第20モフリ 人生最高の夏と尻尾

 すっかり辺りは暗くなり、闇夜の天幕が世界を包み込む。街灯といった電気の光がない孤島には満天の星空が広がっていた。これほど美しい景色は街中に住んでいた頃では到底見れないものだった。


 さて俺は今、喜久彌きくやに案内されるがままに歩いている。


(これから夕食という名のバーベキューパーティーに参加する予定だ。無論バーベキューなのだから肉だ。肉、肉肉肉肉……っと、楽しみで仕方がない。ん? 野菜は食わないのかって? そんなものは無粋だとは思わないか? ふふっ)


 そんなくだらないことを考えていると揺らめく青い炎が視界に入り始める。どうやら目的の場所に辿り着いたようだ。喜久彌きくやが他のみんなに声を掛ける。


「みんなー! 待ったァー?」


「おや喜久彌きくや、遅かったね。一体してたのかな?」


「うーん? ま、してたのさ。ね、時哉ときやくん?」


「え、あっはい。そっ……すね」


「ふーん……そうかい」


 翠蓮すいれんは何か分かったかのような、いや元々知っていたとも思えるような反応を示す。


(まさか、グルだったとか? いやこれは、長年の付き合いによる勘……とかか?)


「にしてもバーベキューコンロに狐火ですか。コスパいいっすね」


 網の上にはジュージューと音を立てて、こんがりと焼けた肉や野菜に少しの海鮮類といった具合で見取みどりの豪華なメニューだった。


「まぁこれくらいはねー。それにもっと凄くて凶悪な炎を使うヤツだって居たんだから、これくらい大したことないよ」


 と喜久彌きくやが答えるが、少しズレた答えに違和感を覚える。


「そういう問題じゃ……凶悪な炎」


 凶悪な炎……。その言葉に何故か引っかかりを覚える。だが一体何のことだか思い出せない。なんだろうと、俺が深く考えそうなところで狐朱こあけが話しかけてくる。


ぬしよ、それよりもほれ。その口を開けるが良い、妾が肉を運んでやろう」


「え!? いやそれくらい自分でやりますよ。子供じゃあるまいし」


「まぁまぁ、そう遠慮せずともいいじゃろ? ほれほれ……あーーん」


 彼女は俺の否応なく強引にも肉を差し向けて来る。この少し強引なところは出会った時から困る部分ではあるが、それもまたヨシッ!! 全く持って問題ない。だがそう思いながらも恥ずかしく感じるが故に俺は目を瞑って口を開けた。


「あーーんッ……。ん! うまい!!」


「ほうか、それは良かったのじゃ。……喜久彌きくやよ、ちと来い」


「え? ちょ、ちょっと待ッ! 助けてーーーッ!!」


 と何故か彼女は喜久彌きくやを連れて何処かへ行ってしまった。……なんだか声のトーンが低かったような。まぁ気のせいだろう、きっと。


「お! 喜久彌きくやの野郎なんかやらかしたな。いい気味だぜ」


青葉あおば喜久彌きくやに対してかなりドライだよなぁ。昔何か酷いからかわれ方したとかかな? まぁ、ああいうお調子者キャラってこうなりがちなのは、どこの世界も一緒なんだなぁ)


 と俺は勝手にアニメや漫画での展開と喜久彌きくやを照らし合わせながら肉を頬張る。しかしこの食の席というのは食堂とは違うパーティーだ。つまり色んな質問をしたり何だりと話しながら食を楽しむ場。自然な流れで色々といっぱい話せれるチャンスということよ。俺の恋愛ゲーの能力プレイスキルを開放してやるぜ。

 ま、やったこと無いんだけど。


「そういえば青葉あおばさんの識神しきがみって四神と四霊ですか?」


「あ? ……良くわかったな、お前そういうの詳しいんだな。今どきのヤツにしちゃ珍しいんでねーの?」


「やっぱりそうなんですね! それって結構凄いですよね!」


「まぁな今から大体……千年前だったか? そんくらい前に手に入れた気がするな」


「ふへー……スケールが違うなぁ。千年かぁ、もっと他にいるんですか?」


「いるにはいるが後一体くらいだ。……言っておくが教えねぇぞ」


「えぇ。いいじゃないですか」


「……お前なんか変にグイグイくるな。気持ちワリぃからもう話しかけんな」


 下手に話しかけ過ぎたため引かれてしまったようだ。青葉あおば好感度アップ作戦失敗。


(おっと少し変だったか? あぁもう離れてしまった。仕方ない切り替えよう)


