第24話
「啓哉は、超一流のギタリストだったっ!
世界を狙えるはずだったのよっ!
あんなこと、あんなことさえ起こらなければっ!!」
……なん、だって?!
あのネチネチ嫌味吐き陰キャが、
トップオブ陽キャのギタリストだったって??
……はは。
にわかに信じらんねぇなぁ。
ただ、この女、嘘をついてるようにゃ見えねぇな。
肩で息してるし。
で、これって……
あぁ。
つまり、そういうこと?
「貴方達は、沢埜啓哉が、
ロックを裏切ったと思ってるわけですか。」
「っ!?」
図星かよ。
ったく、なんで俺があの嫌味野郎の肩、持たねぇといけねぇんだよ。
「沢埜啓哉がプロデュースした白川由奈のデビュー曲、
しっかり聴きましたか。」
顔、そらしやがった。
絶対聴いてねぇな。
ま、それが普通だわ。
同じ奴がプロデュースしてても、ジャンル違えば、手は出さない。
「おかしいですね。
あのシンセで、ベース刻んでるの、気づかないなんて。」
「!?」
「繰り返しますが、僕は、沢埜啓哉の廻し者ではなく、
ある意味では、最も距離が遠い存在です。」
由奈を巡って争ってるからな。核弾頭も持ってるし。
シナリオ上では不倶戴天のラスボスだ。
……ただ。
「沢埜啓哉は、いまも、第一線で戦っています。
それを信じないのだとすれば、貴方に音楽雑誌の編集者の名は聊か重すぎる。
そう思いますが。」
「……っ。
ほんと、歯に絹着せぬ物言いね。」
……っていう噂が経ってんのかよ。
どこの誰だよ、流してる奴は。
「……知ってるわよ。
啓哉が、ギリギリのところで戦ってることくらいっ。
でも、あんなに弾けたのに、あんなことくらいで」
「麻薬、ですか。」
「っ!?」
これは原作で、ちょっと出てくる。
マスターが由奈ルート終盤で説明してくれるやつ。
バンドマン時代の、啓哉の
「……君、
まさか、わざと、なの?」
なんか最近、こういうことよく言われるんだけど。
全然そんなつもりないんだが。
って。
あぁ。
「春坂さんは、ファンだったんですね。
ギタリストとしての沢埜啓哉の。」
「……そうよ。
私の代で、啓哉のファンじゃなかった追っかけがいるなら、
見てみたいわよ。」
追っかけ、ねぇ。
その頃からあったな、そういえば。
ぴりりりりりり
ん?
ぴっ
あ。
あれ、業務用ポケットベルだ。
「電話、借りるわ。」
「どうぞ。」
あー。
スマホなくても、ああいうツールはあるわけか。
んー。でも、あれって由奈とかに使いづらいよなぁ。
文字送れたりしないのかな。あれは随分後だっけ。
なんか、喋ってるな。
ってか、雑誌編集長なのに、しっかり拘束されてんな。
ま、雑誌の編集長なんて、会社でいえば課長レベルだもんな。
「ごめんなさい。急用ができた。
これで失礼するわ。」
突然押しかけといてなんつー言い草。
まぁ、図太くないと記者なんてやってられんだろ。
まして、旗色が悪いらしいロックの記者なんて。
「言っておきますが、取材はお断りですから。
本人に直接お願いします。」
断るだろ、ふつうに。
「……いいわ。わかった。
君から許可を貰ったってアタックしてみる。」
っ!?
さ、最後、
とんでもねぇ爆弾置いていきやがったな。
あー。知らねぇぞ、俺。
*
「うわっはっはっはっはぁっ!
お前らみんな、皆殺しにしてやるっ!」
……っていうのを、モヒカンのロッカーがやってるのな、この世界。
世紀末覇者の怪人扱い?
気づいてみると、ロッカーの嫌われ方、随分だな。
(啓哉は、超一流のギタリストだったっ!
世界を狙えるはずだったのよっ!
あんなこと、あんなことさえ起こらなければっ!!)
……そんなもん、設定集にねぇぞ。
あいつ確か、バイオリンやってたんじゃなかったっけ。
って、それはガキの頃か。
気が狂う前は元バンドマンってところしか分かってなかったけど、
てっきりむっつりキーボードでもやってるんだとばかり。
直接本人に聞くわけにもいかねぇしなぁ。
なにしろ、
(いまのご自分のお立場、分かっておられるんですか)
(いまの貴方、外へなんて出られるわけないじゃない)
とか言われちゃってるんだよな。
誰かに狙われてもいるらしいし。なんでだ。
はぁ。
ま、原作まわりでは、一番大物のイベントは攻略がほぼ終わっている。
こうなると、あとは日取り待ちなわけで。
こないだは、急いて事を仕損じたわけだし、嫌でも慎重になっちまうな。
なので、迂闊な外出は避けたほうがいい。
となると。
……ヒマ、だ。
筋トレで一日過ごせる自信はさすがにないわ。
インターネットって暇潰しにゃ便利なもんだったなぁ。
いっそ奏太みたく本でも借りるってのもいいかもしれんな。
本、か。
あぁ。
大学の図書館で、新聞の縮刷版とか、見りゃいいわけか。
その事件とやらを。
……うーん、めんどいな。
検索システムに慣れてるから、索引を一から見ていくのはツライ。
この頃は、調べものするだけで骨が折れたろうなぁ。
どっちみち今日は必修もないしバイトもない。
雛も来ないから出かけようがない。
うーん。マジでヒマだぞ。
いっそ、ファミコンでも買ってくるか。
……遊べるか? あんなの。
アクションゲームしかないぞ。
あとは手書きのセーブシステム。地獄だな。
はぁ。
要するにノーイベントデーなんだよな、今日って。
ゲームだと、こういう時間はスキップできるんだけどな。
うーん。
……ん?
