第6話 勉強場所

 翌日、休日の土曜日。

 休日というのは学生が学校から解放されて自由に時間を過ごせる、言うなれば五日間の疲れを癒すことのできる癒しの時間だ。

 本当ならこういう自由に時間を使えるときにこそ勉強をして苦手なところとかを克服するのに当てるのが良いんだろうけど、あいにく俺はそこまで自制心が強くないため、とりあえず土曜日は勉強には一切触れず明日の日曜日だけ少し勉強をするという感じにして、今日はひたすら家でゆったりし────ようと思い何かアニメでも見ようとしたところで、メッセージの通知音が鳴った。


「休日に俺にメッセージ……?誰からだ?」


 俺は通知で表示されているメッセージをタップして、トーク画面に移る。


『初メッセージ失礼するね、今日土曜日だけどお時間あったりする?昨日はちゃんと勉強できなかったと思うから、その分の埋め合わせがしたくて』


 メッセージの相手は甘瀬さん……そうだった。

 昨日────


「いつでも他の子に勉強教わってないか確認できるように、暁くんの連絡先聞いても良い?」

「そんな理由で!?」

「それに、今の私たちの関係を考えたら何か連絡があった時のために連絡できた方が良いよね、例えばその日した勉強の補足とか……わかったら早くスマホ出して?連絡先交換するから」

「……はい」


 ────というのを怒っている怖い甘瀬さんに言われ、俺は仕方なくといった形で甘瀬さんと連絡先を交換してしまったんだった……!

 だが、確かに何か勉強について補足をしたい時とかに次の日学校で会うまで待たないといけないのはかなり面倒だし、甘瀬さんの言っていることも理に敵っていた……けど、とにかく言えるのは、昨日の甘瀬さんは本当に怖かった。

 今の甘瀬さんは、メッセージの雰囲気を見る感じクールな時の甘瀬さんといった感じだろうか。


「そして、そんな甘瀬さんから今日時間があるかどうかのメッセージが飛んできた、か……」


 どう返信したものか……昨日帰り際に「……はい!じゃあ今からはもう普通にするね!もう他の子に教わるとか言ったらダメだからね?」と言って、俺に対する対応がいつもの甘瀬さんに戻っていたから、今甘瀬さんは別に怖くは無いはず。

 俺は断るのも申し訳無かったため、せっかくの休日を手放してしまうのは惜しかったがそれを承諾することにした。


『わかりました、じゃあどこで勉強しますか?』


 俺がそう返信すると、甘瀬さんから予想外の返信が返ってきた。


『暁くんのお家とかどうかな?』


 ……俺の家!?

 家族は幸い今家に居ないけど、かといって甘瀬さんを……家に上げる!?


『近場のカフェとかじゃダメなんですか?』

『うん、暁くんのお家が良い』


 もしかしたら、甘瀬さんは周りがうるさいと勉強できない感じなのか……?

 だとしたらその回答も納得できる……が。


『うるさいのが嫌とかだったら、わざわざ俺の家じゃなくても良くないですか?』

『ううん、暁くんのお家が良い』

『でも、俺の家だって俺からしてみれば色々と誘惑があって、最大限勉強に集中できるかと言われればわかりません』


 もし声に出して会話していたのであればここまで甘瀬さんに対して意見を貫き通すことはできなかったかもしれないが、チャットならクールな時の甘瀬さんが相手だったとしてもある程度意見を貫けるな。

 甘瀬さんのことを家に上げるというのはハードルが高いため、そこだけは譲らないでいようとした時────


『甘瀬』


 甘瀬さんから電話が掛かってきた。

 ……電話!?

 突然のことに驚いた俺だったが、今の今までチャットをしていたのにも関わらず電話には出ないというのは意図的に無視しているということになってしまうため、俺は恐る恐るその電話に出た。


「もしもし」


 電話越しから、甘瀬さんの落ち着いた声が聞こえてくる。


「……もしもし、チャットでも話せてたのに、いきなり電話を掛けてきてどうしたんですか?」

「うん……チャットでも言ったけど、私暁くんのお家で暁くんに勉強教えてあげたいんだよね」

「俺もチャットでも言いましたけど、わざわざ俺の家じゃなくても他の場所でも良くないですか?」

「何か家に上げられない理由でもあるの?」

「それは……特に無いです」

「じゃあ、暁くんのお家でしよ?」

「でも────」

「暁くんのお家!」

「……わかりました」


 俺は落ち着いた甘瀬さんの威圧感に負けてしまい、そのまま電話を切って家の場所を甘瀬さんに送った。

 そして、三十分後。

 インターホンが鳴ったので、俺は玄関のドアを開ける。


「お邪魔するね、暁くん」

「……はい、どうぞ」


 そして────俺の家で、波乱の勉強会が始まろうとしていた。

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