手紙

拝啓 君へ


秋の気配も次第に濃くなり、穏やかな好季節となってきました。体調はお変わりございませんか。

私は、残暑の厳しいこの季節にあなたの事を思い出します。

苦しく、そして愛おしかったあの日々をです。


君は最初に二人で出かけた日から離れるまで、ずっとわがままでしたね。

初めて二人でデートに行った日。

君は沢山の食べ物とお酒を注文し、少し食べた後それを全て残しましたね。


私は普段から慣れていいるので、君が残したものを一つ残らず完食しました。

付き合ってもいないのに君の唾液が沢山ついた食べ物を食べることになり、緊張を隠せなかった事を今でも覚えています。

あのときは、さぞ気持ち悪い顔をしていたでしょう。


そして、付き合っても君はわがままでした。

デートは必ず君の行きたい所、君のやりたい所でしたね。

僕はずっと君に連れられっぱなしでした。

お金は当然の如く僕が出していましたね。

ただ、今までの自分であれば絶対にやらないであろう経験ができたので、凄く楽しかったです。


同棲を始めても、君のわがままは留まることを知りませんでした。

掃除しに洗濯、日々の日用品のストックの確認は全て僕がやっていましたね。

その間、君は今日あった事を永遠と話し続け、僕の話は一切聞きませんでしたね。


君が偶にやる家事といえば、一つ作るのに12時間ぐらいかかる料理。

そこで出た洗い物は、全て僕に押し付けてきましたね。

ただ、僕が見たことも聞いたこともない料理が出てきて、時には感動し、時にはお腹を下しと、凄く刺激的な体験ができました。


そして、寝る時間。

僕が洗い物と洗濯物を残しているのを知っていばながら「寝れない!」と大きな声で叫び、僕の事を読んでましたね。

「洗い物が終わるまで待ってて」と言っても「寝れないの!」と大声で叫び続けて、僕の事を困らせてきましたね。

そのせいで、何度大家さんや管理会社さんに注意をされたかわかりません。


そして、一緒の布団に入ると寝るまでの約2時間。君は僕にしがみついて離そうとしませんでしたね。

君が寝てから僕は家事をするので、寝るのはいつも丑三つ時を過ぎた頃でした。


ここまでわがまま放題だった君をずっと愛する事ができたのは、きっと君の中で僕が一番だった自覚があったからでしょう。

ただ、君は違ったみたいでした。


他に男が居たのは別に構いません。

夏の残暑が段々と和らいできて、夜には秋の風が拭き始めた頃。

君は僕に別れを告げ、ダンボールに大量の私物を入れていきました。

「他に好きな人ができたと。」とたった一言を添えて

僕と一緒に居た数年間を、たった一言で済ませてしまう君に、私は何も言えずにいました。


君がいなくなった部屋は、ほとんど何もなく、ただ部屋の片隅にベッドが置かれているだけです。


寝る時間も、丑三つ時から早くなることはありません。


改めて君へ

どうか寝不足になってください。

「寝れない!」と大きな声で叫んでも、誰も来ない漆黒をどうか味わってください。


僕が今心から思える最大限の祈りです。

敬具

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無題 ひよこ(6歳) @shota0229

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