第2話 クリスマスにはまだ早い

 その後、先生への説明や警察の事情聴取があった。


 ありのままを告げる程バカではないので、変な疑いがかからないよう嘘をついた。


 夕日を見に屋上に行ったら優花が自殺しようとしていて、止めようと頑張ったが駄目だった。そんなシナリオだ。


 死の淵を覗く為、陽炎は普段からしばしば屋上に行っている。


 その際も夕日を見たくてと先生に説明していたので、疑われる事はなかった。


 自殺の理由について尋ねられた際は、「いじめがどうとか言っていました」と答えておいた。


 実際優花はそんな事を言っていた。


 学年も違うので、陽炎は不運な発見者の一人として扱われた。


 迎えに来た両親にも色々心配されたが、適当にショックな振りをして誤魔化した。


 彼女は自分で死のうとして死んだのだ。


 それで死ねたのなら本望だろう。


 死にたくないのに死んだのならただのバカだ。


 どっちにしろ陽炎には関係ない。


 とにかく疲れた。


 遅い夕食を食べ、風呂に入り、さっさとベッドに入る。


 目を閉じると瞼の裏に優花が飛び降りるシーンが焼き付いていた。


『呪ってやる』


 鼓膜には、彼女の最後の言葉と遠ざかる悲鳴が貼り付いている。


 そんなもんだろう、と陽炎は思った。


 目の前で誰かが自殺したら、なにかしらの影響を受けない方がおかしい。


 しばらくは引きずるかもしれないが、その内忘れるだろう。


 誰だってそうやって現実と折り合いをつけている。


 さもなくば彼女のように死ぬだけだ。


 眠れない時間を目を閉じて耐える。


 浅い眠りを繰り返しながら緩慢な夜をやり過ごす。


 ふと陽炎は気配を感じた。


 なにかが枕元に立っている。


 親ではない。


 それならば、足音や扉を開けた音で気づく。


 サンタクロースではない。


 十二月には程遠いし、結局それは親なのだ。


 泥棒だろうか。


 それだって、なにかしらの物音は立てるだろう。


 そういった実在する存在の気配ではない。


 もっと不確かで曖昧な、重い空気や実体を持った影のような気配。


 除外していた第一候補を正直に明かせば、幽霊のそれだ。


 除外していた理由は簡単で、そんなものは存在しないからだ。


 陽炎は幽霊を信じていない。


 幽霊が実在したら他にもそれを目撃した人間が大勢いて、なにかしらの証拠が残るはずである。


 大体、人間だけが都合よく幽霊になるというのも納得いかない。


 恐竜や虫、微生物だって幽霊になってもいいはずである。


 だが、そんな話は聞いた事がない。


 故に幽霊は存在しない。


 百歩譲って存在したとしてもだ。


 凄まじい幸運、あるいは不運で自分の元に幽霊が現れたと考えるよりも、自殺を目撃したせいで神経が過敏になっていると考える方が筋が通る。


 そういった事をつらつら考えた後、陽炎は簡単な解決策に気づいた。


 目を開けて確認すればいいのだ。


 実行すると、瞼の裏に張り付いた女の顔と同じ顔がこちらを覗き込んでいた。


「うらめしやぁ~」


 ギョッとする陽炎を見てニヤリと笑い、制服姿の優花がだらりと手を垂らした。


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