第4話

「う、嘘……まさか……」

 さすがに、いつも落ち着いている月子も、それを聞いたときは驚いて言葉が出てこなかった。

 でも、目の前の二人のためにも自分がしっかりしなくちゃって思ったのか、気を取り直して言った。


「で、でも……た、たとえあの二人が本当に、『こっきゅりさん』のせいで死んじゃったんだとしても……だ、だからって、二人がそんなに落ち込むことないでしょっ⁉ 二人とも、知らずに占っちゃったんだし……ふ、二人がやらなくても、誰か別の人が、別の人を占ってたかもしれないでしょっ⁉ だ、だから、悪いのは全部『こっきゅりさん』で……二人が罪悪感とか感じる必要は……」

「ち、違うのぉっ!」

「え……?」


 そこで月子は、気づいた。

 さっきステラが投げてきたノートには、続きがあったこと。ノートの次のページには、ひらがなで……陽鞠と星の名前が何度も何度も書かれていた。



「わ、私たちぃ……占っちゃったのぉ……。つ、月子がいないときにぃ、ふ、二人だけで……お互いの『理想の相手』をぉ……」

「……」

「そのときは、いつもみたいにコインが動かなくて……。で、でも、お互いの気持ち・・・・・・・は知ってたから……ふざけて、コインを動かして……お互いの『理想の相手』としてお互いの名前を作っちゃったんだよっ!」

「……そ、そう……なの。あなたたち、そう、だったの……」

 


 陽鞠と星は、実は百合だった。

 それで、月子には内緒で「こっきゅりさん」をして、こっそり陽鞠の「理想の相手」として星の名前を。星の「理想の相手」として陽鞠を作ってしまっていた。

 だから、事故死や転落死してしまった友だちと同じように自分たちも「こっきゅりさん」に呪い殺されてしまう……そう考えて、怯えていたということらしい。


「私の名前の陽鞠ひまりは、百合の『り』を取って並び替えたら『マヒ』だしっ! ステラちゃんだって、『てらす』……『照らす』とかになっちゃうじゃん! きっと……『こっきゅりさん』に心臓麻痺させられたり、太陽に照らされてカラカラに干からびさせられちゃうんだよっ!」

「ま、まあまあ……落ち着きなさいよ……」


 それからも、月子がどれだけ慰めても陽鞠と星も落ち着きを取り戻すことはなかった。結局、それからしばらくして月子も帰ってしまったんだけど……。


 その二人は次の日も、その次の日も学校にくることはなかった。それどころか、引きこもっていたはずの部屋からもいなくなってしまって……。

 それ以来、二人の姿を見た人はいなかったんだって。




 え?

 これでこの話は、終わりだけど?


 あぁ?

 最後の方、急に雑すぎ? 「マヒ」とか「照らす」とか関係なく、二人とも行方不明になってる意味がわからない?

 ……あーもう、そんなこと私に言われても、知らないよ!


 どうせ、アレじゃないの⁉

 最初の犠牲者二人は結局、仲間内で冗談で言ってただけでホントに百合かどうかわかんなかったけど……陽鞠と星はマジもんの百合だったから、「こっきゅりさん」も我慢できなかったんじゃない⁉ 呪い方とか選んでる余裕がないほど、「こっきゅりさん」的に、マジで大好物だったってことじゃない⁉

 もう! そんな細かいこと、いちいち私に聞かないでよっ!


 えぇ⁉ まだ、なんかあんのっ⁉




 え……?

 あ、あー……それ?


 それはねー……ちょっと、仕方なかったんだよね……。



 だってほら、この話はさ……人の「名前」が、すごく重要だったから……。できるだけ、本当の名前を変えないようにしないといけなかったから……。


 だから……。

 仕方なかったの……。


 最初に私、「これは友だちの友だちの話」って言ってたくせに……仲良し三人組の中に、「私の名前」が出てきたとしても……。

 それは、仕方なかったの……。



 だって、「こっきゅりさん」は「『ゆり』に目がなく」て、「順番とか小さいことを気にしない」って言ったでしょ?


 だから、私の名前……『つきこ』を、変えることはできなかったわけ……。

 ほら、「こっきゅり」さんって……「こつきゆり」…………「こつき」…………ってね?



 ところであなた、最近あの女の子と仲いいみたいだけど……もしかして?













 うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ………………

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こっきゅりさん 紙月三角 @kamitsuki_san

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