……
あぁ。
間違いない。
外に誰か、いる。
また記者でもいるのか?
それとも、ストーカー?
由奈の? 彩音の?
……
それ、とも……
ただの新聞勧誘とかなら、
可愛いもんなんだけどなぁ。
どっかの漫画だと、
ここで不用意に開けてナイフ刺されて殺されるんだろうけど。
あいにくだったな。
がちゃっ
「!?」
ドアで身を引いて
どがぁんっ!
「……って。」
あ、あぶねっ
寸止め、ぎりぎりだったっ。
って
「……御崎、さん?」
あぁぁぁ……
涙目になってるよ。
「す、すみません。
ど、どうぞ。」
「……う、うん。」
ほっ……。
あやうく悲劇が生まれるところだった。
って、なんでココ、知ってるんだよ御崎さん。
*
俺の部屋の座布団に、
ワンレンパーマなのに清楚なお姉さん姿の御崎さんが、ちょこんって正座してる。
綺麗に、背筋伸ばして。
……。
うーん。
これ、どう考えればいいんだろうな。
(……
なに……それ。
残酷、だよ。
ひどいよ。
こんなのって、ないよ。)
(由奈、ちゃんは、
だいじな、後輩。
だよ、ね?)
……。
(貴方、さっさと紗羽ちゃんと仲直りして頂戴)
……そう、するか。
そうしなきゃ、だし。
「わかりづらかったでしょう。ここ。
ちょっと、入り組んでますから。」
「……ううん。
何度か、通ったことあるから。」
……地味にストーカー発言頂いてしまった。
そんな用事、御崎さんにあるわけねぇもん。
「……社長さんにね、言われちゃったの。
ハタチ超えて子どもみたいな喧嘩するなーって。」
あぁ。そういうことか。
って、俺も御前崎社長に言われてるんだよな。
おせっかい婆かよ。
「純一君、音楽、詳しかったんだね。
いつの間に。」
「大したことないですよ。
嗜む程度です。」
原作の純一は全然知らない奴だったからな。
「そんな不良な趣味があっただなんて。
隠してたの?」
不良な趣味、か。
それを直球で言われる世界なんだな、ココって。
「それを言ったら、御崎さんだって。
凄いデザインじゃないですか、あのコスチューム。」
「あはは。
あれはね、純一君をいっっぱい恨んでたから。」
さらあっと柔らかくとんでもねぇことを言われたよ。
やっぱりあの少女貴族、暗黒服だったんじゃねぇか。
「彩音ちゃん、あんな歌、歌えるなんて思わなかった。
凄いね、純一君。」
「あれは柏木さんが凄い人だからですよ。」
「……そうだね。
凄いね、みんな。
彩音ちゃんも、……由奈、も。」
……由奈、って言う時に力、入ってるなぁ。
そう簡単に割り切れっこないか。
いや、ここはゆっくり行くって決めたじゃないか。
「……由奈、ほんとに、凄い。
あんな、天使みたいな姿、見たことなかった。」
……それはまぁ、引き出された姿だからなぁ。
「中身、全然変わってないですよ。」
「……会ってるん、だよね。」
「はい。
新幹線で。」
「……どういうこと?」
これ、リークしていいのかなぁ。
一応、外注とはいえ、BWプロの人だしな、御崎さん。
俺の話ならいいけど、由奈の話って。
いや。
藤原純一は、こういう考え方、絶対にしない。
そうだぞ。
純一を、あの不器用さと不用心さを、トレースするんだろ。
少なくとも、御崎さんに対しては。
「御前崎社長には、絶対に内緒ですよ。」
「……うん。」
真面目な顔する時、目が大きくなるんだよな。
眉、きりっとして、口結んでる。
こんなん可愛いわ。年上なのに。
「東京から、新幹線に乗って、
名古屋で、落ち合ったんです。」
「……ドラマみたい。」
「でしょ。派手ですよね。
で、由奈はセーラー着てました。」
「うちの高校の?」
「それだと変装になりませんよ。」
「あ、そっか。」
「で、ウィッグして。
分からない感じにしてましたよ。」
「……そうなんだ。」
「ええ。
その後、新大阪で別れたんですが、
そこで、彩音さんっていうか、御前崎社長の一行と遭遇してしまったんです。」
「……わ。」
「でしょ?
大変な一日でしたよ。」
「……ふふ。」
「?」
「ううん。
純一君らしいなって。」
いまののどこが純一君らしいんだよ。
「だって、由奈と逢ったんだから、
ふつう、断るでしょ?」
あぁ……
それが、正しい姿だよなぁ……。
「……そうやって、断らないの、
純一君っぽいなって。」
「……優柔不断ですよね。」
「ううん。
優しいなって。」
……あぁ。
そう考えちゃうんだ、この人は。
「……私ね、純一君に棄てられた時、
死んじゃおうかなって思って。」
うわっ!?
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