第2モフリ 美しい尻尾には毒がある

 いやっったああああああああああああああああああああああああああ。

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああ。


 と俺の心は舞い上がり、祭り状態になる。俺の名は、瀧ケ崎たきがさき 時哉ときや

 ごく普通の青年だ、少しだけネジが外れているかもしれんが許容範囲と言えるだろう……きっと。


 なぜ俺がこんなにも有頂天なのか、それは目の前に光景に感動しているからだ。この目に映るものは、本物の狐娘なのである。


 純白の髪と毛並みを持ち、少し髪に何かしらのマークの形をした紅色の部分を持つ。

 その瞳の金色の輝きは、かの黄金郷の財宝よりも輝き美しい宝石と言えるだろう。

 透き通るその肌とそれを包む巫女服。実に素晴らしい。

 それよりもあの尻尾……素晴らしいな、モフモフ具合が実に期待できる。


 このような経験ができるのは、この世界に存在するどんな聖人や富豪が望もうとも決して経験することも叶うことも無いとさえ言える経験を俺は今しているのだ!


「あ、あの……えっとその……」


(やっべぇ……どどっどうしようか、まともに話せる気がしない)


 俺は緊張のあまりどうしたら良いのか分からなくなってしまう。


「ほっほっほ、そう照れるでないぬしよ」


「あ! その、ゴフッゴフッ、えーと、はいすみせん。お見苦しいところをお見せしたようで」


 若干の咳払いをしながら俺は受け答えた。そんな俺の無様な姿に彼女は微笑んで見せる。


「なに気にするでない、妾を前にするものは如何様な反応をするものじゃよ」


 理想が現実になる……こんなに嬉しいことはない。そう俺は幸せの気持ちでいっぱいであったが、ある事実に気づく。


(ふーっ……いや待て冷静になるんだ。この状況……俺にとって理想と言えるものであるが、俺は今軽い神隠しにあってるんだ。その元凶が目の前に現れたと考えるのが正しいと言えるはずだ。……情報を集めねば)


 そうして冷静さを少し取り戻した俺は目の前の人物に尋ねる。


「えっと、そのお名前をお伺いしてもよろしいですか? 俺の名前は瀧ケ崎たきがさき 時哉ときやって言います」


「妾の名は狐朱こあけじゃ」


狐朱こあけさん、いや『様』と呼んだほうがいいですか?」


ぬしのすきなようにせい」


「これ神隠しで当ってますかね? 俺をここに誘導とかって……しました?」


 と、琴線に触れぬよう探り探りな物言いで聞く。


「そう固くならずとも良い。多少の無礼も許す」


「ありがとうございます。えっとそれで……」


「はて? なんじゃったかの? よく聞こえんな」


(あ……聞いちゃいけないやつかなぁ?)


 と、俺は何かを察し、何も言えなくなる。

 それを見兼ねてか、彼女が俺にとある提案をしてきた。


「代わりにと言ってはなんじゃが、主の気になることの一つを答えてやろう」


 と、何かを知っているかの様子で切り出す。彼女は続けて言う。


ぬしが言っておった個人経営タイプとチェーン店タイプのどちらかをな」


 と、怪しい笑みを持って話しだす。その言葉に俺は驚き、目を見開いてしまう。


(!? その話を俺は口にしてはいなかったはず! まさか――)


「そうじゃ、妾は主の言うところの個人経営タイプに値するのぉ」


(おーーっと、これは……。きな臭くなってきましたねぇ、へっへへ……へ)


 何かあったら急いで逃げれるように己の筋肉に準備をさせる命令を脳内で必死に下す。構わず彼女はゆっくりとこちらへ歩み寄りながらこう言う。


「すまんなぁ未熟者で」


 彼女の顔は怪しい笑顔で満ち溢れていた。目の前の人物から強烈な圧を感じる。


「あっいや、そのぉ」


(こ、この人ぉ……人の心が読めるタイプかぁ)


 顔は青ざめ冷や汗が流れる。この圧に完全に気圧されていた。


「クスッ……ホホホ、そう怖がるでないぬしよ。別にとって食ったりはせんよ」


「あはははは…」


(こ、こぇええ。でもこの状況を作り出した張本人で相違ないだろうな)


