第63話
『警察機構による、自作自演。』
あ、ハモった。
「御名答。
……辿り着きたくなかったがね。」
うわ。
楓花もショックな顔してんなぁ。
警察官の娘だから。
薄々感づいていたとはいえ、ちょっとこれ、事案が大きすぎるな。
予想よりずっと大がかりじゃねぇか。
「まぁ傍証に過ぎないがね。
立件はとても不可能だろう。」
まさしく。
と言うか、隠す気ないのかな、この人。
仮にそうだとしても、これ以上調べたら、この人の身も危なくなると思うが。
「さて、と。
どうしてこんなことをしたのか、
について、君は、解答を持っている顔だね?」
ちょうど、雛が戻って来た。
あとでまた、知らせないといけないな。
答えではなく、結果を利用しているだけかもしれない。
しかし、これは、まぎれようもなく。
なんとなく、分かっていたことではあった。
御前崎社長に、Twilight Soundsの内情を調べるようお願いした時から、
いや、御前崎社長が、ロックに過剰な不安を抱いていた時から。
その、物証が来ただけのことであって。
あ。
あっ。
(チーズケーキ。)
(チーズケーキとお冷。)
俺は、どうしてこの二人を、
同じ客だと思ったんだろう。
背丈も、肩幅も違っていた。
同じだったのは、その服装だけであって
「藤原君。」
あ、あぁ……。
な、なんでいま、このことを思い出したんだ?
いや。俺がこっちに来て思い出したことには、
なにか意味があるはずなんだ。
原作知識にせよ、二次創作にせよ、
この世界のことであるにせよ。
必ず、なにかが。
「……藤原君?」
だめだ、分からない。
いったん、置いておこう。
いまは。
「奏太。」
「ん?」
「一人で帰れる?」
「えぇ……。
イヤだよ、ここまで聞いて、ボクだけ帰るなんて。」
せめて、奏太だけは守りたいんだよ。
「だめだよ。
奏太。」
「……ひどいよ、純一。
また、ボクだけ除け者にして。」
「お店のチーズケーキ、コッソリ食べてるの、
マスターにばらすよ?」
「!?!?」
……はは。
やっすい脅され方。
ほんとに、奏太らしい。
*
「由奈。」
「うん。」
「お仕事に戻る気は?」
「雛さんと一緒なら。」
あぁ。
その手があるな。
雛はもう、知ってるわけだから。
「雛さん。」
……って。
「私はまだ、お客様のお話を承っておりません。」
う、あっ。
そう来たかっ。
「はは。藤原君。
君らしくもない落ち度だね。」
……ああ。
確かに。
動揺、してる。
一度、撃たれそうになったからだろうか。
でも。
ここで、止まっても、
どっちみち、全滅だろう。
由奈も、梨香も、雛も。
それなら。
腹を、決めるべきだ。
俺は、死んだも同然なのだから。
「後悔は、しませんね。」
「ああ。」
……はは。
どうしてこの人は、こんなにも覚悟が座ってるのだろう。
メガパンモブ、絶対尻に敷かれる。
俺は、雛にもう一度だけ目配せをした。
雛は、静かに頷いた。
「端的に申し上げます。
時任氏は、摘発麻薬を、横流ししているのです。
ロッカーと、その支持者に。」
『っ!?』
あぁ、やっぱり。
「潮間さん。
貴方は、警察組織の方ですね。」
内偵していたのだ。
朝靄大学を。大学の中の、誰かを。
「少し、急ぎましたね。
あの段階で調書まで出す必要は、なかったと思いますよ?」
「……
はは。
まぁ、君ならいずれ、分かってしまうと思っていたよ。」
「一応お伺いしますが、
鷹司陽介さんの好きなところは?」
「秘密を護る。
裏切らない。あと、強い。」
あ。
え。
強いんだ、メガパンモブ。
それであんな、強行措置が取れたのか。
……あはは。
姿かたちじゃないところが、信用しかないよ。
「わかりました。
で、
おそらく、こういうことです。
時任氏は、古手川氏からは、
