第4話 ネムさんマジ天使

 目の前にはビックベアが赤い目でギラリと睨みを聞かせて二足歩行で立っている。

 

 「バッチコーイ!」


 エリアボスに速度が通用するか。

 俺の速度の見せどころだ。


 ゆっくりと近づいていく。


「グオォォォォ!」


 威嚇してくるビッグベア。

 大きさは三メートル位あるだろうか。

 デカい。


 爪を振り下ろしてくるが最小限でよける。

 速さ的にはまだまだ対応出来る。

 通り過ぎざまに足を斬り裂くが少ししか血のエフェクトが出ない。

 浅かったか。


「ガァァァァ!」


 両手を振り上げて何かをしようとしている。

 

 ────ズズゥゥゥンッ


 周辺の地面がグラグラと揺れた。

 揺れた大地の上で足元が安定しない。

 その隙を狙って大きな体を前かがみに倒して突っ込んできた。


 見えてはいるが如何せんデカくて避けるところがない。


「ヨォイショォォ!」


 上に跳躍しながら目を斬り裂く。

 エフェクトが多く流れる。


「グオォォォ!」


 やはり中々攻撃力がないと時間がかかるな。

 今ので少しダメージはあったはずだ。


 着地すると、直ぐに振り返り再び肉薄する。

 脚の腱を斬り裂く。

 すると片足は使えなくなった。


「ガアア」


 力なく足を引きずってこっちに振り返る。


「あっ。別に攻撃一回じゃなくていいよな」


 地面を目一杯蹴って跳躍する。

 一瞬でビッグベアに肉薄し首筋に狙いを定める。


 居合を放つ。放つ。放つ。


 ────ズバッズバズバズバズバズバ


 六連撃も入れれば流石にダメージエフェクトが溢れだしている。

 まだ終わらない。

 回れ右して反対側の首筋も攻める。


 ビックベアの頭と体は別れて消えていった。


 【レベルが上がりました。】

 【レベルが上がりました。】

 【レベルが上がりました。】


「おぉ。倒せた。なぁ、チュウメイ? これ第二エリアに行けんの?」


「はぁぁ。行けるよ。あのな、普通このエリアボスってパーティーで戦うんだぞ!?」


「まぁ、いいじゃん。楽しかったし」


 ボスの消えた後には青い宝箱が。


「あっ! なんかある!」


「お前、運がいいな」


「なんで?」


「青は武器のガチャ箱なんだよ」


「マジ!? ラッキー!」


 俺は駆け寄ると箱を開ける。

 入っていたのは打刀、初雪はつゆき

 白い刀身の綺麗な刀であった。


 インベントリに入れて確認する。レア度はDだ。今差してる打刀はFの無名だからそれよりは断然いい性能だ。


 早速、装備する刀を変更する。

 鞘は白に少し雪の結晶のような模様があしらってある。綺麗で気に入った。


「ランクいくつだったんだ?」


「Dだよ。初期のよりマシだったから交換したんだけど。これはネムさんのように可愛らしさと美しさを兼ね備えている。初雪という銘らしい。俺は気に入った」


「序盤にしてはかなりいいんじゃないか!? 俺でさえまだ武器はDランクだからな。というか、現世エリアではDランクが限界じゃないかと言われている」


 帰路につきながらもチュウメイから情報を得るために探りを入れる。今後のために武器の情報は知っておいた方がいいだろう。


「なぁ、これを強化とかは出来ないのか?」


「マセラは勘がいいな。その通りだ。鍛冶師に頼めば強化してもらえる。だが、ランクをあげるには素材とそれなりのレベルがないと無理らしい。らしいってのも、まだそこまで達している人を俺は知らないんだ」


「ふーん。そうか。じゃあ、地道にやって行くしかないんだな」


「俺はそう思うぞ?」


 チュウメイは鍛冶師の知り合いはいないんだな。自分で探さないと行けないと。


「なぁ、あとパーティーって言ってたけどそれって何人までとかあるのか?」


「このゲームでは人数制限はないんだ。その分経験値が分配されるから効率を考えると人数は少ない方がいい。ただ、クランっていうのもあるんだ。それぞれ目的を持って集まった集団のことを言うんだけどな」


「なるほどな。そういや、今のビッグベアはまた出てくるのか?」


「いや、次は素通りできる」


 それなら一度エリアボスを倒したら戻ってきてネムさんの店で飯を食うということを繰り返して、進めながらも好感度を上げていけばいいわけだ。


 周りにも狩りを終えて帰ってきたプレイヤーが多くいるみたいだ。

 一個の建物にみんな入っていく。


「なぁ? ここなんなんだ?」


「あぁ、ここはギルドだ。登録して依頼を受けたりすることで報酬が貰えるんだ」


「えっ!?」


「なんだ?」


「登録してた方が良くない?」


「いや、だから触りだけ戦おうと思ったのにお前がドンドン進んで行ったから言うタイミングがなかったんだろうが!」


「そりゃ、すんません」


「ったく。登録したかったら後でしておけよ。まずは、今日はこの辺でいいか? 俺もクランに所属しててな。『白雷の空』っていうんだ。攻略を目指すクランなんだ。マセラも入るか?」


 気を使って勧誘してくれたんだろうことは分かっている。俺はネムさんの為に生きると決めた。その為なら入ってもいいのかもしれないが名前が気に入らん。

 真面目すぎる。


「いや、俺は暫くはソロでやってみるさ。ありがとな」


「そうか? じゃあ、なんかあったら連絡しろよ? フレンド登録だけしようぜ?」


 俺はチュウメイとフレンド登録し合うと別れて別行動をとる事にしたんだ。

 早速定食屋にいった。


 ネムさんに肉を献上して飯を作ってもらったのであった。

 肉を差し出した時のネムさんの笑った顔がマジで天使だった。


 ネムさんは誰にも渡さん。

 そう誓うのであった。

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