「そんなことよりもぬしよ、立って話すのもなんじゃ。こっちへ来てゆったりと話さんか? 多少もてなすぞ」


 と、座って話せる場所へと誘われる。これは場合によっては罠の可能性がある。すべてが自分の都合どおりとは限らない。甘い誘惑の先には死が待っているという話は古来からあるものだ。しかし、この俺にとっては断る理由などなかった。


「あぁいいっすね! じゃあお願いします!」


 それはひとえに俺が狐娘が好きであったからだ。


「それでは、妾の屋敷まで案内するかの。ついて参れ」


 そうして俺は神社本殿の左の方にある林の抜け道を通り、その奥に屋敷……いや旅館とも思える見た目の建物があった。玄関の上には狐弥弥堂こみやどうと書かれた看板があった。


(なにかの店か? いや店だったのか? どうなんだろ?)


 普通の家に看板なんて置くものではない。その疑問もよそに玄関の扉は開けられ招き入れられる。


「この廊下を真っすぐ進んで階段の横を通り過ぎた先の部屋で待っててもらえるかの。妾の気に入っている中庭が見えるところじゃ」


「ん? どこかへ行かれるのですか?」


「何、ぬしをもてなす準備じゃよ。首を長くしてまっておれ」


 そう言い残して彼女はどこかへと行ってしまった。

 俺は言われたとおりに中庭の見える部屋へと向かった。


「ああなるほど、仕切りのない開放的な場所だな。縁側もあるな、確かに寛ぐには最適で夏の風物詩と言える場所だな」


 風通しが良い所為か心地が良い、思わずそのまま胡座あぐらをかいて畳の上に座り込んだ。なぜ自分がこのような事に巻き込まれているかなど忘れてしまいそうな……。


(忘れるかい、そんなこと。今でも不思議じゃわホンマにぃ……)


(ここは確かにいいところだ。だが本当にここは自分にとって良いところなのか、まだ判断するには早すぎるってもんだ)


 しかしこの俺にとっては正直なところ、狐娘という生涯をかけても出会えぬ存在に出会ったのだ。何時でも死ねる覚悟はできているに等しい心の持ちようではあった。


 すると、先程この部屋に入るときに開けたふすまの方から足音が聞こえる。狐朱こあけさんが来たのだろうか? 音がする方へ顔を向ける。

 そのふすまが開かれるとそこにいたのは―――。


「ん? 何だオメェ? どっから来た?」


 と、俺を見て疑問を投げかける見知らぬ赤髪の狐娘がそこには立っていた。紅色の野性的な長髪と毛色を持ち、翡翠ひすいの瞳を持った顔に少しの傷跡が目立つ。如何にも男勝りと言えるタイプの浴衣を着た狐娘がそこにいた。


(新キャラ登場ときたかぁーーーッ。嬉しいぃねぇええええ!!)


 またもや俺の心は祭り状態となる。心のなかで激しく何度も万歳をしている。


(ということは、ここはアレか。ルームシェア的なやつか? それともここ旅館か? にしては女将的な雰囲気と言うべきものは狐朱こあけさんにはなかったし……)


 俺は目の前の謎の狐娘をほっぽって自分の世界に入り込んでしまった。すぐに返事が返ってこないのに痺れを切らした謎の狐娘が怒ってしまう。


「オイ! そこの人間! アタシを無視すんじゃねぇよ! なんで人間のお前がここにいるんだ?」


「あーえっと。その狐朱こあけさんに案内されてここにお邪魔させてもらってます」


「ンだよ。あいつの指し金かぁ、で名前は?」


 と、彼女は頭を片手でポリポリ掻きながら言う。


瀧ケ崎たきがさき 時哉ときやです。よろしくお願いします」


「ん? お前、今なんて言った?」


 と、何故か表情が変わり聞き直す謎の狐娘。何か引っかかったのだろうか?


「え? 瀧ケ崎たきがさき 時哉ときや――」


 その名前をちょうど言い切った瞬間!

 バタンッ! と、ふすまが勢いよく閉め出された。その勢いに俺は思わずビビる。


(うおッ! なんだぁ急に?! え? 何俺今なんかした??? 怖いよ……ていうかどっか行っちゃったな……何だったんだろ。まぁいいか! 新たな狐娘との出会いに感謝を)


 そのように困惑し歓喜している俺には聞こえない声で謎の狐娘は独り言を言う。


「なんでアイツがいんだよ……」――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


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次回予告 一尾二尾三尾と夢は広がる

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