第4話 SHヨーコ(通称:ショーコ)
SHヨウコ(通称:ショーコ)・本名:平野瑤子:2018年生まれ、17歳。
5歳の頃、事故により両親と妹、そして両足の足首から下を失う。義足をその頃から装着、10歳から競技用義足を使用、12歳の時、最新テクノロジーと驚異的な身体能力、そして異常なまでの努力により、当時のパラリンピック記録・及び健常者オリンピックの100m・200m・高跳びなど12種目で世界記録を塗り替える。100mでは7秒フラットを記録。Spring・Heeled・ヨウコ・頭文字を取って、SHヨウコ:別名・バネ足ヨウコ・と呼ばれ一世を風靡した。しかしその後、表舞台から一切姿を消す。
これは才能の無駄使いだろうか、それとも最高の有効活用だろうか。ウインチを使っているとはいえ、4階から躊躇なく一気に飛び降りるSHヨーコを見ながらキーパーは思った。
背中に保護リュックにゆきちゃんを入れているが、4階から飛び降りた落下の衝撃はほとんど殺しているようだ。
「再警告をする。警察に通報をした、その場を動かないように。」キーパーから通告が入る。
「SHヨウコ、予定のルート通り来い、3分で警察が来るまでに、キーパーに後を追わせて、射水市内に入れ。」便利屋からSHヨウコに通信が入る。
「OK,師匠、2㎞なら3分いらないわ、2分30秒で行く。」
キーパーのスマートグラスに警察からの無線が入った。
「キーパー状況を説明してほしい。市営住宅406号室の住人からこちらにも通報が入った。娘が攫われたと言っている。不法侵入者と攫った人物は同一人物と見て間違いないか」
「確認できていません。不法侵入者は背丈150~160㎝、帽子とマスクを被っている為、年齢、性別不明、背中にリュクを抱えています。現在市営住宅から500m程すでに離れています。」
「何、貴様の通報からまだ1分経ってないぞ。追跡ドローンは飛ばしているのか。」
「追跡ドローンを飛ばしていますが、特定する前に引き離されました。」
「何、バイクか車に乗っているのか? 」
(彼女がゆきちゃんを放って置けない理由、それは救えなかった幼い妹が関係しているかもしれない。)
「いえ、移動手段にバイク、車は使っていません。」
「何、じゃあ自転車か走っているのか?」
(今、そこに命を奪われそうな子供がいるのに放っておけるの)SHヨーコの声が聞こえる。
「走っているようです。応援を回して下さい、それまで私が追跡します。」
SHヨーコがゆきちゃんを窓から攫った後、キーパーは、すぐさま市営住宅管理棟に連絡を入れていた。
「こちらP1056、そちらの建屋で侵入者が発生した模様、そちらで感知していますか?」
「あっキーパーさんですが、良かった、そちらでも感知していたんですね。何事でしょうか?」
「406号室に侵入者があった模様、窓が内側から空いてその後5秒たたずに退去しているので被害があるかわかりません、まだそこまで遠くは行ってないと思われるのでドローン追跡を推奨します。」
「人間ですか?本当に?はぁー、この前も一台追跡中に通信不能になって無くなっちゃって。後の報告書が大変なんだよね。」ぶつくさ言いながらドローンを発射するようだ。25秒は確保した充分だろう。
「まだ見つかれば書い直せば良いんだけど。データとかいろいろ入ってるから、無くなると機密情報漏洩とか、うるさいんだよね。」
もちろん知っているさ、SHヨーコもね。
サイレンの音が聞こえてきた。警察から無線が入る。
「キーパー、状況を報告してくれ。」
「はい、侵入者はマンション側面から射水方向へ逃走したようです。追跡ドローンは目標物を失い、一旦戻しています。現場の405号室で事情調査をしましょうか?」
「いや、それはこちらで対応する。君の業務はここまでだ。」
「了解しました。」
射水市に抜けてから川沿いに出ると、舗装された川岸から15〜16m先を旧式モーターの遊漁船が上流から走ってくる。船体の横には大誠丸と書かれている。
「SHヨーコ、聞こえるか、オレだ。大誠丸、見えるだろう、それに飛び乗れ。」
「はい」
SHヨーコはそのまま川岸の端まで走って助走を付けると、踏み込んで大誠丸に向かってジャンプした。15mなら問題ない。
「ゆきちゃんちょっと揺れるかもー」
5秒の滞空期間があり、甲板に着地した。
便利屋から通信が入る。
「そのまま氷見港まで運んでもらう。誘拐案件だから陸路はもう県警に周囲10㎞は検問が張られている。海上保安部まではまだ連絡がいってないようだ。誘拐に船を使ってはまずないから想定外になってるだろう。」
「ゆきちゃん、苦しかったごめんね!びっくりしたよね、いきなりこんなところに入れちゃって。もう少し待ってお姉ちゃんが待ってるから。」
「ママに怒られないかなあ。」
「大丈夫だよ、ママもらら姉も知ってるし。」
「ママ心配してないかなあ。」
「ゆきちゃん…。ごめんね、ごめんね。びっくりしたよね。」
保護リュックから出して、そっと抱きしめると、
「痛いよ、お姉ちゃん」とゆきちゃんは言った。
ごめんね、ゆきちゃん、心の中でSHヨーコはつぶやいた。こんなになってもやっぱりママは好きだもんね。
5分も水上を走ったら氷見港が見えてきた。暗くなり始めると海は真っ暗になり冷酷に感じ、港の明りは暖かく感じる。
(キーパー、来てくれたんだね、ありがとう。)
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