第35話 奮い立つ

 いよいよこの日はイベントの始まる週末の土曜日。

 リアルの時刻午前九時から始まることになっている。

 俺は飯をしっかり食べてことに挑む。


 インするとたくさんの人が集まっていた。

 初めて見るその人だかり。

 このゲームを始めてこんなに人がいるのを見るのは、初めてであった。


 俺が街の中にクランメンバーを探しに歩いていくと、定食屋『膳』の前にキンドさんがいるのが見えた。

 

 そこに手を振りながら向かっていく。キンドさんが中に声をかけているようだ。少しするとネムさんが顔を見せた。


「ネムさん! おはようございます! この街は絶対守りますから!」


「おはようございます! マセラさん! みんながいるから安心してるよ! この街は安全よね?」


 いつもの可愛い顔で束ねた紫の髪を振りながらガッツポーズをする。


「はい! ネムさんには指一本触れさせやしません! それより、店は大丈夫ですか?」


「ありがと! お店は大丈夫。みんな守るために出てくれるからお客さんいないんだ」


 笑いながらも少し寂しげな顔をするネムさん。その顔に胸が締め付けられる。


「この街を救ったら、必ず、またご飯を食べに来ます! 絶対です!」


「うん! マセラさん。死なないでね?」


「必ず、生きて帰ってきます!」


 俺がネムさんの前で熱く語っている横でキンドさんが。


「まぁ。おっちんでも生き返るしな」


 と冷めたことをいっていた。


 そんなやりとりをしているとぞくぞくと集まってきた。


「おぉ。お熱いねぇ。最後の別れってか? ギャハハハハ!」


「止めといた方がええで? 今、マセラスイッチはいっとるから」


 キンドさんが止めるようにバカラさんに注意している。たしかに俺は今アドレナリンが出ていて、イケイケの精神状態になっている。これはWBC決勝を迎えるときの状態ににている。


「バカラさん。マセラ様をからかわないでください」


「別にいいけど、うるさいのはやめて。恥ずかしいから。人がいっぱいいるのに」


 シルフィとアルトも冷めている。バカラさんに対してだが。


「みなさん。絶対にこの街は守りますよ!?」


「わぁってるから。でかい声出すな!」


 バカラさんに頭を叩かれた。

 ダメージはくらわないんだけどいたいんだよな。


「やぁ。久しぶりだね。マセラ」


 声をかけてきたのは『白雷の空』のクラマスであるソラさんであった。

 あいかわらず、後ろに沢山の人を伴っている。


「おひさしぶりです! ソラさん」


「協力の話をくれてありがとう。こちらとしても助かるよ。ボクたちだけだと限界があってね。どうやらナンバー1の『攻略連合』はでないみたいだね」


「やっぱりそうなんですか。まぁ、大丈夫ですよ。これだけの人数いれば!」


 俺は本心でそう思っていた。これだけの人数入れば魔物の軍勢など蹴散らせるだろうと。


「おうソラ。俺には挨拶なしかぁ!?」


 後ろから怒鳴ってきたのはバカラさん。


「バカラさん。落ち着いて下さい。対等の立場ですよ。どちらが上とかないんですから」


「ぐぬぬぬ。ソラ。協力感謝する」


 バカラさんが歯を食い縛っている姿を戦々恐々として見ていた。頼むから殴りかからないでくれよと願いながら。


「あぁ。僕としても渡りに船だったからね。よかったよ。まぁ、バカラに言われていたら受けない話しだっただろうけどね」


「あぁぁん!? なんだとゴラァ!?」


「話を受けてやってんだ! 文句あんのがゴラァ!?」


 二人が顔を近づけながらいきなり臨戦態勢にはいる。


「ソラさん。バカラさん。落ち着いて。今はそれどころではありません。いいですか?」


 俺が真ん中に入り二人を突き放す。


「ちっ! しかたねぇ」


「あぁ。マセラくん。すまないね」


 少しすると離れたところから黒い鎧と兜を装備した人が歩いてきた。人か?


「防衛について話し合いたいのだが。みんなで協力するだろ?」


 その言葉とは裏腹に協力しないと排除するような声色が含まれていた気がする。

 こちらは協力するつもりだったが、協力しない人はどうなるんだろう。

 そんなことを考えながら、ソラさんを見る。


「ボクが話をしてくるから待っててくれ」


「はい! お願いします」


 俺はお願いするとソラさんを通して話し合いをしてもらった。

 イベント開始まであと十五分しかないから、急いでもらわないと。


 雑談をしながら待っていると五分前になってソラさんが戻ってきた。


「なんだか言うこと聞けとか指示通りやれとか言われたがよ。ようは俺達の下っ端クランは街の入口の前で防衛だそうだ」


「えっ!? 『白雷の空』を下っ端扱いですか?」


 俺がそういうと眉間に皺を寄せて目を細め虚空を睨み付けていたソラさんがこちらを見る。


「やつらは二位、俺達は八位ということなのさ。それだけ」


「でも……」


「いいんだ。街の近くを防衛ということは、何もなければただ突っ立っているだけということ。でも、危なくなったら、最後の要ってことだ。そう考えれば、やる気が出てくるだろう?」


 ソラさんはやっぱりすごい。バカラさんも俺達を奮い立たせる言葉を発したりするが、このソラさんはその上を行くかもしれない。だって、こんなにもやる気に満ちてくるんだから。


「うおぉぉぉぉぉ! やってやろぉぉじゃないかぁぁぁぁ!」


「うぅるせぇ! マセラ」

「うっさいわ。恐いわ」

「いい気合いだな」

「マセラ様勇ましいですわ」

「マセラ、黙って」


 痛烈な突っ込みを受けながらも街の入口へとすすんでいく。


 いよいよ。イベントが始まる。

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