第16モフリ 悪逆非道! 尻尾の涙を取り戻せッ!!

 青葉あおばから告げられた言葉に俺は驚愕する。


「七十五匹ィッ! なぜ七十五匹なんですか?」


「なぜって……あーお前は知らねぇのか。阿久良王あくらおうは元々鬼だったてのは聞いたろ? 鬼から白狐になる時、七十五匹に分散したんだよ。んでこいつはそのうちの一体ていうわけ」


「……ほぉ、そいうわけなんですねぇ。中々どうして集合合体パーフェクトフージョン阿久良あくらレンジャーが結成できるってわけですか」


「そういう変なのはいいんだよ。にしても鬼か、一体どこのどいつだ? アタシら神使に喧嘩ふっかけれるほどの強者か、ただのバカの二択だな」


 その言葉を聞いた俺は青ざめる。そんな大妖術バトルに巻き込まれでもしたら身が持たない。低級の悪霊くらいなら陰陽師的な感じでいけると思っていたのだが、天下布武の大戦争クラスともなればたまったものではないと。


「……あの、もう帰って良いんじゃないんです? 様子見でしょ? ならさっさと報連相したほうがいいですよね?」


「……あぁ、いやそれは無理そうだな。空を見ろ、もう結界が降りてる。どうやらただじゃ帰してはくれ無さそうだ」


「え、ええええ!!! じゃあここに犯人が来るんですか!」


 まさかの事態に慌てる俺。だが犯人はそのようなことなぞ関係なくやってきた。


「ここにいたなぁ虎熊童子とらくまどうじッ!! 最後の一匹がよぉ」


「そのようだな熊童子くまどうじ。だが余計なやつもいるようだ」


 虎熊童子とらくまどうじと呼ばれた鬼は雪のような白さを持つ長髪と一本角をもっており。その目の色は白膜が黒く、瞳孔が白かった。よく見ると唇右下にほくろがあるし、左眉にはピアスがついていた。着ていた服は白いフィットネスで着るやつだった。ちょっとセクシーである。

 次に熊童子くまどうじと呼ばれた鬼は紫色の短髪で二本角に青肌で瞳も青く、頬に傷がついていた。その表情は血気盛んでやる気に満ち溢れていたが、何故か着ていた服はスカートではなくズボンではあったがレディースのリクルートスーツだった。

 二人の鬼に青葉あおばが質問する。


「お前たち何者だ。なぜ阿久良王あくらおうを狙う?」


「そんなのテメェには関係ねぇだろ! 引っ込んでろ三下神使ィ!」


 その言葉にカチンときた彼女は言い返す。


「んだとォ……? 雑兵ごときがぁ……アタシを舐めやがって。塵にしてくれるわ」


「あ? 雑兵だぁ? ハッ! 笑わせるぜ! その目玉ほじくり出して鍋に詰めてやるよぉ!!!」


 その時、その熊童子くまどうじが襲いかかる。同時に青葉あおばは素早く呪符を取り出した。


「伍番、『楽久沙津天楓らくさつてんふう』」


 彼女がそう唱えると、呪符から現れた識神しきがみは金色の毛並みに黒い鱗を持った馬のような見た目、それは紛うことなき麒麟きりんであった。

 そして麒麟きりん熊童子くまどうじに突進していく。それを見切った奴は急旋回し避ける。


「おっとぉ……あぶねぇあぶねぇ、識神使いだったか。しかも強力な」


「熊よ、そいつは預けるぞ。小生しょうせいはこのわらべを相手取る」


「……え、俺ェ! 嘘でしょ……おわったぁ」


「ハッ! 楽な方選びやがって! しゃーない、わーはこいつの相手しとるからはよ来いよ」


 取り敢えず俺は彼女から預けられている呪符を取り出す。


「えーっと、確かぁ……『楽久沙津頸登らくさつけいとう』だったか?」


 と俺が唱えると呪符から現れたのは紅蓮の炎を身にまとった白き鳥である朱雀すざくだった。


(お、おぉ……かっけぇ! なるほど恐らく一から四番は四神ししんか。で、五番目が麒麟きりんだったことから、五から八番は四霊しれいってところだろうな。……え? 従えてる識神しきがみ強すぎね?)


 四神に四霊……中国に伝わる神獣として有名過ぎる存在たち。

 俺は彼女の実力が思っていた以上に凄すぎて、呆気に取られた。


「何を湧き立った顔をしているのだわらべよ。今わの際と言うに」


「……すみませんね。俺には刺激が強すぎたみたいです。識神しきがみよ! 火炎放射だ!」


 俺がそう言うと朱雀すざくの口から炎を吐かれた。だがその炎を奴は避けた。

 だが奴からの追撃は来なかった。様子見だろうか?


