第18モフリ サマーな尻尾フレンズッ!!

「本気か?」


「そう正気を疑う目で見るでない。妾とて考えた末の結論じゃ」


「まぁそういうならば……しかし腑に落ちぬ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次の日の朝になると狐朱さんは屋敷に居る全員を呼び出して食堂に集めた。

 どうやら何かがあるらしい。一体何が起こるのだろうかと思いを巡らせながら俺は食堂の椅子に腰を掛けている。無論既に大半の人が食堂に集まっていた。


「たくッ、使いっ走りの後すぐこれかよ。狐朱こあけの野郎は一体何する気だぁ?」


 と青葉あおばは物凄くダルそうに言う。


「まぁいいじゃないか。彼女とてそこまで鬼ではないさ。面倒事では無いと思うよ」


 と翠蓮すいれん青葉あおばに言う。


「そうかい? 僕は結構期待しているよ。なんかそんな予感がするんだ。酒膳しゅぜんちゃんもそう思わない?」


 と喜久彌きくやも反応し酒膳しゅぜんに話題をふる。


「……コクッ」


 と酒膳しゅぜんはただ首を縦にふった。この一部始終を見ていた俺はこう思った。


(この光景を見ているとほんとに平和って感じで癒やされるなぁ。けもみみ狐娘だからなのか百合百合しているからなのか。いや、どっちもありえる……それだけか)


 そう俺が斜に構えた思考にふけっていると、扉から狐朱こあけ阿久良王あくらおうが入ってくる。


「皆、しかと集まっているようじゃな。それでは行くとするかの」


「何故儂までゆかねば並んのだ……」


 と何かの準備をし始める狐朱こあけに対し青葉あおばが疑問を投げかける。


「おいおいちょっと待て! どこへ行かせる気だ? まだ何も聞いちゃいねぇぞ!」


(確かにどこへ行く気なんだろ? 阿久良王あくらおうさんはなにか知ってそうだが)


 それに対しせっせと何かの準備をしながら彼女は答えた。


「あーそうじゃったの。何もそう大したことではないぞ……よし出来た」


 すると床に白い文様が広がり周囲を囲み光り出す。俺はその様を見て驚愕する。


(!! なんだこれ!? 床に魔法陣みたいなのが展開されてるだと!?)


 そんな周りの動揺に脇目も振らずして人差し指を上に立て、彼女は言う。


「これからゆくのは、夢遊浮島むゆうふとうの地じゃ。そこで存分に楽しもうぞ」


 そう言い放つと白い輝きは更に強くなり辺りは白一色に染まっていった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「う、うぅ……ここはどこだ?」


 白い世界が消え、色彩溢れる世界がこの目に飛び込んできたと思ったら、そこは見知らぬ海岸であった。


(一体どこの海岸なんだ? いや待てよ今までの事を考えたらただの海岸な訳がない。恐らくここは普通の人間が入れるような場所じゃない特別な海岸……いや島と言うべきかもな)


「おぉ気付いたか? たくっ狐朱こあけの野郎、説明もなしにここに連れてきやがったな」


「なにか知っているんですか……って、え!? なぜもう既に水着ィッ!?」


 と俺はいつの間にか水着に服が変わっている青葉あおばを見て驚く。


「それを言うならお前もだぞ。おそらく転移と同時に変換されたんだろ」


 そう言われて自分の服を確かめると、いつの間にか短パンの水着とアロハシャツに変わっていた。


「うわぁお! ほんとだいつの間に!」


「ま、恐らくアイツなりの配慮っていうやつだろ。本来なら……まぁその事はいいか。今はリゾート気分でここを楽しむしかないさ」


「……なぜリゾート?」


 俺はわけが分からなかった。先日の事もあるが、なぜリゾート? という単純な疑問と目の前に広がる海岸とその反対側にある森林。推察するに恐らくここは孤島なのだろうというイメージだけが湧いた。……リゾートって孤島にありがちだよねという何の根拠もない偏見からきた予想なのだがな。


「ここはな、アイツも言ってた通り【夢遊浮島むゆうふとうの地】という言わば現世のどこにもない島。アタシらみたいなのしか入れない場所ってことだ」


「ほー……」


「じゃ、アタシはもう行くから」


 そう俺に伝えるだけ伝えた彼女は去っていった。だが俺の心は消化不良だった。


(なんだろうな? 納得できたような出来ないような。まず俺は昨日、岡山に行ってほぼ死にかけて帰ってきた。そして今日はリゾート? リゾートぉ??)