かつて旧知だったロッカー仲間のリストを渡されている。
元ギタリスト、元ベーシストを中心に、です。
古手川氏はもちろん、用途など知らないでしょう。
ついでにいえば、古手川氏は、ロックミュージシャンは嫌いですから。」
どうしてここまで嫌うのかはいまいち分からないのだが。
啓哉に聞いても分からないだろうな。
あいつ、自分より無能だと思ってる人間に無関心だから。
つまり、人類の99.99%に対して。
「古手川氏から流れた名簿から、
かつてのロックスターや、そのフォロワーたちが、
次々と汚染されていくわけです。
再就職も難しかったでしょうから、
汚染させていくのは容易かったと思います。」
俺の時代の某宗教団体や、暴排法成立以降の暴力団構成員は、
元の所属を知られるだけで、あらゆる就職先から排除された。
まともな仕事なんて残ってるわけはない。
それに。
「ロッカーってそういうものだ、
そうあるべきだっていう思い込みがあったでしょ?」
汚染と最も遠い存在だった啓哉ですら、
この病には罹患していたのだから。
実際、某国の1960年代から70年代初頭は、ロックは麻薬と一体だった。
サイケデリックロックなんてのはその際たるものだろう。
俺の時代ですら、音楽業界と麻薬の関係が密接なジャンルも残っている。
日々、敵や犯罪と隣り合わせで生きている国の人達は、
どこかで、そういうものだと割り切っている。
でも、この平和な国の民は、それを絶対に許さない。
まして、大事件を起こしたと思われていれば。
俺の世界では、黎明期のロックは金持ちドラ息子の道楽だったし、
1980年代からロックがメジャーになっていくプロセスで、
メジャー一流のお上品さが覆うようになっていくので、
飲酒はともかく、麻薬と結びついているイメージは、
ハードロック、ヘヴィメタルにすらあまり見られない。
その、過渡期にあたる一瞬に、
最悪の増幅器がかかった、ということなのだろう。
それは、この国の音楽市場を、文字通り壊滅させた。
ロック、ニューミュージックは勿論、
フュージョンやAORも、そのほとんどがギター音源に由来している。
麺類の提供を唐突にすべて封じられたラーメン屋のようなものだろう。
音楽の仕事がある程度できていた連中は、アメリカなどに逃れているが、
そこで独り立ちできた連中はごくごく一部だろう。
精神を病んでしまって仕事を立ち行かせられない連中も多いだろうし。
あの教授だって、独り立ちの機会を喪ってしまえば、
虫の名前で呼ばれて髭を生やしたただの中年になり下がったかもしれない。
焼け跡の中から、ギター音源を徹頭徹尾除去して成り立たせた古手川氏と、
その周辺一派だけが、宣伝に用いる商業的な音楽の部分だけを復旧させた。
見かけだけ華やかなバラックが並んでいる状態だ。
ああ。
だから、沢埜啓哉と沢埜梨香の企みは、復讐なんだ。
この歪んだ市場で、彼らに抜きんでる、彼らの外へ出る存在を創ることが。
だからこそ。
「梨香さんを潰そうとした連中の背景に、
これほど大きなものがあったとは……。」
雛が、驚いている。
実のところ、俺もだ。
こんな設定をしなければ、アイドル音源だけでチャートを占める、
という離れ業が成り立たなかったのかと。
と、同時に。
妙に、納得してしまう。
このゲームは、鬱ゲー。
つまり、ディストピアだ。
ヒロイン達との繋がりは仮初のものに過ぎず、必ず、破滅が待ち構えている。
それは、この世界が、こと音楽に携わる者に関して、
破滅の構造を内包しているから。
だと、すれば。
「由奈。」
「……うん。」
「……聞いて、しまったね?」
「うん。
知ってた。」
……
は?
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