第10モフリ マッドサイエン尻尾

 髪が伸び胸が膨らみ肩は丸くなる。ほんの少し生えてきた髭は消え去り、俺の相棒は消えてなくなり新たな友が形成された。さらに喉仏も無くなったことでその声は別人へとなっていた。そんな現実に慌てふためく元男がいた。


「えええええええええええええええええ!!!!!!!!!」


「どうだい?新たな自分との邂逅は」


「いや! どうにもこうにも……でももし自分が女だったらとは考えてみた事はあったけど。うーーん」


 そうして俺は自分の顔をまじまじと眺める。新たな自分の姿、可能性の一つを見定めるかのように。


「うーーん……そんなに可愛くねぇな。女になったら可愛くとか、イケメンにとか考えたけど。ふっ、いっしょか……」


「そうかい? 私は可愛いと思うけどねぇ。青年はそう感じるのか」


「え? 青年って男に使うものじゃないんですか?」


「そんなことはないよ。本来【青年】とは男女問わず若い人間に使われる言葉さ。もっとも男性に多く用いられて表現されることは確かだけどね」


(へーーー、そうなんだー。ってチゲェ!! 危うく流されるところだったぜ。何でいきなり断りもなしでそんな物を仕込んだんだ?)


 俺は考える。昨日のこの人の様子や印象的には大人びていて、よく寝ている。という感じだったが……よくわかんねぇな!! という結果に落ち着くのが関の山だった。正しくミステリアス。だがその眼帯を見ているとマッドサイエンティストがもっとも的を射ているかもしれない。それにここの部屋はどうにも薄暗くごちゃまぜ研究室みたいな印象を受けなくはないが、寝床周りはキレイだ。


「それよりも何故俺の体で勝手にこんな事したんです? 実際満更でもないのは認めますけど、断ってくれてもいいじゃないですか」


「まぁそれでも良かったんだけどね。青年の慌てふためく姿を見たかっただけさ。それに実験とは言ったが深い意味はないよ」


「えぇ……それはそれで酷い。……因みにどれくらいで元に戻りますか?」


「ん? あぁ……」


 その時の翠蓮すいれんの顔は例えるならばこうだろう。


「明日の飲み会の帰りにトイレットペーパー買ってきてね」


「はーい」


「ただいまー」


「おかえりなさーい。あれ? トイレットペーパーは?」


「え? なんだっけ?」


「貴ぃいい様ぁああああ!!!」


「ふぎぃいいいい!!! ごめんなさいぃぃいいい!!」


 みたいな感じでそんなことは思いもしてなかったというあっけにとられた顔。言われてみればそういうこと考えないとイケナイんだっけ。みたいなものである。

 俺の顔が引きつる。


「うぉぉおおお!!! おいおいおいィ!! やっべぇじゃんそれ!! やっぺぇじゃん!」


 思わず言い間違えてしまうほどの焦りを見せる。このまま一生女性のままというのやぶさかではないがしかし!!!つわりと言われるもの、言わばお月様を俺は恐れているのである。というのも俺の腹は男の時から元々弱く、腹痛に関しては毎年悩みのタネが尽きぬほどである。


 しかしお月様となれば比較にならぬものと考えており、腹痛Lv.100と言えよう。しかもそれが定期的に一週間ほどだろうか? 続くのである!! そんな恐ろしいことはできれば経験したくはない!!


