげぇ生のフル詠唱や! ワクワクするなぁ!!」


 オタクであるならば誰もが興奮するであろう場面で感極まっていると、青葉あおばが呆れた様子で話しかけてくる。


「詠唱ならアタシもやってたろ。何を今更興奮してんだ」


「え? やってましたっけ?」


 と俺が「何のことかさっぱり」という反応をすると青葉あおばは顔を赤くして怒った。


「アタシがテメェに教えたじゃねーか! もう忘れちまったのか!!」


 以前、鬼と戦う直前に何かあった時用に識神しきがみを召喚する呪詞を教えて貰ったのをすっかり忘れていたのと同時に、あまり詠唱って感覚がなかったもので気づかなかったのだ。


「あ、あーーあれもそうだったんですね。気づきませんでした」


「テメッ……! まぁいい、そろそろ詠唱も終わる頃だしな」


 すると目の前の連なった鳥居がこちらへと迫ってくるッ! あっという間にその場にいた俺たちは鳥居の中へと入れられる。そして鳥居はさらに大きく拡大していく。俺たちを取り込んでもなおどんどん進んでいく鳥居の先を見ようと俺は思わず振り返る。鳥居は無限の彼方へと進んでいき、果てがわからなくなるほど小さくなっていった。気づけばそこはもう鳥居の中だけではない、鳥居の隙間から見える外はただの真っ白な空間へと変わり果てていた。


「うおおおお!!! びっくりしたぁ。この感覚はまるで屋敷の廊下と同じだな」


 俺は辺りを360度くまなく見渡す。俺の体を回転しながら見ているため段々と気持ち悪くなってきた。


「さて、それではまた行くとするかの」


「何してんだこのアホ面! さっさと行くぞ!」


 俺が楽しんでいるうちにいつの間にか皆とっとと先へ進んでいた。


「え?! あ、待ってくださいよー!!」


 ここまでも中々なファンタジックな体験を、テーマパークのアトラクションにでも乗った気分でいたテンションぶち上げな俺はこれ以上のときめきに期待を寄せながら皆の下へ追いつこうと走り出したのだった……。


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☆や♡といった感想や応援等々宜しくお願いします!!!

はじめてUSJに行った時、俺は財布を忘れたため乗り物は乗れてもお土産は買えず苦労しました。そしてたまたま使ったロッカーは中々開かなかった。


追記:あとそれと必要かどうかわかりませんがキャラクター質問箱を近況ノートに作りますので、何か質問等あれば可能な限り答えるかもです。


次回予告 神界は尻尾の宝石箱

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