「チッ……識神しきがみを離さず、常に己を守らせるとは。わらべにしてはよく知恵が回る」


(あ、やっぱそうなんですね。一回突進させようかと思いました。すみません……って俺は何に謝ってんだ! とにかく、やつを近づけさせないように常に距離を取らなければならない。俺に必要とされるのは時間稼ぎだ。必ず青葉あおばさんがもう一方の鬼を倒して助けに来てくれるはずだ! それまで持ちこたえるんだ!!)


「なるほどな……その様子、時間稼ぎといったところか。どうやら己が身の丈を弁えてるわらべのようだな。それ故に厄介、虫酸むしずが走るわ」


「へっ、もっと褒めてくれていいですよ?」


 ◆


 ――その一方で青葉あおばは激戦を繰り広げていた。


「はぁ…はぁ…やるなぁお前! 識神しきがみ使いの癖して体術もできるとはなぁ」


「ふん、これで格の違いがわかったか? この餓鬼がき。さっさと吐け、目的は何だ? 阿久良王あくらおうを返してもらうぞ」


「へっ、餓鬼がきとは安い挑発だな。ド三流神使」


(わーは剛力による徒手格闘を得意としちょるというに、こいつんの識神しきがみは強力な上に邪魔や。わーだけじゃ相性最悪っちゅうところか、早く来いよ虎熊ァ!)


 ◆


 ――だが虎熊童子とらくまどうじは取るに足らないはずの時哉ときやを依然捉えることは出来なかった。


(なんだコイツ? 人間のガキの癖して妙に逃げ上手。識神は恐らくあの女のものだろう。いくら識神しきがみが強力とはいえ、小生がこうまで捕らえれないとは……違和感)


「どうしたよ! そんなものかよ! 俺一人攻撃出来ないんじゃあ、到底 青葉あおばさんにも勝てねぇぞ!」


(おまけに少しハイになっているな。先程までの冴えない様子とはまるで別物、一体コイツは何者なんだ? 熊のやつも限界の様子、仕方ないここは武器を解禁しよう)


 すると虎熊童子とらくまどうじの手から刀が現れた。その刀は彼女の体格に見合わぬほどの大太刀おおたち。彼女はそのさやから刀を抜き取り、さやを捨てた。


「ここからは本気で行かせてもらうぞ、わらべよ」


「でっデカすぎやしませんか? ……まぁ落ち着きましょう? 何も本気になることはないさ、ただーー!!」


 そう俺が文言を垂れているとその鬼は急速してこちらに近づき、刀を振るいやがった。俺は急いで避けた。


「ウワッア、ププ! ……くそぉ良くもやりやがったなァ!」


(大振りな分、隙が大きいようだな。ある意味避けやすいが、罠かもしれない。何が罠か全く分からんが!!)


「ほう……小生の一太刀ひとたちをよく避けたなわらべ


(やはりおかしい。アレを避ける人間なんぞ、それこそ太古の連中くらいだ。だがこのわらべにはその力は一切ない。断言できる、コイツはただの人間。なのに何故だ? ここまで苦戦を強いるのは?)


 ――虎熊童子とらくまどうじ時哉ときやを見つめる。すると彼女はあることに気付いたのだった。それはまさしくトップシークレットだった。


「!! そうか、なるほどな。可能性は高いと言える。……熊ァッ! ここは一旦引くぞ!」


「アァ!? 何でだ! ……だがこれ以上、わーも耐えきれぬ。さらばだ、赤髪の神使! 次あった時は必ず倒す! だが、勝負に負けた以上! そいつの残りの分体は返してやるよ!」


 熊童子くまどうじが取り出した瓢箪ひょうたんから七十四匹の白狐が一気に放出された。


「あ? 逃がすわけねぇだろッ!! オイコラァ!!」


 彼女は追いかけるが、あの二人の鬼はとっとと行ってしまった。


「……チッ! だがまぁいい。阿久良王あくらおうを助ける事はできたんだ。良しとするか……あとお前怪我はないか?」


「あーはいダイジョブです。青葉あおばさんの識神のおかげです!」


「そうかならいい。にしても良く怪我しなくて済んだな、少しはやれるようだな。さてと、このまま阿久良王あくらおうを元に戻して帰るぞ。これから少し忙しくなるだろうからな」


「でも一体、何の集団だったんだ? でも可愛かったな……なんてのは?」


「……殺されかけててそれが言えるお前はもう立派な英雄だよ」


 と呆れ混じりに青葉あおばは俺に言うのだった。


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感想等よろしこ!!

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*未だ忙しいのは終わってないです。


次回予告 帰還! 尻尾天道へと行く

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