第7話 一歩踏み出す
『信頼』と言えば、と、ふと橙花はよく組む
怖がりだが心優しい桃色の
じつは、彼女達と出会ってからそろそろ一年が経つ。
元々は新人のグループで、それの補助役で橙花が先輩
はじめは『太陽みたいなお姉さん』と彼女達に呼ばれていたのを思い出した。一体いつから『
それはそれとして。
出会ってから一年過ぎるし、よくお世話になってるから何かお礼がしたいと思っていた。
だが、何でお礼しようかと悩む。
×
「……やっぱり、食べ物みたいな消えものが良いよね」
考えた結果、橙花はショッピングモールに来ていた。
そして橙花の周囲は、若い女子達でいっぱいである。
最近
「(……うわぁ、なんか帰りたい、かも)」
周囲には中高生の女子がほとんどで、時折その付き添いの若い男子がちらほらいる程度だ。橙花の様に20代くらいの人の姿は見えない。だから、場違い感に思い悩む。
「(そもそも、みんなが何を好きかが分らない……っ!)」
少し早まってしまったかも、と橙花はきゅっと唇を結んだ。
「……だけど、『何が好きか』なんて急に聞いても警戒されるだけかもしれないし」
そして、肩を落として呟く。
要は、勇気が出なかったのだ。誰が何を好きか聞くとか、打ち上げに行くだとか。
「どうしたの、そこのおねーさん」
うじうじと思い悩んでいると、後ろから明るい声が掛けられた。
振り返ると、そこには綺麗な空色の目の少女が居た。艶やかな長い黒髪が綺麗だ。そしてその子は、『少女』というにはやや雰囲気が大人びているような不思議な子だった。
「え、えっと」
「困ってる人見ると、落ち着かないの」
そう言い、少女はすぐに目を逸らすが「探し物があったら手伝うよ」と申し出る。
「え、いいの!? ありがとう!」
藁にもすがる思いで、橙花は少女の手をつかむ。「あ、ごめん」と我に返り咄嗟に手を離した。
少女は一瞬、驚いた表情をしたものの、意を決した様子で「大丈夫。もちろん手伝うよ」と頷く。
「だから、事情を少し話してくれると助かるんだけど」
「ええと……」
見つめる少女に、橙花は頬を掻いた。素直に『魔法少女をしている』なんて言えるわけがない。なので、少しぼかしながら事情を軽く話すことにする。
「派遣の仕事をしてるんだけど、よく現場が一緒になる若い子達がいて。そろそろ出会ってから一年経つから、その子達に何かお礼がしたいなって思って」
話すと、少女は少し不思議そうな顔をした。
「おねーさんもまだ若いでしょ?」
「そうかな? 褒めるの上手だねぇ」
「……そう思う?」
少女は怪訝そうに首を傾げるが、よく一緒になる
それに、目の前の少女も10代半ばに見えた。
「ところで。お礼をしたいその子達って、どんな子達なの?」
「みんな優しい子達だよ。逸れのわたしの事を受け入れてくれるし」
「……結構、大事に思ってる?」
なぜか、少女は心配そうな様子で問いかけた。まるで、少女達が聞いてきたかのように錯覚する。
「そりゃあもちろん。派遣の仕事だからずっと一緒にはいられないだろうけど、一緒になるとちょっとほっとする」
「ふぅん?」
もっと詳しく、と促すので、橙花は思考する。
「あ、他で一緒になる子達がよくないってわけじゃなくて……何だろう。あの子達が新人の頃からよく一緒にだったから、安心できるのかも」
「頼もしい?」
「うん、わたしがいなくてもばっちり仕事をしてるし、信頼してる。……きっと、わたしがいなくなっても、何とかなるんだよね」
「……お姉さん」
つい本音を言ってしまった。少女が少し寂しそうな声を出してしまったので、は、と今の状況を思い出す。
「あ、ごめん。初対面の人にこんなこと言っちゃって」
「ううん。良い話が聞けた。一緒に探すよ」
どうやら、少女は満足したらしい。その事に不思議と安心した。
