第5章
第61話
「チーズケーキは御口に合いましたか?
古手川総帥。」
「?
なんのことかね。」
あ、忘れてる。
むしろ、忘れたほうがいいのかもしれないが。
「……。
まさか、あの店の店員か。」
あら、思い出した。
脳が老化してるかと思ったが。
「啓哉さんに御用だったんですか?」
「……調子に乗るなよ。」
はは。
互いに警戒マックスって感じだが。
「
世界レベルだったわけじゃないですか。」
「……ふん。
どこで聞きかじったか。」
あら、一瞬で機嫌が変わった。
なんだろう、コイツ、啓哉と似た匂いを感じる。
そこだけは合ったんだろうなぁ。
でもって。
「古手川さんって、ギタリストですよね、もともと。」
「っ!?」
なんだよね。
資料を見て驚いたが、
ほんとは、コイツもギタリスト出身なのだ。
「ユーデンラート、ですか。」
「なんだ、それは。」
あれ、その手の教養、あんまりない?
進学校出身の筈なんだけど。
ま、いいか。
さて、どっちに振ろう……。
あぁ。
あはは。
めっちゃ睨んでる。
バレバレじゃん。
「帰りますよ、かえでさん。」
「!」
「ぇ。」
あぁ。
俺、ここにいないことになってるんだよね。
「また事務所で。
後のことは奈緒さんに。」
「う、うん。
じゃね。」
ADルックス、トップアイドルを前にちょっと足早に去り、
後ろに美人秘書を従えるの図。わりとカオスすぎる状況だな。
*
車中に来てるのに、まだ息が荒い。
あぁもう、武闘派、血気盛んなんだから。
「まだ早いって。」
「でも。」
「さっきのやりとり、どこまで聞いてた?」
「ユダヤ人評議会。」
え。
「よく知ってるね。」
「きみこそ。」
……二次創作キャラ、ほんとよくわかんないなぁ。
「で、まぁ、
前も言ったかもしれないけど、
彼って、お飾りっぽいんだよね。」
「……
なんで、そう言い切れるの。」
「啓哉さんに似てる。音楽バカ。
こだわってるところ、もうちょっと依怙地だけど。」
「……。」
「今回会って、かえって確信しちゃった。
だから、楓花さんや
真相に近いと思うよ。」
「……。
どうしてこういうほうばっかり勘が廻るの……。」
*
ふぅ。
事務所での寝起きにも慣れたわ。
結局のところ、隼士さんの警備員が護ってる事務所が一番安全。
雛が借りてくれたところですら、きな臭い動きがあったようだから。
コロナで封じ込め生活に慣れてなきゃ、発狂したかもしんないな。
まぁ、この
地続きでこっちの部屋を開けられるし。
がちゃっ
「あ、はよー。
よく寝られた?」
うわ。
そこまで崩してきたか荒事専用秘書モドキ。
一応ここ、職場なんだけどな。
「そうそう。
今日、真美ちゃん来るって。」
あぁ。
遂に、か。
っていうか。
「仕事、雑すぎない?」
午前と午後くらいは指定してくれ。
「きみ相手だもん。
部長みたく、秒刻みのスケジュールってわけじゃないでしょ?」
まぁなぁ。
じゃ、済まねぇんだよ。問題しかないな、この秘書モドキ。
二次創作の側でニューロンネットワークのバージョンアップしてくんないかなぁ。
*
あれ。
「二人とも、来たんだ。」
バツが悪そうな顔をする真美と天河。
まぁ、どっちが来てもいい話なんだけど。
「ま、いいや。
二人とも、座って。」
天河がちょっと驚いてる。
そうか。かまってちゃん対応の姿見せるのはじめてか。
ちょっと緩めにしよっと。
「……なんで、天河には椅子を引くのよっ。」
「態度って、人によって分けるものだよ。
良い態度の人には、良い対応を。
それだけのこと。」
「っ。」
「……あ、あの。」
あぁ。
喧嘩してるように見えるのかもしれないな。
なんせ、ギスギスしたところにいたから。
で、と。
「!?」
……指、ボロボロだけど、ちゃんと胼胝ができてる。
ただ、これはこれで。
「!?
な、なにすんのよっ。」
「胼胝はね、力がね、入りすぎてるからできるの。
フレットに当たるだけでいいんだから。
このへん、ちょっと削るくらいでちょうどいい。」
「け、啓哉さんは、そんなこと。」
「あの時代は根性論だからね。
ま、いまもそう変わらないけど。」
なんだよ、な。
ほんと、この国の意識って変わったよなぁ。
「ま、ちゃんとやってたみたいだね。」
「と、当然よ。」
「全然啓哉さんにかなわない。」
「っ!?
あ、当たり前でしょっ。」
ほう。
「当たり前なんだ。」
「そ、そりゃそうよっ。
年季も経験も全然違う。勝てるわけない。」
そっか。
「成長したね。
ロクな大人がいなかったんだね。」
啓哉もロクな大人じゃないけどな。
「……なによ、それ。」
「さぁ。
言葉遣いはちっとも成長しないね。」
「っ!?」
「ひとつ言っておくと、
君の不手際のせいで、柏木さん、
Tokyo Angelの餌食になるところだったんだからね。」
「……どういうことよ。」
あぁ。
やっぱり知らせねぇスタイルなんだなぁ。
普段なら喋らないんだけど、今日は。
「クリスマスの翌日くらいかな?
柏木さん、Tokyo Angelのメンバーに睡眠薬を飲まされて拉致されたんだよ。」
「う、ウソッ!」
あぁ。
御前崎社長、過保護すぎる。
「君、オトコを見る眼、まったくないね。」
ちょっと、ゲームプレイ時の恨みが入ってる。
コイツのせいで由奈ルート、台無しになったことあるから。
「……。」
でもコイツの単体ルートに乗ろうとすると、
それはそれで、とんでもねぇ落とし穴があるんだけどな。
ともかくかまってちゃん、ゲームでもリアルでも地雷の山。
「まぁ、人を見る眼自体なかったと思うけど。
雛さんが救出していなかったら、彩音さんは今頃。」
「や、やめてっ。」
一応、彩音のことは大事に思ってるってことか。
ってか、天河、震えちゃってる。いろいろ辛かったろうなぁ。
「ま、そういうことだから、ほんとうに身を慎んでね。
これから君達は、表舞台に出るわけだから。」
「……ぇ。」
「え、じゃなくて。
君たち、今日、なにしに来たの?」
「だ、だって。」
あぁ。
啓哉も全然伝えてねぇな。
どういうつもりなんだ、ったく。
*
……なるほどなぁ。
こう、来たか。
「さすがだね、啓哉さん。」
ほんと、音楽に関しては紛れもなく天才だわ。
二曲。
A面とB面ってとこだろうなぁ。
A面はまぁ、この時代の文脈に沿っている。
ギター入りAOR。本来のTwilight Soundsに近い。
こういう引出もちゃんとあるよ的な。
んでもって、B面。
この時代に存在しないと言っても良い、
ブラー流のわりと激しめな下北ロック。
バンドブームって、音楽的には洗練されたものじゃなかったし、
その後のどうにもシンプルなロックの時期も、
音楽史の中では顧みられることが少ない時代だ。
一気に、十五年以上、先に行くように見えて、
実は、1970年代の漸化式に過ぎない。
イギリスでは、1970年代のパンクロックの実験が、
70年代終わりには洗練されたものに変わって来たのに、
アメリカではシンプルなものに向かって行った。
俺の世界のロックは、アメリカを模してしまったが、
イギリスを写し取って、先に進むことができるなら。
まぁ、要するにぼっちちゃんのことですな。
メロディラインはポップスとしてのフックもしっかり成り立ってるし。
「あ、あの。
プロデューサー。」
プロデューサーじゃない、と言うつもりはもうない。
「わ、わたし、
こっちをやりたいです。」
あぁ。
言うと思った。
尖ったほうを選んじゃうんだよね、若いうちは。
「2月にこれをぶつけたら、
君たちのバンド人生は消滅する。」
あぁ、二人とも、ぺっしゃんこになった。
「でも、
3月3日なら、できるかもしれない。」
「……どういうことよ。」
そのために裏工作まわしてるんだよ、いろいろ。
「まぁ、どっちの曲も、ちゃんと練習しておくこと。
啓哉さんにお墨付きを貰えるくらいまでに。」
あ、心底嫌な顔をした。
啓哉の奴、音楽に関してはガッチリ統制かけてるな。
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