第15話 飲み会ってこんなもん

 急に突っ伏した俺を心配したのか恐る恐る声をかけてきた。


「お、おい? マセラ? どうしたんだ?」


「おれ、気づいてしまったんですよ……」


 バカラさんの問いに少し顔を上げて俺は答えた。


「ネムさんを迎え入れるのに、無職だとフラれるんじゃないかって! どうしましょう!?」


 急に立ち上がってバカラさんに顔を近づけて大声を出してしまった。

 唾が飛んだのか顔を拭いながらバカラさんが笑った。


「ギャハハハハ! 今更かよ! 財産があるから大丈夫じゃねぇのか? それとも何か? うちで働くか?」


「えっ? 働かせて貰えるんですか!?」


「保留」


 また愕然とする。


「まぁよ、まずはネムちゃんをゲットしてからでもいいんじゃねぇの? 本当にゲット出来たら、うちで雇ってやってもいいぜ? 大規模農家だからよ。人出は欲しいのよ!」


 そう言って肩を叩いて励ましてくれた。

 俺はそんなバカラさんの漢気に感動した。


「バガラザンありがどうございばずぅぅぅ」


 俺が泣きながらバカラさんに縋り付くと顔を押さえつけられて引き離される。


「やめろ! 泣き上戸かよめんどくせぇな!」


「ハッハッハッ! マセラ、やべぇやつやな。やっぱり。おい! 一回水飲んどいた方がええって!」


 目の前に水を出されたのでがぶ飲みする。

 もう一杯出されたのでそれもがぶ飲みする。

 少し気持ちが落ち着いてきた。


「はぁぁ。すみません。取り乱しました」


「マセラ様? お困りでしたらウチの会社でも採用致しますよ? 一緒に働きましょう? まぁ、その、ネムちゃんのこと、無理だったとしてもどうでしょうか?」


 シルフィが俺に優しく職場を紹介してくれている。けど、俺は今ネムさんの事しか考えられない! そうだ! 諦めるな!


「いや! ネムさんは無職でもいいと言うかもしれない! むしろ、資産はあるから一緒に定食屋をやるのもいいかもしれない! いい! 凄くいいぞ!」


「ギャハハハハ!」

「ハッハッハッ!」

「ホッホッホッ!」

「ふふふふっ!」

「ねぇ、この人大丈夫?」


 色んな反応で笑われた俺だったが、口に出したことでさらに決意は固まった。

 そうか。平日だから忙しくて出来ないとか言ってられないんだ。


 睡眠時間を少し削ってやれば出来るじゃないか。そうだよ。先着一名なんだから早くクリアしなければ。


 いきなり立ち上がった俺の肩を持って座らされた。


「気持ちはわかった! 焦る気持ちもわかるが、落ち着け! まずはゆっくり飲もうぜ!」


「せやせや、焦っても仕方あらへんって」


 バカラさんとキンドさんになだめられた俺は大人しくグラスに入っているビールを一口飲む。


「そういえば、皆さんは付き合い長いんですか?」


 皆のことを何も知らないことに気付き、聞いてみることにした。


「そうだなぁ。現天獄が今二年目くらいだろう? だから付き合いは一年くらいじゃねぇかな?」


「そんなもんやろなぁ」


 キンドは返事をしながらコップの中にあったビールをグビッと飲み干した。


「ワレは、バカラとは長いよな?」


「だなぁ。シルドは最初に出会ってるからな。キンドがその後だろ?」


 シルドは琥珀色の液体の入ったグラスを一口、口に含みダンディーな感じが滲み出ている。

 大人って感じだなぁ。


「その後が僕だよね? 最初は依頼されて作ってたんだよね?」


「そうだな! 装備品お願いしててクランに誘ったって感じだな。それでいうとシルフィなんてナンパしたようなもんだよな? ギャハハハハ!」


 バカラはシルフィを顎でさしながらそんなことを言う。ホントにナンパしたのか? 乗る方も乗る方だぞ?


「そうでしたわねぇ。姉ちゃん強いな。一緒にやろうぜ? っていう強引な勧誘でしたわね」


「そんな言い方だったか? まぁ、良いじゃねぇかよ」


「みなさん、仲良いんですね。定期的にこの会は開かれてるんですか?」


 俺は皆の様子をみて素直にそう思ったのだった。仲良く自然な振る舞いをしているように見える。風花お嬢様なんて財閥の令嬢だぞ?


「そうだな。月一回位は開いてるかもな。この店俺の親戚の店だからよ、貸切にしてもらってんだよ。もちろん、ちゃんと金は払ってるぜ? 主にシルフィが」


「えっ!?」


「いいんですのよ。こういう時しかお金使いませんし。ワタクシ、お友達も居ないものですから……」


 なんだか寂しいカミングアウトを聞いてしまったな。


「だからこのクランがワタクシのお友達なんです。大切な人達です。もちろん。マセラ様も」


「ありがとうございます」


 なんだか告白みたいな?

 少し顔が赤いし、酔ってるのかな?

 風花お嬢様。


「大丈夫ですか? 風花お嬢様?」


 酒が入っているであろうグラスをグビグビ飲み干してしまった。


「あっ! シルフィ!?」

「あちゃー。どないするん?」


 バカラさんとキンドさんが焦ったのには理由があったみたいで、シルフィさんはお酒に弱いんだそうだ。


「マセラ様ぁ? なんで、NPCに恋したんですか!? なぜ、現実で見つけないんですか!?」


 詰め寄られて大声で問われる。

 すごく密着してきてちょっと、困るなぁ色々と。


「始まった……」


 バカラさんが頭に手を当てて天を仰ぐ。

 この会はこれ以降、シルフィさんの説教で終わったのであった。

 ちょっと幸せな思いもできたけど、最後は長い車で帰って行った。

 流石はお嬢様。


 皆はそれぞれで帰路に着いたのであった。

 久しぶりに人と触れ合った気がした。

 楽しかったな。


 明日は、ネムさんの為に攻略するぞ!

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