砂のお城
『自分は今日で変わるんだ。』
覚悟を胸に電車を降りた8月の夏。
お盆休みに入りいつもより閑散としていた改札をでて、目的地に向かって歩みを進めていく。
一歩一歩と歩みを進めていくうちに、少しの恐怖心が僕の足を改札に向けて引っ張っていく。
その恐怖心に負けないように、恐怖心の足かせを引きずりながら集合場所へと足を進めていく。
集合場所に到着すると、僕と同じ目的を持った人たちの集まりであろうと確認が出来る集団を確認した。
人間が複数集まったときに発生する独特の圧力に思わず体が反応してしまい、柱の影に隠れ、集団の様子を伺う。
事前準備はバッチリだ。
あの集団に居る人たちののTwitterの良いね欄やツイート内容を8割ぐらい把握をし、話題を合わせるために最低限の勉強はしてきた。
僕の視界に入っている人間であれば、どんな話をされてもある程度返せる自信はある。
お酒の限界も把握しているし、お酒の一気を強要された時の返しもシュミレートしてある。
準備によって培われた強固な城は、今宵の集まりにおいて最大限の力を発揮する。
そう信じていた。
ただ、声をかけようとするたびに、今まで友人関係で犯してきた失態が頭の中をよぎり、自分の全身を硬直させていく。
足は柱の影から出ることを許さず、太陽は僕の喉から全ての水分を奪い去っていく。
事前準備によって得た城は、波に攫われる砂の様に陥落した。
柱の裏に隠れているからこそ、天守閣は守られている。
柱から飛び出したら僕の城はどうなるのか、結果は明白だった。
本来声をかけなくてはいけない集団は、改札口から移動をしていく。
少しずつ小さくなり、次第に見えなくなった。
スマホを開きメッセージを入れる。
僕は駅の改札に向けて歩みを進めた。
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