第3話
さすがに「同じ学校の生徒がこんなふうに立て続けに死んでしまうのは非常事態だ」ってことで、次の日は緊急の休校日になった。
もちろん、亡くなった人たちの原因は交通事故と転落事故だから、そこに関連性とか事件性なんてあるわけはない。でも、急に同じ学校の友だちを失ったことに対する生徒たちへのメンタルケア的な目的で、そう決まったらしい。
だけど、その休校日が明けた次の日になっても。仲良し三人のうちの二人……
先生の話では病気とかじゃなくて、少なくとも体は健康らしいんだけど……。心配に思った月子は、その日の放課後、お見舞いで二人のことを訪ねてみることにした。なぜか二人は昨日からずっと、陽鞠の家に一緒にいるらしかった。
「どうしたの? 意外と臆病者の陽鞠だけならともかく、星まで学校を休むなんて。もしかして、また気にしてるの? 真夏さんのこと。美玖さんだけじゃなく、あの人も私たちが『こっきゅりさん』で占ったから……」
「ひ、ひぃっ⁉」
「や、やめて……!」
冗談交じりに言った月子のセリフに対して、まるで呪いの言葉でも聞いたみたいに怯える陽鞠と星。
彼女たちは昨日からろくに食事もとらずに、ただただ部屋のスミで体を寄せ合って過ごしていたらしい。見るからにやつれていて、肌もカサカサ。ほとんど睡眠もできてないらしく、目は充血していた。
そんな二人の様子に心を痛めた月子が、彼女たちに冷静に言い聞かせた。
「……だから、この前も私が言ったでしょう? あれは全部、偶然だって。私たちが『こっきゅりさん』をしたことと、二人が死んじゃったことは何も関係ないわよ」
仲良し三人の中でも、月子は一番大人びていて、いつも落ち着いていた。他の二人がケンカしたときに仲裁に入って仲直りさせることも多かったし。
だから彼女は、今回もそんな感じでなんとかなると思っていた。でも……。
「だいたい……この前、星も言ってたじゃない? 『こっきゅり』さんは『百合が大好き』なんだから、百合の占いで怒るわけがない。私たちの占いで、誰かを呪い殺すなんて、ありえないって……」
「違うのぉっ!」
あくまでも冷静だった月子の言葉は、その星の悲鳴みたいな声でかき消されてしまう。
「違う? 違うって、何が……」
「わ、私ぃ……わ、私たちぃ……き、気づいちゃったのぉっ!」
「え? 気づいた……って、だから何を?」
「う、うぅ……。うぅぅ……」
星は、もう何も言いたくなさそう。
その代わりに、陽鞠がその月子の質問に答えてくれた。
「『こっきゅりさん』は、『百合が大好物』……。そ、それってさ……私たちは、『百合が大好き』って意味だと思ってたけど……ほ、本当は、違ったんじゃないかな……? 私たち、ずっとずっと……勘違いしてたんじゃないかな……? もしかしたら本当に言葉通り、『こっきゅりさん』は『百合が大好物』で……。だ、だから、誰かが百合だって聞いたら、その人を食べてしまう……その人を呪い殺して、自分と同じように死後の世界に連れていっちゃうんじゃないかなって……」
「……はあ? 陽鞠、何言ってるの? そんなの、あなたが気にしすぎてるだけよ。気のせいに決まってる。だいたい……もしもそれが本当だとしたら、どうして二人だけを呪うの? 真夏さんと一緒にB組の六花さんも……美玖さんと一緒にアイドルのコジシュリも死後の世界に連れて行かないと、おかしいでしょ? 『こっきゅりさん』自身が、教えてくれたんでしょ? その二人は『恋人』だって。……だから、」
「だ、だからぁっ! それが違ったんだってばぁっ!」
そこで星が、彼女の足元にあったノートを月子に向かって乱暴に投げつけた。意味が分からない月子は、不審に思いながらもそのノートの中を見てみる。
すると……そこに書かれていたのは、人の名前だった。
これまでに、彼女たちが「こっきゅりさん」で占ってきた人物の名前。それから、その人の「理想の相手」とか「好きな人」として、「こっきゅりさん」が答えてきた人の名前だ。
でも……。
全部ひらがなで書かれていたその名前の一部には、いくつかバツ印がついて消されたり、矢印がついていたりした。
「こ、これって……」
その文字を見て、月子もようやく、他の二人が言いたいことを理解したんだ。
「『こっきゅりさんは
白峰美玖の「将来の恋人」を聞いたときの答えは……こ、じ、し、ゆ、り。
『ゆり』という文字を取って並び替えると、アイドルの
……こ、じ、し、ゆ、り。
……こ、じ、し。
……じ、こ、し。
……事故死。
片桐真夏の「好きな人」を聞いたときの答えは……ゆ、ら、り、つ、か。
……ゆ、ら、り、つ、か。
……ら、つ、か。
……落下。
「こ、これって……」
「『こっきゅりさん』は最初からずっと……私たちが占った相手をどうやって殺すかを、言ってたんだよっ!」
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