第4章
第50話
(……、
ひ……ぶ……。)
ん……。
まっ、くら……?
(……く……………とお…っ…る…)
……?
……
(…こ……はじゅん………に……る…)
……
(…う…いし…と…り……す……ると)
……??
(……で…、
『もう、おそいから』
っ!??
はぁ……
はぁ……っ
…
……
な、なんだったんだ、いまの夢。
げ。
うわ、きもちわるぅっ……。
吐き、気がっ……
*
「睡眠不足と栄養失調とお伺いしましたが。」
なんですよ、ね……。
なんのドラマ性もなくて申し訳ない。
「だからあれほどお伝えしたではありませんか。
体調管理も仕事のうちです。」
……はは。
なんだか、なぁ。
あやうく過労死するところだった。
脳がやられなくて本当によかった。
「全治一週間、しっかり入院頂きます。
よろしいですね。」
よろしくもないんだけど。
年末進行の時期にそんなに休んでいられる筈がない。
「……そんなに、私達が信用なりませんか。」
そうは言ってないけど。
そんな顔されても。
「雛さんは信頼していますが、雛さん以外が。」
はは。
思い当たる節がありまくる顔だな。
つっても。
「今回、白鷺さんには、助けられましたけれどね。」
名前を呼ばれたら脳ミソ吹き飛ばされたし
伏せて、だったらどこかしらに当たってた。
「避けて」の指示は、さすが荒事芸と言うべきだろう。
「……。」
いい機会、だから。
「白鷺さんのこと。
そろそろ、お話頂けますか。」
「……
わかり、ました
「のちほどでなくて、いまです。
簡単で良いですので。」
「……。
では。
白鷺楓花の父は、警察官です。
七年前の事件で、父親を亡くしています。」
あぁ……、殉職者。
そういうこと、か。
つまり。
「啓哉さん、その先にいる隼人さんを、
事件の黒幕、真犯人だと思った。」
どうしてそう思ったのかは良く分からないところがあるが、
理路としては、あってもおかしくはない。
「……。」
「で、僕はその手先と見られて狙われていたと。」
「……その通りです。」
なるほど、な。
と、いうことは。
「気づかれたわけですか。
構図が、まるで違うことに。」
「……多少は。」
気づくまで、好きなだけ調べさせていたわけか。
リスキーな選択だなぁ。
「……私も、そうなっても、
おかしくはありませんでしたから。」
あぁ。
「雛さんは、啓哉さんのファンですからね。
そうはならないでしょう。」
「……若気の至りです。」
あら。
「怒られますよ、ご本尊に。」
「……ふふ。」
あぁ、
こんな風に解けて笑えるようになった雛を、大切に感じられる。
最初の頃は、お邪魔虫のプレデター・ジェニーとしか思ってなかったのに。
「……今回ばかりは、
純一さんも、地獄に行かれると思ったんですが。」
「どうして地獄ですか。」
善行しか積んでねぇぞ。
「……つくづく、罪しかない方ですね。」
なんだそりゃ。
「……業務のご報告は致しますので、本当に、しっかりお休み下さい。
カロリーは一日2000キロカロリー取って下さい。
衰弱死されたいなら別ですが。」
あぁ。
よく考えると、この病院って。
*
「次のニュースです。
24日未明、東京の渋谷公会堂で、発砲と見られる事件がありました。
公会堂の舞台袖に複数の弾痕が存在したことから、
警察では、暴力団同士の抗争があったとみて、捜査に乗り出しています。
なお、この事件では、怪我人はいなかったとのことです。」
……落としどころ、こんな感じになったわけか。
だいっぶん現実と違うけど、ま、このへんにしとかないと、こっちにも
……ん?
あの、シルエットって。
「やぁ。」
……あは、は。
「調子はどうだね、青年。」
やっぱり、同じ
隼人さんが無茶を言えるところなんて、そう多いわけないから。
テレビ、消してっと。
「……どうでしょう。
まだ、フワフワしてます。」
沢埜啓哉は、銀縁の眼鏡を外していた。
そりゃ、梨香の兄だからな。容姿は抜群にいい。
少しやつれてはいるが、縦ジワが薄くなっている
寝不足の解消された目元が爽やかな、詐欺臭い青年実業家の誕生だ。
これでギターが弾ければ、そりゃもう、モテにモテただろう。
「徹夜続きだったそうだな。」
そうなんだよ。
身体が、なんか、落ち着かなくて。
だけど。
「……啓哉さんが、そうなった理由が分かりましたよ。
やること、多すぎますからね。」
コイツの場合は、社員を雇わなかったせいだが、
その理由も、今なら分かる。
「信用が置ける人間が少なくてな。」
業界のルールから外れた異端児。
で、ありながら、当代最強の歌姫を囲っている。
周りには本当に、敵しかいなかったろう。
いろいろ聞きたいこと、話したい事はある。
とりあえず、一番大事なことから。
「文月真美は、才能、ありますか。」
「才能だけだ。
なにもかも、これからだな。」
はっはっは。音楽に関しては厳しさしかないな。
まぁ、由奈にもこういう奴だったよ。
沢埜啓哉の耳は、聴こえている。
やっぱり、ギターの音色が近くにあれば、それで良かったんだ。
「1月レコーディング、2月シングルデビュー、
4月末アルバム完成、5月からミニツアー。
そんなところですか。」
「ああ。」
デビュー、させたいんだ。
ギターが入ったガールズバンドとして。
それなら、
ちょっと、揺さぶってみるか。
「演りたいんじゃないんですか、啓哉さんも。」
「……。」
ほら。
コイツ、プライドが高いもんだから。
「世界最高水準からは、もう、遠くなっちゃってるでしょうけれどね。
それでも、この歪んだ国の中では、依然として
「そんなもの、クリエイターとしての意味など
「ないですね。
でも、触らないのも辛かったでしょう。
いいんですよ、もう。気持ちが落ち着くくらいで。」
世界レベルだったテニスプレイヤーが、
週3くらいで身体をこなす程度でやるようなもの。ほどほどのお付き合い。
勿論不満はあるだろうが、完全に離れてしまうよりは、よほど精神は安定する。
「……。
ふん。」
あはは、ほんと素直じゃねぇなぁ。
ま、そりゃそうか。
「……
『Assorted Love』だが。」
あぁ、気づかれたか。
「余計なこと、しました?」
「……いや。
あれで、いい。
あれは、元々、そうすべきだった。」
原曲通りに、支えの音色の一つとして、薄くギターを入れさせた。
厚みを増すためだけの、大半の人には気づかれない程度に。
アドリブのリフは勿論入れられなかったが。
「……あれで、良かったんだ。
俺には、できなかった。」
「これから、作れますよ。」
「……ふん。」
あはは。
キレがないな。嫌味が出てこない。
便器を回転して泉に見立てた話とか出てこなそう。
ああ。
いまの啓哉に聞いておくなら、これだ。
「Twilight Artsの古手川琢磨さん。
いつから、お知り合いなんですか。」
「古手川さんか。
彼は、僕よりももっと前の世代だ。
グループサウンズの時代の人でね。
その頃から、ロックとは相性が悪かったらしい。」
わかった。
めちゃくちゃわかってしまった。
コイツ、こんなイヤミな顔してるのに、奏太寄りだ。
自分に危害を加えたかもしれない敵方の総帥について、音楽しか見てない。
なるほど、隼人さんや雛がやきもきせざるを得なかったわけだ。
「彼の作る緻密な編曲世界は、僕も大変参考になった。
君も意識はしてるだろう。」
「僕の場合は、元ネタのほうに意識がありますが。」
「はっはっは。
そうか。洋楽しか知らなかったな、君は。」
「沢埜さんっ!」
え。
「出歩かないで下さいとお伝えしたじゃありませんか。
手術したばっかりでしょうっ。」
は?
しゅ、じゅつ?
雛、そんなこと
「ああ。気にしなくていいぞ、青年。
ちょっとな、検査でひっかかっただけで。」
「いいからお部屋に戻って下さいっ。」
あ、婦長さん的な人にばたばた送られてった。
……あとで雛に聞いとこ。
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