 俺は心のなかでこの突拍子も無さすぎる出来事に悪態をついてしまう。


「それに楽しめって言われてもなぁ……よく皆順応できてるな」


「それに俺あんまり砂浜好きじゃないのよな。ジャリジャリするしで、良い思い出なんぞこれっぽっちも無いからなぁ」


「……イケナイ、イケナイ。あまりネガティブな事ばかり考えてると気持ち的に良くないな」


 と俺は腕を上げて背筋を伸ばした。心の切り替えは体の切り替えと、誰かが言っていた気もするが恐らくそんなことはない。


「さてと、どうしますかねぇ」


 もう一度俺は周りの景色を見渡す。澄んだ空に広い海。この空気感は街中に住んでいる人間にとってはかなり新鮮だった。味わったことのない匂いと空気が心地良い。


「そういえば皆どこ行ったんだ? ここにいるのは間違いないんだろうけど、声の一つも聞こえない」


(せめて皆がどこにいるのかくらい教えて貰えばよかった。)


「まぁどこかでビーチバレーでもしているに決まっているさ。のほほんとしながら探しに行きますかぁ」


 一方その頃。


「にしてもここに来るタァ、思いもよらなかったぜ」


 戻ってきた青葉あおば狐朱こあけに話しかける。


「たまにはよいじゃろ? ここも」


 日傘の下でビーチチェアに横たわって寛いでいる狐朱こあけは答える。


「目眩ましのつもりかァ? 素直に神界にでも行けばよかったじゃねぇか」


「ま、それもそれで良いんじゃが今はちと多忙でな。持て余した時間をここで喰い潰しているに過ぎぬよ」


「……あっそ。ならいいけどよ。……なぁ、何であの時。アタシ達に岡山に行って阿久良王あくらおうのとこに行けって言った? 知ってたのか? 鬼が暴れていたのを」


「まさか。そのようなはずがあるまいて、妾はただ何となくそうしたほうが良いと思っただけじゃ。それに元々アヤツは呼んでおらんかったというにノコノコ付いてきていたから丁度いいかもなと思っただけじゃよ」


 と彼女は語る。理路整然とした口調で、なにか含みでもあるかのような物言いで……しかしそれに対し青葉あおばは長い付き合い故か一抹の疑問が浮かぶ。


「……なぁ、もしかしてだけどよ」


「なんじゃ?」


 と珍しく歯切れの悪い言い方をする青葉あおばに対し彼女は聞き返した。


「嫉妬してたのか? アイツと一緒にいたのを見て」


「…………」


 一泊置いて無言のまま彼女は顔をそっぽ向けた。


「……なぁ、おい」


「…………し、しらんの」


 と緊張感もへったくれもない的を射抜かれて解けた声が耳を伝う。青葉あおばはキレた。


「お、ま、えぇぇぇええ!! 何考えてんだ! テメェ自分が今、年何歳としいくつかわかってんのか!? 今更乙女ぶりやがって!!」


「ふ、ふーんじゃ。別にぃ妾悪くないし。悪いのは悪鬼共じゃし」


「勝手にへそ曲げてわざわざ危険なところへ送ったのはテメェだろうが! そしてそんなことでアタシにアイツのお守りさせやがって!!」


「……ここは逃げるのじゃ」


 と狐朱こあけは飛び起きて何処かへと逃げ始めた。


「アァ! 待てゴラァ!!」


 青葉あおばも追いかける。人に振り回されがちな彼女は今日という今日は許さないという気概で走り出して行ったのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



前回の更新から二、三週間ほど経ちましたね……

ずびばぜんでじだ。ほんとに


次回予告 青海に映える尻尾

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