第14モフリ 行ったれ! 75匹の尻尾を目指して!!

 青天の空の下、俺はその身を焦がす。新鮮な空気感の中で俺と青葉あおばは神社の階段を下っている。昨日までは見事女体化していた俺は日をまたいだことで元の姿に戻っていた。


「岡山かぁ……遠いな。でも安心! なぜならッ! 鳥居ワープがあるからさ!!」


「んなもんねぇぞ」


 青葉あおば他所よそを向いて一人で喋っている俺を冷たくあしらう。思わぬ意表を突かれた俺は驚愕する。


「え!? でもお風呂のやつとかは……」


「あれは違うやつだ。どこでも自由に行き来できるほど摩訶不思議じゃねぇよ」


(えーーー!! てっきり「どこでも鳥居」だと思ってた……まじかぁ。それじゃあどうやって岡山まで行くんだ?)


 どうやら妖術とか神様や霊的なものでさえ物理的な距離を縮めることは敵わないようだ。……絶対できるだろと俺は強く心に思った。


「じゃあどうやって行くんです? ……空を飛ぶとか?」


「オメェにそんな事できるわけねぇだろ。駅を使って行く」


(駅? 駅って……電車? あーいや新幹線か)


「あーあとお前にコレ、先にやっとくよ」


 彼女は俺に何やら青いカードを手渡す。そこには妖霊西瓜ようれいすいかと書かれていた。


妖霊西瓜ようれいすいか? なんですコレ?」


「それを改札で使うんだよ」


「えッ? あぁ……西ってそういう」


「今から向かう駅の東口の右から2番めのヤツにかざすんだ。すると人の世から幻世へと移し変わる代物さ」


(つまり妖怪専用駅ってこと!? 何か形は違えど某魔法学校への行き方みたいな感じだなぁ)


 俺はスクリーンで誰もが見たであろうアノ光景を思い出す。懐かしさとアレと同じような経験ができるということに胸を躍らせながら歩を進めていく。


 ◆


 そうして俺たちは目的の駅に到着した。そこの東口改札に向かうと青葉あおばに話しかけられる。


「あぁそうだ忘れてた。お前そのまま入ると人間ってバレちまうからな、コレをつけろ」


 彼女は俺に狐の付け耳と狐面を渡してくる。なるほど! コレで偽装しろというわけか……って、ペンギンの居る某激安の店で売ってそうなクオリティなんだが。


(偽装するのにコレでいいのか? 怖いんだけど)


「はやくしろ。置いていくぞ」


「あっはい」


 俺は迷いを捨ててそのアイテムを装備した。そうして俺は改札を通り抜けるためカードをかざす。すると世界は瞬く間に豹変ひょうへんする!


 改札の向うから人の世は幻世へとみるみる変色していき、周囲の人間が消えて新たに現れたのは魑魅魍魎ちみもうりょうたぐいであった。この光景を見た俺は口から小声で感想が漏れ出た。


「うおおぉぉ! こいつはスゲェ……まるで百鬼夜行だな」


「おぉ百鬼夜行とはいい線行くじゃねぇか。因みにアタシたちがこれから乗る列車は百鬼夜行列車だ」


 そう言いながら彼女は笑いながら俺の背中をバシバシと叩いた。


「そのままじゃねぇか! ……って夜行? 今朝方ですよね?」


「名前とそれは関係ねぇよ。その昔は夜しかやってなかったからな、その名残だ」


「はえー……すっご。歴史があるんですね」


「あぁそうだな、その夜に紛れて間違えて乗車しちまった人間が居たらしくそのまま死んだけどな! アッハハハ!」


「笑えねぇよ!! 幽霊列車でもあんのかよここ……」


 良くも悪くもある意味でここの歴史は深いようだ。だがまぁそれは昔のことだ。今はきっと大丈夫さと思うようにした俺は複数のプラットフォームの中に「きさらぎ駅行き」という看板を見つけて肝を冷やした。


(バチクソにアウトな乗り換え先あるやん……もしマジではぐれたら死ぬなこれ)


 絶対に青葉あおばから離れないと固く決意を抱いた。


「ほらもう行くぞ、時間もそうねぇからな。なんせここから岡山までだからな、軽く五時間はかかる。」


「五時間!? えぇ……どうやって時間を潰そうかなぁ」


「んなもん寝てればすぐだよ。……置いてくぞ」


 と言い彼女はスタスタと行ってしまう。


「アァッ!!  チョッ!  待ってぇええ!!」


 そうして俺たちは岡山行きのプラットフォームまで着く。そこには既にもう列車が待機していた。列車は新幹線などではなく蒸気機関車だった。

 だがしかし、ただの蒸気機関車ではなかった。全体カラーリングは黒ではなく紫だった。しかも正面のあの丸い部分が目玉になっており、結膜は黄色く角膜は赤かった。そして寒冷地方特有のあの雪はけが付いていた。何だか色々と角みたいなのも生えていて刺刺トゲトゲしかった。


「随分と凄い見た目の列車だなおい」


「まぁこんなもんだろどこも」


 俺からすればズレた感覚にツッコまずにはいられなくなる。


「いやいや流石にどこもかしこもではないでしょ」


「いいからさっさと入るぞ」


「え、あぁはい」


 そうして俺たちは列車内部へと入っていく、するとそこに広がるのは映画でよく見る昔ならではのクロスシート席だった。俺たちは適当に同じ席で向かい合う形で座った。

 座席に座った俺は窓の先を見つめる。だが未だ列車は出発していないため景色などというものはなかった。


(ここから五時間かぁ……中々キツイな。家から本でも持ってくればよかったなぁ。ん? 家?)


 ここで俺はあることを思い出し目を見開く。


(あ、そうだった。俺マジで家に帰ってないんだったわ。やっぱ親とか心配してんるよなぁ。この非現実的な日常が心地よすぎてすっかり忘れてたわ。まぁそもそも連絡取れないしな。仕方ないのだろうか?)


 そう思いながら俺は目線を青葉あおばの方に合わせる。仮面越しだからか彼女は俺の目線に気が付いていないようだ。こんな風にじっくり見れる機会なんてまたとないだろう。故にじっくり観察させてもらう事にした。

 しばらく見つめていたら気付いたことがある。思えば今日の彼女の服装は屋敷の時とは違うシッカリとした服を着ている。巫女服のようにも見えるが少し特殊な様相だ。彼女専用なのだろうか? どちらにしろこれはとてもいい! カラーリングは白が目立つが、深緑がいい感じで合わさっている。特にあの紅色の尻尾を触りたい!


 何だかそのように見惚れていると列車の汽笛が鳴り、ガゴンッと大きな音と共に揺れて列車は進み始めた。しかしここからの五時間をいかにして時間を潰すかが重要課題である。


 さて時間潰しも兼ねて、ここに来るまでに見かけた妖怪たちの姿でも思い返してみるか。

 まず、超絶露出度の高い猫又がいたな。だがアレは恐らく外国産だろうな。ん? じゃあアレは猫又じゃないのか? 

 ……まぁなんでもいいや。他には車掌らしき人物が鬼だったなぁ……体のみならず着ている服までもがなんて言うか筋肉でいっぱいだった。


 まぁ他にも色々と居たがどうにも眠くなってきたな。目覚めた頃には到着しているだろうか?

 分からないが……まぁ……その、なん……だぁ……きっと……なんとか……なるさ。

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次回予告 尻尾に一路平安を贈ろう

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