第3話 SHヨウコの計画
まだキーパーが返答をしないうちにSHヨウコは計画について話し始めた。
「朝から夕方までは部屋も締めっぱなし、ららも外には連れ出せないの。
この前DV夫がゆきちゃんのお腹思いっきり蹴って壁まで吹っ飛んだって。そこから多分あばら折れちゃって食欲もなくなってすごい痩せちゃったの。今病院連れてけば絶対疑われるって言って絶対外に出さないようにしてるみたいなんだけど、ららが言うには最近顔に精気もなくなって衰弱しているから本当に死んじゃうかもなんだよ。」
「なるほど、緊急事態なのはわかりましたが、やはり警察に通報した方が良いのでは。」
「一緒だよ。もう何回もやってるし、ゆきちゃんだって優しい時のママを知ってるから、やっぱり離れたくないんだよ。自分が死んじゃうかも、ってこともまだわかんないと思うよ。
ゆきちゃんの顔見せて、またゆきちゃんに階段から落ちたって言わせて、児相の人が来たってやっぱり知らない人だから、本当の事言うとまたどっか連れていかれるって思ってるから
何も言わないよ。」
「たとえ連れ出したとしても今回も一緒なんじゃないですか。」
「ららのお姉ちゃんとのとこに連れてくんだよ。私も先輩知ってるけど、ゆきちゃんも知っているから。 …作戦の話の続きだけど夕方DV夫が帰ってくると、ゆきちゃん怖がって2DK奥の部屋の窓際でずっとすこしてるらしいの。広間だとベランダに出られと厄介だって奥の方に元々追いやれてるんだけど。その部屋で窓があって、カギはゆきちゃん高くて開けられないんだけど、ららが隙見て開けてくれるって。その窓から私がその子を奪って逃げるの。以上」
「…。以上?」
「以上よ。」
「随分シンプルな作戦ですね。」
「こういうのってシンプルな方が成功しやすいのよ。」
「…。ずいぶん自信ありげですが、何も考えてないとしか思えないですね。まあ勝手にやってください。私はあなたの妄想に付き合っただけと言う事にしときましょう。」
「何言っての。ここからがあなたの出番じゃないのキーパー。知ってんでしょ、あの団地。入居率上げるために『防犯万全、家族が安心に暮らせる団地』っての売りにしているの。」
「知ってますよ。造りは築50年以上、だが10年前に内装をリニューアル、その際防犯対策としてID登録されていない人間が内部の承諾無しに外部から入ろうとすると直ちに警備会社に通報が行くようになっています。」
「そっ。わかってんじゃん。あの夫婦なんて私にとっては何の障害でもないわ。警備会社か警察が来るのも5分はかかるし、その間に私は逃げれる。厄介なのは監視カメラと追跡ドローン。」
「…。」
少しは調べて対策は練っているようだ、とキーパー思った。
SHヨーコは続ける。
「監視カメラ対策はある程度できるけど、問題は追跡ドローン。多分警備会社の解析AIで私を侵入者認定するのに6~7秒も有ればできるわ。そこから管理棟から追跡ドローンを飛ばせば、15秒くらいで追跡開始、私を画面で捉えたらロックされちゃう。奪ってそのまま下に飛び降りて行けば何とかなるかもしれないけど、正面は人目に付きすぎる。一回屋上に戻って団地の側面から飛び降りたい。でもシュミレーションしたら、地面に着くまで最短でも25秒。ドローンは時速50㎞だからぎりぎり追いつかれないけど。」
「なるほど、車かバイクだと追跡ドローンの映像から足が付く、あなたの足なら振り切れそうですね。だがぶっちぎりって訳にはいかないでしょう。その間にルートが分かれば警察に回り込まれる可能性もある」
「そっ。だから15~20秒くらいのタイムラグを作ってほしいの。そしたらドローンが追跡ロックする前に離れれるわ。警備会社と連携を取れるのは警察かキーパー、あなただけ。」
「良く知ってますね。実際、この警備システムは誤作動が多いから、毎月6~7回はハトやカラスをドローンが自動追跡しています。私がたまたま警備範囲にいて異常を先に見つければ、先回りできる訳、か。しかし私も職務放棄という訳にはいかないですよ。」
「キーパーは警備会社に直接連絡してほしい。さっき言ってた誤作動の件で、今解析AIの判断から追跡ドローンの発射は人間の手でやっているの。」
「なぜそれを知ってるんですか?正しい情報筋なのですか?」
「何故知ってるかわ言えないけど、正確な情報筋よ。とにかく、解析AIが侵入者認定して、警備会社がドローン発射する前にキーパーが警備会社に連絡して、10秒稼いでほしい。侵入者がいた事自体はそのまま言ってもらっていいから。警備会社の人も無駄にドローンを飛ばしたくないって考えもあるみたい。」
「なるほど、確かにそれなら私の業務の範囲を外れませんね。」
「ねえ、キーパー。あなた眠らないって本当?」
「突然話が変わりますね。」
「そういう噂を聞いたから。」
「ある時から、寝ることが出来なくなりました。眠気もないし睡眠欲もなくなりました。睡眠薬で眠れないことも無いが、起きた後3日くらいフラフラします。」
「あなたに感情が無いなんて思わないわ。」
「私も思っていません。ただある時、人や自分の感情が信じられなくなって、自分で感情を封印してしまったんだと思います。私の感情はとても臆病で懐疑的なんです。」
「師匠が言ってた。人の感情なんてものはあんまり自由にするもんじゃないって。自由にし過ぎると、その自由の中で強い者が弱い者をいじめるようになるって。」
「…。そうかもしれませんね…。さあ、話は終わりです。計画の内容は理解しました、この話は決して他に漏らすことはしません。が、私の結論は変わりません、やはり警察に任せるべきと考えています。…、ただ計画の日時については教えてください。」
長居は無用だ。SHヨーコと話していると、心の中を全部言いたくなってしまう。
「ありがとう、キーパー。来てくれるって信じてるわ。」
そう微笑む顔が暗闇に紛れてからもまだぼおっと光っているようだった。
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