「それで。無難にクッキーにしようかなと思って」
「妙なお菓子を渡すよりはマシかなぁって思うんだけど」そう、橙花は呟く。
「良いんじゃない? 嫌いな子は居ないだろうから」
頷き、「クッキーはこっちだよ」と少女は橙花の手を引いた。
×
「わ、可愛いー」
クッキーの売り場には、紙の箱に入ったものや缶に入ったものなど様々ある。それら全て魅力的で、若い子だけでなく自身の友人達も好みそうだと容易に想像できた。
「おねーさんが良いなと思ったものを、そのまま送るってのもいいんじゃない?」
「そうかな? ……喜んでくれる、かな?」
「そうだよ。だって、おねーさんが頑張って考えて、一生懸命選んだものだし。みんな喜んでくれるよ」
そんな少女の言葉に励まされ、最終的に4名に渡す用のクッキーや箱などを選び終えた。
「あとは渡すだけだね」
「うん。渡すのが楽しみ……いや、会える時ってそんなおめでたいときじゃないから、本当はあんまりすぐに会えない方が平和なんだけれども」
「ふぅん?」
「あ、いや。会いたくない訳じゃないの。ちょっと事情が事情だから、ちょっと複雑なんだよ……」
橙花が少女達と会えるのは、基本的に
「ま、頑張ってね。
「え」
どこかで聞いた覚えのある言葉に振り返ると、少女は居なくなっていた。
×
それから数日後、『
そして、いつもの通りに
「……」
どうやって渡そう、と橙花は悩む。派遣される前に、橙花は誰と共闘するのか情報が出るので、忘れる事なく買ったクッキーを用意できた。そしてそれをこっそりと隠して『
「『
そう、いつものように水色の
「どうしようかな……」
「特に用事はないし」
「私は大丈夫です」
他の
「打ち上げ、どうする?」
「え、えっと。参加は難しいんだけど……」
普段と違う様子に、他の
「こ、これっ!」
勇気を出し、クッキーの入った箱達を差し出す。
「かわいい……!」
「なに、これ」
「……クッキー、ですかね?」
差し出されたそれに目を丸くし、
「怪しい」
と、水色の
「お菓子を急に渡した理由は?」
戸惑う他の
「え、えっと。いつもみんなのお世話になってるし、そろそろ出会って一年経つから……」
気落ちして橙花は肩を落とした。あまりにも、何もしなかった時期が長かったのだと思い知る。
「冗談だよ」
そんな橙花に水色の
「えっ?」
「貴女にどんな事情があるかは知らないけど、仲良くしようと思ってくれてありがとう」
そう、水色の
「忙しいのはわかってるけど、私達に興味ないのかと思ってた」
寂しそうなその声に『そんなことない』と反射的に言いそうになったが、そう思われても仕方がなかったのだと自覚する。
「この子はマカロンが好き」
と、水色の
「この子は和菓子。餡子はこし餡派」
黄緑色の
「この子はチョコで、個包装のものがもっと良い。妹にお土産にするからね」
最後に、桃色の
「アタシはバニラクッキーが好き。満月みたいで何だか安心するから」
「あ……」
言われて、やはり何も知らなかったのだと反省した。
「だから。
そう、水色の
「あなたは、何が好き? フロースオレンジ」
「……わたしも、バニラクッキー、好きだよ」
×
「良いことがあったようですね」
家に帰ってきた
「わかる?」
「いつもお世話になってる魔法少女達がいてね」と、お菓子を渡した話をする。
「……そうですか」
「良かったですね」と、抑揚の薄い声で答える。だが、それはなんだか温度が冷えるような心地を持っていた。
「(……これは、明確に機嫌が悪くなっている?)」
そう、橙花は感じる。
なぜ、急にと、理由がわからなくて戸惑う橙花だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます