蚯蚓

くりぃむ

蚯蚓

 僕は学校からの帰り道、道路に一匹のミミズを見つけた。僕の右手を大きく開いて親指から小指にかけての大きさくらいの大きさだった。昨日テレビで釣りの餌にミミズのようなものを使っていて嫌がっている女優さんがいたことを思い出した。僕はそんな腰抜けじゃないと自分の心にぬんと念をかけてミミズのおなか辺りを持ち上げた。ミミズは暴れた。体の表面を縮めたり伸ばしたりして右へ左へぐねぐねと動いて僕の人差し指に巻き付こうとしてきた。巻き付けられた僕の指の先が切り落とされてしまうような想像が頭をよぎった。だから僕は怖くなって手を離した。ミミズは落ちた。ゴツゴツとした硬い地面にミミズの柔らかい体が音も無く着地してミミズのお腹辺りから黄緑のような、白いような気味の悪い何かが飛び散った。ミミズは頭のような先っぽをぶんぶんと振り回した。怖くなってお腹の辺りを見るとお腹の破れた部分は見つからなかった。ちょうどその時、ミミズの色が電気屋さんの広告みたく黒と白が先っぽから先っぽへと向かって黒くなってまた白くなってを繰り返していた。ミミズも生き物で体液が巡っているんだなと、ふと思った。ぐねぐねしているとお腹の辺りがストローを半分にしたように潰れていて体が半分になっていた。可哀そうになってもうあんまり動かなくなっていたミミズをつまんで、今度はそんなに高くない所から土の上に落としてやった。手を振っているように先端を振り回していた。僕のすぐ近くを車が大きな音をたてて通り過ぎた時、ミミズは蟻に見つかった。僕はもう見るのをやめて家へと帰った。罪悪感によって足取りが重くなるかと思ったけどそうでもなかった。ずんずんと歩を進め、蝉の死骸を踏んづけそうになったけど家のすぐそばまで来れた。生き物は所詮化学反応の集合体。何故罪悪感なんて持たなきゃいけないんだろう。僕が死んだら悲しむ人がいるだろう、でも地球の皆から見れば悲しむのはほんの一部だ。そう思うと命の重さが分からなくなった。僕の命はどれだけの価値があるのだろう、何故人を救うのだろう。目の前には見慣れた玄関の扉があった。電機はついていない。おじいちゃんもおばあちゃんもきっと寝ている。静かに二階のリビングに向かった。見たことない男の人が息を荒げて立っていた。お父さんもお母さんも寝ている。でも近くが綺麗な赤になっていた。黄緑でも白でもない。僕の指にはまだミミズの感覚が残っていた。

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蚯蚓 くりぃむ @under-tale

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