第8話 過去を思い出してみる
次の日も
「どうしたの」
そう問い掛けるが
「何も」
そう、顔を逸らすだけだ。
何も、教えてくれない。
それがすごく、きゅう、と胸を締め付ける。
×
「どうしたの、オレンジ」
不機嫌になった夫について悩んでると、水色の
お菓子を渡した日以来、他の
最近学校で
それに、手に入れた『
「浮かない顔してるよ? 悩み事?」
そう、水色の
「ええっとね、」
まだ時間に余裕がありそうだったので、悩み事を少し話してみることにした。何も聞かないよりはきっと、マシになるだろうと考えたからだ。
「わたしの……大事な人の話、なんだけど」
夫の
「大事な人? 恋人とか?」
「……うん。まあ、そんな感じ」
「へぇ!」
興味深そうに水色の
さすがに
実際、橙花自身と葦月との間に恋や愛があるかは分からないが、結婚しているのでそれくらいは話を盛ってもいいだろうと少し思ったのだ。知らず、頬が赤くなる。
「悩み事って何ですか?」
黄緑色の
「……最近、その。なんだか信頼されてない気がするんだ」
本題はこれ。色々と言いたい事はあるが、一番は信頼関係が築けていない事だと橙花は考えていた。
「信頼?」
どういうことだろう、と桃色と紫色の
「たとえば?」と水色の
「何かわたしに秘密を作ってる気がするんだけど、それを教えてくれないから。どうしたらいいのかなぁって」
と、ここまで説明した時に、なんとなく浮気を疑うような言葉になってしまったと自覚する。ふと水色の
「別れちゃえば?」
あっけらかんとした顔で水色の
「良い人なんてさ、世界にはたくさんいるんだし。だから、本当に嫌になったら別れたら良いんだよ」
「無理だよ」
そう、橙花は反射的に答えた。
「『嫌』じゃなくて?」
と桃色の
「う、色々事情があって別れられないの」
そう、しどろもどろになりつつ、橙花はどうにか答えた。既に橙花と葦月の二人は結婚しているので、容易に別れられないのは確かだ。それに、結婚した理由も容易に別れられない理由になっている。
「事情とかどうでもよくない? 嫌なら別れちゃえば良いのに」
「え……」
思いがけない言葉に、知らず下がっていた顔が上がる。
「事情なんて、大体どうにでもなるよ」
水色の
「……」
確かに、結婚していても別れる事はできる。そう思うと、不思議と少し寂しい気がした。
それに、橙花は嫌だから別れたい訳ではないのだ。ただ、彼が隠している事を知りたいだけで。
「恋人から信頼されたいの?」
どう答えよう、と逡巡する間に水色の
「うん」
素直に言葉が出る。信頼されていない事が嫌なだけであって、他には大きな不満を持っていない。そう、気付いた。
「ふぅん。別れたくないんだね」
「うん。……一人にしたら危なっかしい人だし」
色々な意味で。と内心で付け加える。
だって葦月は『
仮に、彼自身は一人ぼっちでも平気だったとしても、橙花は気になってしまうだろう。
「ダメ男に引っかかってない?」
疑うようなじとっとした目で紫色の
「だ、ダメじゃないよ! ちゃんとしてる真面目な人だし」
「秘密作られちゃってるのに?」
「うっ」
それはもっともな意見だ。
橙花は、葦月の隠している秘密を知りたいと思っている。信頼してもらえたら、その秘密を教えてくれるだろうか。
「何で信頼してくれないのか聞いてみたらどうですか?」
それまで静観していた黄緑色の
「聞けたら苦労してないよ……」
「じゃあ、その人としたやりとりとか思い出してみるとかどう?」
「やり取り、かぁ」
水色の
「あ、そろそろ戻らなきゃだ。ごめんね、とりあえず思い出してみる事にする。アドバイスありがとう!」
×
そんなこんなで家に帰ると
ならば丁度良いかも、と先程のアドバイスを実行してみることにした。
「たとえば、敵対してた時とか?」
ソファに座り、背もたれにもたれる。そうして目を閉じ、昔を思い出した。
×
まずは、初めて変身した日の事を。
初めて変身したのは、仲間に出会うずっと前だった。
目の前で突然、怪物『
その嘲笑っていた男がルーナム・ノクテム。つまりは葦月だった。
対抗する力を持たぬ橙花は、その破壊を、その
どこまでも緋い夕焼けに苦しみ、悲しみを募らせていた時。
不意に何か胸の辺りで光り、変身アイテムのレインボーパクトとフロースオレンジに変身するための小さなアイテムが現れたのだ。
それを手に取った直後、オレンジ色の光と風の奔流に飲み込まれ、気付いたら変身していた。
後で、妖精達が世界に『不思議な力』をばら撒いたおかげで、『
×
「いや、これは違うかも」
ふと目を開ける。
確かにこれは彼との関わりの始まりではあっただろうが、この時点ではまだ橙花は葦月には
信頼関係以前の話だ。
「そういえば、昔、一度だけ助けてくれたな」と少し思い出す。
×
それは、『
はじめての変身してからしばらくして、妖精と他の
それから数ヶ月が過ぎ、『結託が厄介だ』と判断され、
その中に、
初めて訪れた『
そして、橙花は
正しくは、他の
そこで、橙花は抵抗して彼と戦った。結局、一人ではどうしようもなく、捕らわれてしまう。
その後、何かの拍子に橙花は『
その上、異世界のものだったからか橙花の身体に合わなかったらしく、橙花は体調を崩す。
そして、苦しんでいた時に
「人質は元気であってこそ意味を成すのです。勝手に苦しまないで下さい」
と、治療してもらった。
思いの外焦っていたように見え、橙花の容態が安定した時には少し安心していたように思える。
×
「……何というか、微妙?」
先に誘拐されている前提を忘れていた。最終的に他の
多分、
「そういえば、あの時食べた果物が美味しかった気がする」
何という名前だったかは覚えていない。
だが、美味しかったとしても体調を崩すような食べ物なので、もう口にする事はないのだろうな、と何となく思った。
「この関係が始まったのは大学を卒業したころだし、その時のあたりかな?」
そう思い直し、次は大学を卒業した頃辺りについて思い出すことにする。
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