第3話 バッチコーイ
「じゃあ、また来ますね!」
「お待ちしてまーす!」
ネムさんに見送られる幸せを噛み締めながら俺は現世の第一エリアの森に行く準備をするのだが、ここで問題が起きた。
「なぁ、マセラは所持金ないから回復薬とか買えないよな?」
「たしかになぁ。いや、けど愛のミノタウロス丼を食べたことに悔いはない!」
「はいはい。今から第一行くけど殺られるなよ?」
「うーい。全部見えてるから大丈夫だと思うぞ」
「そういやぁ、選球眼を買われてたんだったか?」
「まぁ、そんなとこだ。目には自信がある」
このゲームでも動体視力の良さはリアルと変わらないところが凄い。何を読み取ってこのようにゲームに反映しているのかは謎だ。
まぁ、知ろうとも思わないんだけどな。
「なんかのインタビューでボールが止まって見える時があるって言ってなかったか?」
「あぁ。打つ瞬間とかな。止まってるボールを打っている気になった事がある」
目を見開いて首を振るチュウメイ。
「そんな世界を見てみたいもんだ」
「このゲームならそういう景色、みえるんじゃないのか? なんかそういうのありそうじゃね?」
「たしかにな。スキルガン積みすれば行けそうだ」
「そうじゃなくてもいけるぜ?」
「はぁ? マセラ……まさか!? 初期ステータス100ポイントどうした!?」
「AGIに全振り!」
頭を抱えたチュウメイ。
「なんか問題があるのか?」
「速いだけになっちまうだろぉ!?」
「そう? スキルよく見てないんだけど、速いほど攻撃が上がるスキルないのかな? 急所も有効だろ?」
「たしかになぁ。まぁやってみるか」
話しているとあっという間に第一エリアの森に来た。
ここはスライムからホーンラビット、ブラウンウルフのE級位までの魔物が出るエリア。
初心者エリアとして大体のプレイヤーがここで自分の戦い方を固める。
早速出てきたのはスライムだ。
スライムは核を破壊するのが倒す方法だ。
これに中々手こずる初心者が多い。
「スライムは核だ」
「うーい」
俺は少し離れたところから様子を見て近づいていく。スライムが留まったことを確認して、一気に一歩を大きく踏み出して刀を抜きそのまま斬り裂く。
核を的確にとらえた。
────バシャァ
スライムは水のように溶けていく。
少量の魔素を吸収し、俺の経験となる。
「おぉー。行けるな。次々行って早くまたミノタウロス丼を食べてあげるんだ! 毎日食べればネムさんも潤うはず!」
「いや、バイト代貰ってるだけだぞきっと。儲けはバックにいる親父に違いねぇ」
「食べ続ければきっと好感度も上がるはずだ!」
「いや、毎日来られたら気持ち悪くね?」
「うおぉぉぉ! かかって来い! 魔物共!」
「聞いちゃいねぇ」
魔物に向かって突進して次々となぎ倒して行く。俺は無我夢中で倒した。
ホーンラビットは初心者にはスピードが早くて難しいらしいが、俺には。
「止まってみせるぜ」
「わぁカッコイイって言われたいだけだろ。止まってはねぇだろ!?」
「止まって見えるぜ」
「だぁ! もういい!」
俺は居合の構えでまた林からでてきたホーンラビットを真っ二つに斬る。ボトッと肉の塊が落ちる。
「ん?」
「おぉ。肉のドロップはいいぞ。食えるしな」
「ドロップ?」
「そうだ。魔物を倒すとたまにアイテムを落とすんだよ」
「あっ! このドロップをネムさんに献上すれば、何か作ってもらえるのでは?」
「あのキャラ、料理はしないと思うぞ?」
「もっと集めよう! 出てこいホーンラビット! ウルフでも可!」
「コイツ全然俺の話聞かねぇな!?」
出てくる度に一刀の下で伏せていたのでドロップが一杯になってきた。
これを抱えながら戦うのはやりづらい。
「インベントリに入れたらどうだ? 『インベントリ』って言うと空間が開くだろ? そしたらこの中に手を入れるとリストが出てくるんだ。音声検索もできる」
「へぇぇ。凄いじゃん。『インベントリ』おぉ。ひらいた」
そこの口に、抱えているドロップアイテムを一旦入れる。
「もっと早く言えよ!」
「お前、俺の話一つも聞いちゃいねぇだろ!」
「そうか?」
「もうどこから突っ込めばいいんだかわからんぞ!?」
「どうどう」
俺はチュウメイを落ち着かせる。
まったく怒りっぽいんだからなぁ。
マセラのせいなんだが、それには気づいていないほどの天然である。
順調に来すぎたせいで第一エリアの奥に入りすぎた。それに気づいたのは大きなクマが見えた所だった。
「ヤバい! 奥に来すぎた! ありゃビッグベア。エリアボスだ!」
「おぉー。ビッグベアの肉が欲しいな。何よりあれを倒したらネムさんに見直されるかな!?」
「男を見直すようなAI積んでるのかな? やってみなきゃわかんねぇな。じゃねぇ! 初心者にはまだキツイ。一緒に引き返すぞ!」
「俺はやる! ネムさんにヨシヨシしてもらうんだ!」
「段々と欲望が出てきてるじゃねぇか!」
「行くぞ! ビッグベア!」
俺の中の選択肢では戦うしかない。
負けてもいい。勝負することに意味がある。
「威勢だけはいいな!?」
「バッチコーイ!」
大きな声を出し、ビッグベアに立ち向かう。
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