第12モフリ 五目尻尾並べ
「ボードゲームで勝負しましょう」
「はぁ? 急に何いってんだお前」
俺の突拍子もない発言に戸惑う
「ほら、そこに色々あるじゃないですか。せっかくですしやりましょうよ」
「……あのなそういうことじゃなくてアタシは……って何勝手に取りに行ってんだよ!」
彼女に目もくれずそそくさと俺は複数のボードゲームが箱に立てかけてあるところまで行く。
「色々ありますねぇ……人生ゲームにオセロに将棋ですかぁ」
「おいッ! ……あぁもう好きにしろ!」
「まずはこれでもしましょうよ。五目並べ」
俺は自慢げな顔をしてプラスチック版五目並べが入った箱を持って見せつける。
「……オメェがもし男の姿のままだったらアタシは多分とっくにその顔殴ってるだろうな」
おぉ怖い……なんとも恐ろしい発言を軽々と投げつけてくる。好感度はマイナスを振り切っていそうだ。
「そんな怖いこと言わないでくださいよぉ。ほら早速やりましょ、やりましょ」
そうして俺は箱から五目並べプレイボードを取り出して彼女の前に置く。俺は対局に並ぶ感じで座り込む。
「まだやるって言ってねぇんだがなぁ……。はぁ、言っても仕方ねぇか」
人の話も聞かず事を進める俺を呆れた様子でため息を吐きながら言った。
「俺は白色使うんで、どうぞどうぞ」
「色なんて別にそこまで関係ないだろ」
そうして二人の五目並べが始まった。
部屋にはただパチッ、パチッとプラスチック同士がぶつかり合う音が聞こえる。それ以外の音はなく、ただそれだけが黙々と続いていくのであった。
始めはやる気もなく、だらけた姿勢で勝負をしていた彼女であったが次第に次の手、次の手を考える内に自然とその眼には火が宿っていた。
勝敗が決まっても、再開、また再開となんども勝負を続けた。その戦いには純粋な楽しさだけが包まれていた。
そしてその最中に彼女が突然話しかけてくる。
「なぁ、あのさ……」
「ん? なんですか……」
「今朝のことなんだけどよ……悪かったな」
「え? ……あぁあれね……別に構いませんよ。なんかよく覚えていませんし」
「そうか……悪かったな……」
何とも言えぬ空気感が広がっていた。するとそこにドアを叩く音が聞こえる。
「ッ!? まさか
「まぁ待てアタシが出る。」
そうして扉が開かれるとそこにいたのは
「あ!
「なんだ
「あのね
「おぉよく一発で分かるなぁ。アタシなんてすぐには分からなかったぞ」
「
「ちょッ! おまッ! そいういのじゃぁ……いや実際そう見えなくもねぇし、そうと言わざるを得ねぇか。この状況は」
ここで初めて自分の行いを顧みて気づくのであった。
「それで
「あ! えっとぉ……なんだっけ?」
目を点に口を逆三角形にして首を傾ける。どうやら伝言を今の文言で忘れてしまったようだ。
「はぁ? 忘れたって……しょうがねぇな。
「あ、えっと……うん! それならわかるよ!」
「じゃあそこまでいくか……」
「あの俺は……」
ここままでは置いてけぼりにされそうな俺は
「あぁ? ……あーそうだなぁ」
「ここで待ってろと言いたい所だが、ここで変に待たせるとお前がアタシの部屋で何するかわからんしなぁ」
「何もしねぇよ」
俺は思わずツッコミを入れてしまう。
「まぁなんだ取り敢えず付いてこいよ、もしかしたらお前にも用があるかもしれねぇし」
「はぁ……そうですか」
確かにここで待っているのも暇であるため俺は彼女の言うことに従うのであった。
「まぁここに居ても暇なんで付いて行きます!!」
「暇とは何だ暇とは……まっいいか」
「はい! お兄さん! 手!」
「あ、……はい」
俺は言われるがままに手を差し伸べて
もし俺が男の姿であったのなら、その様は親子の様とも言えたかもしれないが……もしかするとこれは宇宙人が捕まる例の写真のような構図だったかもしれない。
「フンッ♪ フフンッ♪」
よほど嬉しいのか鼻歌が交じるほど楽しげな様子で
なんだか不思議なものだ。微笑ましいというかなんというか心がほんわかする。
「それにしても
「なんかあったんですかね?」
「いやそこまで大したことはないはずだ。どうせアイツのことだ下らん理由で呼びつけたんだろ」
その時、俺は思い出す。
好奇心を抑えられない俺は試しに聞いてみることにした。
「そういえば
「バーカ! んなわけ無いだろ! アタシとアイツが親子なわけ……ねぇよ」
「じゃあどういう関係なんですか?」
「……まぁなんだ、詳しいことまではよ……残念だが言えねぇんだ」
彼女は何処か物寂しそうな目で下を見つめる。何か悲しませることを聞いてしまったようだ。
「なんかすみません。あまり聞いちゃいけないことのようで……」
「……ま、そのうちわかんじゃねーの? その時が来ればだがな」
彼女は何かを知っている素振りで言った。
しかし「そのうち」か……
(……そういえば俺、いつからここに居るんだ? あぁそうだ昨日からだったな……ここの廊下はどうにも時間間隔が狂う。風呂場も食堂も季節や時間帯を問わないせいか、どうにも一日を過ごしたのかどうかも分からなくなる。いけない、いけない)
そう気を引き締める俺であったが、この時間のズレは人にとってまさに龍宮城に居る浦島太郎と同じと言えるものかもしれない。陸の上に生きる生物はやはり日の下でかつ陸の上で生活をしなければ生きてはいけない生物なのかもしれない。
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次回予告 天夜に轟く尻尾は輪日
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