第4話 放課後デート①

 放課後。

 俺たちは図書室で勉強をしたあと、言っていた通りに放課後デートというものを始めることとなり、学校から出て歩きながら話していた。

 ……今日も昨日と同じく、二人で勉強をしている時、甘瀬さんは甘々だった。


「とりあえず、今度は私が勉強する番ってことで……暁くんがよく休日とかに行ったりする場所とか行ってみたいんだけど、どこかある?」


 ……行って楽しいと思う場所はあるにはあるが、そこに甘瀬さんを連れて行くのは甘瀬さんが良い意味で場違いな気がして少し気が引けるため、俺は当たり障りのない回答をした。


「……勉強がてら、カフェとかよく行きますよ?学校の近くにあって、案外通いやすいんですよね」

「────表向きの回答はそのくらいにして、ほんとは?」


 バレている……!

 甘瀬さんは勉学だけでなく、日常生活の勘の良さなども持ち合わせているようだ。


「……よく行くってほどでも無いんですけど、行って楽しいと思うのはゲームセンターとかです」

「あ〜!ゲーセンってやつだよね?確かゲームがいっぱい置いてある場所!行ったことないけど知識としては知ってるよ」

「あそこ本当にゲームしか無いですから、甘瀬さんには合わないかも────」

「ううん、暁くんが楽しいと思う場所、私も知りたい!」


 そう言うと、甘瀬さんは俺に笑顔を見せた。

 ……この笑顔は、本当に普段の甘瀬さんからは想像もできないほどに優しい笑顔で、その笑顔を見せられるたびに俺の目は奪われてしまう。


「わかりました、じゃあ行きましょうか」

「うん!」


 そして、俺と甘瀬さんは、街中にあるゲームセンターに向かった。

 ゲームセンターに着くと、甘瀬さんは楽しそうに周りを見渡して言った。


「色んなところで大きな音が流れてて、遊んでる人もみんな楽しそうだね……ゲームってコントローラー使ってやつものだと思ってたけど、そうじゃ無いのもこんなにあるんだ〜」

「はい……せっかくなので、何かやってみますか?」

「やってみる!……あれは?」


 甘瀬さんは一つのゲームを指差すと、急いでそっちに走って行った。

 俺も歩いてその後を追う。


「それはクレーンゲームです、このボタンを使ってこのクレーンを操作して、あそこにあるぬいぐるみを取るんです」

「そうなんだ〜!初めて見たよ……あの犬のぬいぐるみ、暁くんに似てない?」

「に、似てないですよ」


 甘瀬さんがそう言って指差した犬のぬいぐるみは、とても可愛い感じの犬で、全然俺とは違っていた……あれのどこをどう見たら俺に似ていると思ったんだ?

 そのことを考えようかと思ったが、甘瀬さんの思考を俺が完全に理解するのは不可能だとすぐに諦めて、せっかくなので甘瀬さんにクレーンゲームのやり方を教えることにした。


「このボタンでまずはクレーンを横に移動させて……」

「うんうん」


 甘瀬さんが頷いて俺の話を熱心に聞いてくれている中、俺は慎重にさっき甘瀬さんが言っていた俺に似ていると言う犬のぬいぐるみに横軸を合わせた。


「このボタンでクレーンを前に移動させるんです」


 そして、俺は横軸の時よりも慎重にその犬のぬいぐるみの真上にクレーンを持って行くことを努力した。

 もしこのぬいぐるみを取って甘瀬さんにあげたら、少しは勉強を教えてもらっている恩返しになると思ったからだ。


「掴んだ……!取れるか……!?」

「すごいね……!」


 ……だが、現実はそう甘くは無く。

 何故か突然クレーンのアームはやる気を無くしたようにぬいぐるみを手放すと、初期位置に戻った。


「残念だったね……」

「待ってください!もう一回だけやらせてください!」


 その後、俺はもう一回だけ、もう一回だけと言い続けて五回ほどチャレンジしたが、全て途中でアームがぬいぐるみを手放す形で失敗してしまった。


「もう一回────」

「待って、暁くん……私が取ってあげる」

「……甘瀬さん?」


 甘瀬さんはさっきまでの優しい雰囲気から一転して、いつもの教室などで見るクールな甘瀬さんの雰囲気になっていた。

 甘瀬さんは百円玉を入れると、さっそく横軸を慎重に合わせることに成功していた。

 ……初めてクレーンゲームを見たというのであればとても上手だが、それと商品を取れるかどうかは別の問題。

 そう思い申し訳ないが甘瀬さんのことをどう励まそうか考えながら見ていると────甘瀬さんはしっかりと犬のぬいぐるみの真上までクレーンを持って行って、アームは犬のぬいぐるみを掴んだ。


「……」


 だが、ここからアームがぬいぐるみを手放すというのがいつもの────と思った俺だったが、大きな物音とともに犬のぬいぐるみが商品口から出てきた。


「え……!?」


 甘瀬さんはそれを手に持つと、俺に差し出しながら言った。


「あげるよ、欲しかったんだよね?」

「いや……え!?どうやって取れたんですか!?」

「暁くんの見てたらわかったけど、あのアーム意地悪なことに左右に掛かってる力が違うみたいだったから、力の強い方にぬいぐるみがかかるように調整しただけだよ」


 ……どうやら、甘瀬さんはどうやら本当に天才なようだ、それもかなりの。

 普通初めて見たクレーンゲームを一発でクリアするなんて芸当はできない。


「流石ですね……でも、それは甘瀬さんにあげようと思って取ろうと思ってたので、俺は大丈夫です……取れなかったのに何言ってるんだって感じかもしれないですけど」

「私の、ために……」


 甘瀬さんはそのぬいぐるみを見つめると、優しい笑顔で言った。


「じゃあ私、このぬいぐるみを暁くんだと思って大切にするね」

「俺だと思って……!?あ、甘瀬さんがそうしたいなら、好きにしてください」


 そう言いながら、甘瀬さんはそのぬいぐるみを大事そうに抱きしめながら、その後も俺と一緒にゲームセンターでゲームをして回り────


「私これなんていうか知ってる!プリクラって言うんでしょ?」

「そうです」

「撮ろうよ!」

「え……でも、二人で撮るのは恋人とか────」

「私は暁くんと撮りたいの!」


 甘瀬さんは俺のことを無理やりそのプリクラの中に連れ込んできた。

 ……俺は仕方なく慣れない手つきでプリクラを操作すると、甘瀬さんと二人でツーショットを撮って、その日は解散となった。


◇甘瀬side◇

「このぬいぐるみを暁くんだと思うなら、部屋で勉強してる合間にも頭撫でてあげて、寝るときは一緒に寝ないとね……今日、楽しかったな〜!またデートしようね、暁くん」


 私は帰った後、暁くんに見立てた犬のぬいぐるみと、暁くんと撮ったプリクラ写真に対してそう話しかけていた。

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