第36話 空の番人
街の入口の前にやってきた一行は前にいる沢山のプレイヤーの背中を見ながら、イベントの開始を待っていた。
そして、おれはクランメンバーと並んでいるが、隣にはチュウメイがいる。
「なぁ。天国ステージクリアしたか?」
隣からそう質問される。バカラさんがこっちを見ているけど気にしない。別に言ってもいいよね。
「あぁ。クリアしたばっかりだ。まだ地獄エリアには行ってない。情報を集めてただけ」
「今な、天国に戻ってるやつが増えてるんだよ」
これは嬉しい情報だな。一体なんでそんなことになっているのか不思議だ。
「なんで?」
「それがな、あの天使が落としていた輪っかあるだろ? あれ使うとダメージが増加するんだよ」
「マジか!? いいのかよ。そんな情報よこして?」
チュウメイは恥ずかしそうに頭をかきながらこちらをみた。
「前にウチのソラさんと衝突したときにお前言ってたろ? その時の言葉聞いてな、ネムさんをリアルに連れて行くのを無理だって言ったの気にしてたんだ」
「えっ? そんなことあったっけ?」
「あぁ。あったんだ。俺は親友なのに、マセラがしようとしたことを無理だと断言した。その罪滅ぼしもあるんだ。なんとかクリアしてほしい。俺はそう願っている」
チュウメイのそんな顔をみたら俺は胸にこみ上げてくるものがあった。
おれはそのことをあまり覚えていない。けど、気にしている人は覚えているんだもんだ。悪かったな。チュウメイ。
「ありがとよ。けど、そのこと忘れててあんまり覚えてないんだ」
「おい! マジかよ。言うんじゃなかったぜ」
「はははっ! 情報頂いたぜ!」
俺達が騒いでいるのを極一突のクランメンバーは微笑んで見守ってくれていた。
あっちのメンバーは知らないが、悪い顔はしていなかった。
その時頭の中に声が響いた。
『これよりイベントを開始します』
「くるぞぉぉ! 気合いれろぉぉぉ!」
そう意気込んでいたのは前の方にいたクランの人達だろう。
運営の話では第一から五までの魔物が襲ってくるらしいが、全種類くるのだろうか。だとしたら……。
「きたぞぉぉ! おい! 火の鳥がいるじゃねぇか! 魔法で撃ちおとせぇぇ!」
そんな指示を出しているが、そんなに人が密集している中で撃てるのだろうか。
モタモタしているうちに地上の魔物たちと共に火の鳥も来てしまった。
やつらが直接行ったら困る。
俺は跳躍し、さらに宙を蹴った。
「おいっ!? マセラ!?」
慌てて声を上げたのはチュウメイだったが、説明している暇はないから行かないと。
「説明は後で!」
宙を蹴って翔けていき火の鳥に肉薄する。これまでのスピートが良い感じのスピードなのでそのまま突っ込んで首を切り裂く。
次の獲物に翔けていき次々と火の鳥を下に落としていく。
これは実はセラフィムを倒した時のドロップの宝箱ガチャでゲットしたのだ。
このアイテムは空中も蹴って走ることができるのだ。その名も『飛び蹴り』だ。なかなかネーミングセンスを疑う名前だが、しかたない。
アクセサリー自体はイヤリングになっている。靴に翼が生えたようなデザインだ。
俺は宙に滞空してそのまま火の鳥を迎撃することにした。
空にたたずむ俺をみて地上のプライヤーたちは「空の番人」と名付けていたそうな。
空から来る敵ばかり見ていたが、地上の方はちょっと数が多すぎて捌けていなかったようだ。
「マセラ! 一回下りてこい! 手が回らねぇ!」
「はい!」
一度下に下りるとたしかに入口付近まで追いやられていた。その原因が前にある。
前にいるクランの者たちは最初ホーンラビットのような弱い者たちがくると思って油断していたようなのだが、最初にツッコんできたのはなんと第三エリアの火のゴーレムだったのだ。
それにさらに第四エリアのボスの雪男もきたらしい。
それで混乱を起こしているようだ。
本来あのエリアボスたちはパーティとかクランで相手するような魔物なのだ。
俺はその雪男目掛けてトップスピードで空中を翔けていった。ちょうどみんなの頭の上のあたりを。
チュウメイが後から言われた証言だと。首がもげるかと思うくらいの風圧だったそう。
────ズバンッッッ
雪男の首は真っ二つになった。
そのまま違う雪男に狙いを定めて首を刈っていく。
「はっはっはっはぁ! あいつすげぇ! 流石は最速!」
その声はおそらくソラさんだったと思う。めちゃくちゃ笑われた。空を走っていることと一撃で屠った威力に。
その出来事で俺の最速という名は広まった。
後に【最速のマセラ】と呼ばれることになった出来事である。
大体のデカ物を倒し終えるとバカラさん達の元へと戻った。
「おう。最速のお戻りだ!」
「すごいやないか! マセラ! みんなが驚いとる! いい気味や!」
バカラさんとキンドさんが笑いながら出迎えてくれた。
「みなさんは大丈夫ですか!?」
「ワタクシたちはだいじょうぶですわ。むしろ退屈しなくてよかったですわ」
シルフィはそういいながら魔法を放っている。
「こんなところまで追いやられるなんて作戦がなっておらんよな!?」
シルドが怒りを露わにしている。確かに現世ステージの魔物だからと言って甘く見すぎたかもしれない。こんなにエリアボスが押し寄せてくるとは思っていなかったから。
「第二波がきたぞぉ!」
再び魔物が蠢いているのが見えた。
よし。俺がネムさんを守る。
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