「まぁ……大丈夫さ、直に元に戻るよきっと。妖術でやったものだし永遠とはいかないはずさ。だが、丸一日はそのままかもねぇ」


「エーホントかなぁ? まぁでも信じて待つしかないか」


「まぁでもなんだ。急に姿形が変わっては困惑する者もいるだろう。少し待ちたまえ」


 そうして彼女は箱の中からゴソゴソと中を探し出す。


「あ! あったあった、これこれ。青年! これを着け給え」


「! これは……?」


 俺に手渡された物は睡蓮の形をしたペンダントだった。


「なんですかこれ? ペンダント? 何か効果あるんです?」


「そのペンダントは言わば、首輪みたいなものさ。ネームプレートかな? いやマーキングか? ま、そんな所だよ。青葉あおばや他の人達から見れば私が原因とわかる代物さ」


「あー! なるほどそういうことかーってなるかい!! 首輪て!! マーキングて!」


 俺は思いっきしツッコむ。それはそうだろうさ、首輪とかマーキングとか言われたもんだからな。やむを得なくとも嫌になるものさ。


「そう咎めないでおくれよ。これくらいしか分かりやすい物はなかったんだ。あと女体化による精神的な影響があるかもしれないから気をつけてねぇ」


「精神的な影響? 女々しくなるとかか?」


「さぁ? どうだろうね。主にはそういう事かもしれないが、物事は常に予想外な結果しか生まないものさ。十分に注意し給え」


「注意も何もないだろ。なっちゃったら……もう、ねぇ?」


 俺は想像する自分の女々しい姿を。この姿だからこそまだいいが、元のことを考えると少し怖気がする思いをする。


(うえぇぇぇええいいぃぃ……考えたくもない……)


「さて、もう元気になったのならさっさと行くといいさ。あ! あと、喜久彌きくやには会わないことをオススメするよ」


「え? なんでってぇ……あぁそうか、大方予想はつくよ。あの感じでは確実にお持ち帰りされるな。ならば喜久彌きくや以外の人と会って粘着しなければいけないという事か……」


 俺は深く考える。どうしたら良いか? どうやってヤツの索敵から振り切るか。

 そこで俺は一つの真実に辿り着く! 灯台下暗しということを!!


「いやそんなんやったら普通に翠蓮すいれんさん付いて来てくださいよ。それでいいじゃないですか?」


「おっとぉ。それはお断りだよ? 私も忙しくてねぇ……勿論! 青年には申し訳ないという心はあるが、そのための"それ"だ。自分でなんとかし給え、ふぁぁ……」


 と、絶対この後寝る気まんまんだろというあくびをかきながら片手に枕を持ち、頭にアイマスクを着ける。その申し訳ないという心はどうやら眠るという欲より軽いようだ。俺はコノヤローと思いながら見つめていた。


「じゃあもう行くからな、睡魔」


 俺は去り際にちょっとの仕返し文句を言う。ふ、これで少しは悔しい思いをするだろうシメシメと思いながら。


「睡魔でも夢魔でも結構...私は狐さ。寝た後にちょっかい出してもいいかもね?」


「し、しませんよ!! そんなこと! ……フンッ!!」


 逆にからかわれてしまった。ある意味純情で健康的な俺はつい想像してしまうが、すぐにその事を頭から掻き消す。


(良くない良くないダメダメ! 女の子同士でそんな……ってあれ、オレ百合肯定派のはずなのになぜこんな思考が流れて来た?)


 どうやら俺の心はもう侵され始めているようだ。

 ハンモックを組み立て、横になりながら翠蓮すいれんは話し出す。


「それでは青年、頑張って生き延びるといいさ……」


「寝やがったぞ、こいつ……まぁもう行くか。」


「さーてと扉を開けてーー」


 そうして俺は扉を開けた。が、それは間違いだったようだ。この屋敷は想像した所に行けるみたいな仕組みの屋敷だ。その最中に俺はある事を考えてしまった。


「うーーん結局どこに行っちゃったんだろ? 心配じゃないの狐朱こあけちゃん?」


「ま、大丈夫じゃろ。妾的にはそろそろかの?」


「……喜久彌いねぇよなって、あ」


 目と目が逢う瞬間ヤヴァイと気付いたーー!! が一瞬で脳内で再生された。なんと扉を開けた先にいたのだ。今一番会ってはイケナイ人が!


「! えっ君……え、そうだよね? ね? 狐朱こあけちゃん?」


「おや主よ、知らぬ間に何とも珍妙な姿になったものじゃの」


 狐朱こあけはクスクスとよほど面白い物を見ているかの様子で笑う。

 喜久彌きくやは少し興奮している様子だ。


「あ……えっと……逃げるんだよおおおおおおおおおおお!!!」


 俺は逃げた!それはもう脱兎の如く敗走したのだった。


「あ! ちょっと待ってよーー!!!」


 それに対し喜久彌きくやが追いかける!


 このままでは俺はいいようにもてあそばれることだろう。



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次回予告 尻尾取り鬼ごっこスタート

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