幸せの青い鳥


僕は今日もスマホの上でスマホをいじる。


画面を上から下にスワイプするとロード画面のマークが映り、画面が更新される。


表示されているのは、人々の生活が切り抜かれた文章と写真。

ある人は他愛の無いことを発信し、ある人はトロッコ問題は選ばない事こそが正解だと唱えている。

ある人は自らを着飾った写真を投稿し、ある人は聞いたことも無いアニメの立ち絵に対して性的搾取と騒いでいる。


その人のページに行けば、何人の人間に興味を持たれているのかが”フォロワー”という数字で可視化され、何人の人間から共感を得たり感想を寄せられているのかが”いいね”や”リプライ”の数で可視化されている。


僕が見ている人のページは約100万人のフォロワーがいる。

どれくらい凄いのかというと、政令指定都市がフォロワーだけで成立してしまうぐらいだ。

そして、おはようと言うだけで何万の”いいね”と何万の”リプライ”がつく。

その人がその人で居るだけで、100万人の人間に応援されているのである。


見ていた人のページを閉じ僕のページを確認する。

フォロワー数は、たったの52。

しかも、大半が全くコミュニケーションを取ることが出来ない人間ばかりである。

そして、僕の日々を切り抜いた投稿に対するいいねは0。


現実というのは、全部意識の外から殴ってくる。

いきなりの現実に僕はスマホを落とし、顔面に直撃した。

鼻のあたりに痛みを感じ思わず目をつぶってしまった。


痛みが引いてきた目を開けた後、僕はふと体を横に倒し部屋全体を見つめる。


部屋の隅っこでホコリを被っている大量のビジネス書。

パソコンには繋がっているが、どのゲーム機にも繋がっていないキャプチャーボード。

汚い字でメモ用紙に殴り書きをされている文章の塊のようなもの。


全てに目をつぶり、僕は今日もベッドでスマホを見続ける。



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