第3話 ダメなこと
次の日。
学校に登校して教室に入った瞬間、俺はクラスの女子たちが一斉に俺の席に押し寄せてきたかと思えば、みんな同じようなことを聞いてきた。
「ねぇねぇ暁くん!昨日から甘瀬さんと勉強してるんだよね?甘瀬さんって誰かと二人きりになるのあんまり見たことないけど、どんな感じだった?」
「私も知りたい!」
「私も私も!」
という風に、みんなとにかく甘瀬さんと二人きりになるとどんな風になるのかを知りたがっているらしい……ここで疑問に思うのは、普通甘瀬さんのことなら女子よりも男子の方が気になるんじゃないかと思ったが、周りから妬みの視線を向けられていることから男子が俺に話を聞いてこない理由はわかった。
「……変わらず、いつもの甘瀬さんだった」
「え〜!やっぱりカッコよかったんだ〜!」
「甘瀬さんって本当クールだよね〜!女の私でも全然惚れちゃうもん!」
「わかる〜!」
……俺は今嘘をついた。
昨日の甘瀬さんは、明らかにいつもの甘瀬さんでは無かった。
いつもの甘瀬さんなら頭を撫でてきたりしないし、声音も昨日はいつもの何倍も優しかった。
……それにしても、わかっていたことだが甘瀬さんは女子人気も高いみたいだ。
「ねぇねぇ!暁くんは、甘瀬さんのことどう思う?」
「え、どうって……?」
「だから!男の子目線だと甘瀬さんがどんな感じに見えてるのかなと思って……!」
「……それは────」
「君たち、なんの話をしてるの?」
噂をすれば、というやつだろうか。
すでに学校に登校して、この教室の中に入っていたらしい甘瀬さんは、今自分の話をされているということが耳に入ってきたのか、俺たちが話しているところまで歩いてきた。
「あ、えっと!今甘瀬さんがかっこいいっていう話をしてて!」
「私が?私なんてカッコよくもなんともないよ」
「そ、そんなことないです!とってもカッコいいですよ!」
……女子たちが甘瀬さんのことを褒めているところに俺は要らないと考え、すぐに自分の席に向かった。
「あ、待って、暁く────」
一瞬甘瀬さんが俺の名前を呼んだような気もするが、すぐに聞こえなくなったので気のせいだと判断して俺は席に座った。
そして、次の休み時間になると、甘瀬さんが俺の席に来て話しかけてきた。
「今、お話ってできる?」
「はい、できますけど……勉強の話ですか?」
「そういうわけじゃ無いんだけど……」
甘瀬さんが場所を変えたいとのことで、俺たちは一階の階段横で話をすることになった……朝はよく使われる一階の階段だが、一限目以降は放課後になるまで基本的に誰も使わないため、誰にも聞かれたくない話をする時とかに適切な場所だと言えそうだ。
俺は甘瀬さんが話し始めてくれるのを待っていると、甘瀬さんはいきなり俺との距離を縮めてきた。
「甘瀬さん……!?」
「あの子たちとどんなこと話してたの?」
「……え?」
昨日俺と二人で勉強している時は常に優しく対応してくれていた甘瀬さんだったが、今はその影が全く見られず、そこに居るのはいつも教室で見るクールで美人な甘瀬さんだった。
それも……気のせいでなければ、少し怒っているような気もする。
とにかく、今は聞かれたことに対してだけ答えよう。
「さっきの女子も言ってましたけど、甘瀬さんがかっこいいっていう話をしてたんですよ」
「かっこいいっていう話になった経緯は?」
「え?確か、俺と甘瀬さんが昨日から一緒に勉強することについて話し始めたのがきっかけだったような────」
「もしかして、私の勉強の教え方悪かったの……?だったら謝るから、他の子に教わるなんてしないで、私がもう一回ちゃんと教えてあげるから」
「教え方……?違います、昨日から勉強を教えてもらってたっていう事実に基づいていろいろ聞かれただけで、甘瀬さんの教え方に不満なんて無いですよ」
そう言うと、甘瀬さんはぽかんとした表情になった。
「……ほんと?」
「本当です」
「……良かった」
甘瀬さんは安堵したような顔になると、さっきまでのクールな雰囲気は無くなって、昨日俺と図書室で勉強していた時の甘瀬さんに戻った。
「もしかしたら私の勉強の教え方が悪くて、他の子に教わろうとしてたのかなってヒヤヒヤしたよ〜」
「そんなことあるわけないじゃ無いですか」
「だよね!今更他の子に教わるとか、絶対したらいけないことだもんね……」
「……そ、そうですね」
「うん、それはしたらダメなことだからね?そんなことされたら私も悲しんだ後に怒っちゃうと思うから」
……何か話が噛み合っていないような気もするが、とりあえず話を合わせておくことにした。
一応、甘瀬さんの言っていることも間違ってはいないからだ。
「俺がテストで平均点以上を取るまでの間俺たちはパートナーですから、その間は甘瀬さん以外の人に勉強を教わったりしません」
「平均点以上を、取るまでの間……」
甘瀬さんは俺が今言ったことを何故か小さな声で復唱した。
すると、何か決意を固めたように一人頷くと、甘瀬さんは両手を後ろにして、落ち着いたような、優しいような声で言った。
「暁くん……今日、私と放課後デートしようよ」
「放課後……デート!?」
俺は、あの甘瀬さんからそんな言葉が出てきたという驚きと、突然の提案にかなり驚いてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます