第8モフリ 寝る間も尻尾/起きぬけも尻尾
天に昇り、地を掴み、行き着く先は
その天理を見た者の一人に俺は数えられた。つまりあの店にて極上のマッサージを経験したことだ。全ての肉体的疲れは消え去り、肉体健康度が二百
俺たちの会話が無限に広がる廊下の虚空へと
「あれ? 廊下だ! 浴場じゃないのか」
「ま、あのまま浴場を通るのも億劫じゃしの」
そう言い彼女は目を細くしながら、からりと笑う
「えっと、んじゃあ僕はもう寝ますんでまた明日! おやすみなさい」
「これ主よ。そうイケズな事を言うでない。」
彼女は口元をぷぅとしてジト目でこちらを見てくる。
「え? イケズ? なぜ?」
(んんん? どういう事? 何かしなきゃいけないことあったか?)
俺の脳内はクエスチョンマークで埋め尽くされていた。何を言っているか理解できないといった具合に俺は困惑していた。
「何をそう深読みしておるのじゃ。このたわけ」
彼女が呆れた様子で俺に言う。心が筒抜けだったようだ。
「なに、単純なことじゃよ。主一人で行くでない。妾も同行するのじゃ」
「か、花◯院ッ!!!」
俺の顔に見たことのあるような独特な影模様が浮く。
「なんじゃあ? 何の事じゃ?」
「アッ……いえなんでも無いです。ハイ」
オタクの良くないところと言うべきか俺自身の問題か、あまりよろしくないノリが出てしまう。
(やっべぇ……つい某漫画ネタが出てしまったぁ……。え? 待てよ今なんて言った?)
「主の部屋までついてくと言ってるのじゃ。何でも言わせるでない」
「え! な、なんですか!?」
「それは……秘密じゃ」
そっぽ向いた様子で言う。俺は考える。
(秘密? 一体……まいっっっっか!!!!)
「じゃあ行きましょうか!」
「主よ。うるさい」
「ウッ、スミマセン……」
俺は取り敢えずこれ以上考えても無駄だろうと思い考えるのをやめた。全てをその身のままに任せて、川の流れに体を委ねるかのようにした。
しばしの間、廊下を歩き自分の部屋に該当する部屋のドアを見つけそのまま入った。そう入ったのだ。俺だけでなく何故か彼女も一緒に。
「あのー……
「主は嫌かの?」
「え、いやそんなことはないですけど」
俺は照れる、気まずさを感じる、困惑する、どうしたら良いのか、何を話したら良いのか……。わからない、とにかくわからない。ここは自分の部屋として借りている部屋だが、本来は違う。というかこういった自室みたいな部屋に女性と一緒にいるというのはどうにも他の部屋や温泉とは違った緊張感を生む。
もう寝ようと思ってた。されどこの状況では寝れるに寝れず。どうしようかと手をこまねいていたら彼女が切り出す。
「ほれさっさと、布団の支度をせぬか」
「あ、はい」
言われるがままの人形の如くテキパキと支度を済ませる。こうすることで少しでもこの空間に充満する奇妙な緊張感から早く解き放たれたかったからである。
だがその俺の無駄な望みは潰えるのだった。
「良しッ。準備終わりましたよ……って、え!」
俺が振り返ると先程まで彼女が着ていた巫女服はいつの間にやら寝間着へと変わっていた。
「い、いつの間に!? なんて早業だぁ」
「ほ、そう大した手品ではないぞ。主よ」
「ぅんん。ん? 待てよ、これはもしかしてなくても」
と、何かを察したかのような物言いな俺に彼女は
「朴念仁の主でも分かったようじゃな」
「添い寝……ですッかァ!?」
「分かったのならさっさと横にならんか」
彼女は終始俺の過度と言える反応に対し冷たくあしらう。
そうして俺はそのまま布団に入り横になった。
(ドキッ! ドキドキッ! ワックワック!)
「明かり消すからの」
明かりが消え視界は闇一色に染まるが徐々に目が慣れていき、月の光で周りが少し見えてくる。
「さて、失礼するでの」
(どうして
「主よ。それ以上考え込むでない。眠れなくなるでな」
「あーそういえば、そうですよね。分かっちゃうんですよね。慣れないな、ははは」
「ここは妾が主を快眠へと導くために一肌脱いでやろうかの」
「え、いったい――」
彼女の方へと顔を向けた瞬間にポフッとフワフワした物が不意に顔に当たる。
そう彼女の尻尾である。彼女のモフッモフッの尻尾が俺の顔を包み込んでいるのである。
「! こ、これは……触っても?」
というか既に触れている、手ではなく顔だがな。
「よいぞ、特別に許そう」
さわっさわっと優しくそして確かめながら触る……いやモフるのであった。
そのぎこちなさは次第に慣れ、少し大胆にもなりつつあった。
「主よ。妾のような狐の尻尾は非常に価値の高いものじゃ。そのような高嶺の花に主は今触れておるのじゃ。存分に噛み締めるがよい」
(あぁー念願のモフモフ尻尾モフリツアーズがいまここに……軽く死ねるぜ。癒される。心の邪気なんて塵と化していくのを感じる)
「今の主は本当にややこのようでめごいのぉ」
優しい囁き声が耳を震わせる。触覚、嗅覚、聴覚この3つの感覚が幸せに満ちている。理想としていたシチュエーションが現実になっているのだ。もう夢は見なくて良い、夢は現実にあるのだから。
「深い眠りにつくまでそうしているが良い。
「そうして目を覚ましても尚のこと妾の尻尾を求めるというのなら叶えてやらんこともない。……他の娘は知らんがの」
意識が遠のく……もう少し噛み締めていたい。ずっと、ずっと、ずっと。永遠に永久に永劫に長久に無窮に悠久にとこしえにとわに。そう……ずっと――。
◆
「どうやら寝たようじゃの」
「……」
「主よ。妾は……いや妾たちは主を……」
「……寝たものに言うのも仕方ないの」
「この続きは……妾が言うつもりであった、この続きの言葉は」
「主が起きているいつかの時にでも言うとするかの」
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よろしければ感想やレビューなど待ってるぜ!!
さすれば作者のモチベがアップテンポよ!!!!!
次回予告 次章突入 日常は恋模様そして白昼夢
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