翠蓮すいれんさん! 少しいいですか?」


「ん? ああ構わないよ。それで?」


酒膳しゅぜんさんはここにいますが、瑚滑こなめちゃんって来てないんですかね? あの子だけ仲間はずれっていうか、なんかそんな感じがして」


 実際ここに転移する時には瑚滑こなめの姿は見かけていなかった。200歳と俺よりも遥かに年上とはいえ精神そのものは幼子のそれだ。あの子だけこの空間を楽しめないというのは、申し訳ないというか罪悪感とも言えるわだかまりが募るものだ。


「いや、そこにいるよ。丁度酒膳しゅぜんの後ろに」


「え」


瑚滑こなめだよ!」


 酒膳しゅぜんの背後からひょっこりと姿を見せる。どうやらいつの間にか来ていたようだ。良かった、良かった。


「にしてもあの二人、ベッタリくっついてる。やはり姉妹っていうのは仲が良いものなのか?」


「まさか、彼女たちはそうだったに過ぎないさ」


「そうなんですか。……あ」


 そう談笑していると狐朱こあけ喜久彌きくやが帰ってきた。狐朱こあけは何ら変わりようのない表情であったが、喜久彌きくやはかなりシュンとしていた。推し量るにかなり絞られたのだろう。一体何が彼女の琴線に触れたのかは分からないが、俺も気をつけようと思った。


「さて、そろそろとっておきの催し物でも出そうかの」


(とっておき? 一体なんだろう。当ててみようか、……わからん)


 すると彼女は両の手を叩く。その瞬間! 辺り一面に狐火が出現する。自分たちの周りを囲んだ数多の狐火は、まるで満天の星空をプラネタリウムのように再現しているようでもあった。この光景だけでも中々に良いものであったが、これで終わりではなかった。


「おお! たくさんの狐火がこんなに!」


「まだまだ……これからじゃぞ」


 彼女が両手を空へと掲げると、狐火はさらに空高くへと飛んでいき、宙を描き、螺旋を描いた末に数多の狐火は様々なはじけ方をした。


「こ、これは花火!」


「どうじゃ? 狐火版花火じゃ」


「相変わらずキレイだねぇ」


「よくもまぁこんな事しようと考えるもんだ」


「うぅ……お肉美味しいよぉ」


「わー! きれーな花火!」


「……素晴らしい手際です」


「儂もこれほどの物は見たこと無いのぉ」


 各々色んな感想を花火を見ながらつぶやく。……一人だけお肉の感想を言っているが、まぁ仕方ない。今の喜久彌きくやは仕方ない。


「ほんとに幻想的な花火だ。凄いとしか言えない」


「ほっほっほっ、そう褒めるでない。これくらいの事、そう難しいことでもないわい」


「ま、老練が為せる技ってことよ。な、そうだろ? 今年でもう千――」


青葉あおばァァアア??」


 と青葉あおばが彼女の年齢について触れると、彼女は地の底から出したような低い声で怒った。なるほど年齢について触れると怒るのか、覚えておこう。


「へっ何だよ。別にどうでもいいだろそんくらい」


「良くないのじゃ! はぁ……こやつは何時まで立っても反抗期が終わらんの」


「いつまでも乙女気分のオメェに言われちゃお終いだよ」


「……なんじゃと?」


「そっちこそ」


 バチバチに睨み合う二人。感じるぞ! 妖術とかそういうのがよくわからない俺にも今の二人の体から妖力が溢れ、オーラの押し合いみたいな感じになっているのを!


 (くッ! 凄まじい圧力だ! 意識を保つのがやっとだぜ!! ……なんてな、一度はやってみたかったんだ)


「まぁよい。さて、そろそろお開きにするとしようかの」


 と狐朱こあけはパーティーの終わりを宣言する。


「そうかもうそんな時間か、楽しかったな。まさしく人生最高の夏って感じだった」


 終わりと共に俺は今日一日で起きた出来事を振り返る。色々あったが、いざ終わるとなると何だか寂しい気持ちも湧いてくるな。


「主にそう満足してもらえてのなら良かったのじゃ」


「ええそれはもう! 最高でしたよ、色々と」


「じゃが明日からは明日からで忙しくもなるがの」


「ん? どういうことです?」


 明日から忙しくなる。まるでその言いようは自分以外のすべて、つまりこの場の全員に言っているようでもあった。


「ああそうか、まだ言っておらんかったの。……明日、神狐界しんこかいへ行くからそのつもりでの」


神狐界しんこかい? それってもしかして……」


 俺はもしやと思い尋ねる。そして帰ってきた答えは……!


「そうじゃ。妾たち神使の狐が集う神界じゃ」


「――ッ!!?? うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」


(うおおおおおあああああああ!!!!! やったーーーーーーッ!!!)


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



☆や♡といった応援等々宜しくお願いします!!!

さすれば私のポテンシャルが上がるぜ!!!!!!!


次回新章突入 出先は神狐界!

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