無題
ひよこ(6歳)
ロックグラスと駄菓子
カルピスの原液をロックグラスに入れて、丸くカットした氷を一粒落とす。
氷がグラスに当たり、カランと美しい音色を奏でる。
側面下部に刻まれた紋様と氷が証明に乱反射し、部屋全体を一段とシックに染め上げていく。
ガラスの天板が輝くテーブルには、ロックグラスの他に、駄菓子が山の様に積まれている。
カルピスのロックを口に含み、口の中が溶けそうな甘みと酸味に包まる。それを中和するように駄菓子に手を伸ばしていく。
僕の居る空間は生活するに最適な温度で調整をされ、天気予報では酷暑と表現がされているが、僕は汗のひとつも書いていない。
特に目的もなく付けている壁一面に広がるかのようなテレビ番組では、愛で地球を救うとか訳の分からない大義名分を掲げ、名前も知らないような芸能人が何故がマラソンを走っている映像が流れている。
子供の頃はかなりの制限を味わってきた。
カルピスは2Lのペットボトルにほんの少ししか入れることが出来ず、ほぼ水だった。
目の前にあるお菓子も、子供の頃は一ヶ月に一個までと決められ、単価も100円以上は許されることはなかった。
持っているコップも、キャラクターが全面に印刷がされているプラスチック製のコップで、テーブルは脚の長さがあっておらずお椀を置く度にガタガタと大きな音を立てていたし、エアコンなんてものは両親の部屋にしかなく、寝不足の夏を何日間過ごしたのかはわからない。
そんな自分から考えれば、今の生活は切望したもののはずだった。
そのためにお金を稼ぎ、自分の時間を削りに削った。
墓場に持っていかなくてはいけない事もしたし、今でもその時の夢を見て目を覚ます。
そこまでして手に入れた生活。なのに、子供の頃の自分はつまらなそうにこちらを見つめている。
電話がなった、宛先を見て大きくため息をつく。
じっと見つめている子供の自分をカルピスの原液で黙らせ、僕は電話に出る
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます