第9話 帰国

 帰国すると、空港の中のどこかの部屋に連れて行かれた。入国管理とか言っていたかもしれない。

「伊東美奈さん、19歳。ギャガ王国で事故に遭って、ずっと、そこで暮らしていたんだね。まず、記憶が定かではないらしいけど、外務省からの要請を受けて戸籍は作ってある。まずは生活保護の対象としておいて、住所は不定としておくしかないけど、住むと所決まったら、すぐに住民票を取ってね。とりあえず関係する書類を渡しておく。また、ギャガ王国でのあなたの手持ち資金、結構あるね、それと、日本国の援助金で50万円を渡すけど、これから暮らしていける?」

「なんとか、やってみます。」

「僕の名刺を渡しておくから、何かあったら連絡して。また、働き先を探したいときはハローワークという所に行けば、いろいろ面倒を見てくれるよ。大丈夫かな。」

「わかりました。ありがとうございます。(お役所の人は嫌いだ。早く、ここから出よう。)」


<この人、頼った方が良くない? 親族もいないし、住所もなく、高校も大学も出てないって聞いたら、誰も信用してくれないわよ。あなたは、どうやって生きていくの? もう少し、簡単に生きる道を選択した方がいいわよ。>


 まず、渋谷にあった自分の家に行くことにした。


「きたけど、自分の家、空き地になっている。両親が死んで、その後、家が売られちゃったのかな。おじいちゃんとか、その他の親戚とか、あまり縁がなかったから、どこか分からないし、これじゃ、全く知り合いはいない。どうしよう。」


<そりゃ、そうよね。そもそも、あなたは、この世の中にいない人なんだから、知り合いに会っても、あなたのこと分からないわ。僕、隆ですって言うの? 誰も信じないって。それよりも、何もない前提で、どう生きるか考えないと。もっと、私のアドバイスを聞いてよ。>


 渋谷の駅に戻っていく中で、人が多いことにびっくりしつつも、ギャガ王国でだいぶ苦労したこともあり、日本では、若者が、笑いながら、その日を楽しんで過ごしているのかと思い、うんざりした。


 そんなことを考えて道を歩いていると、ふと、男性から声をかけられた。

「彼女、ちょっと、バイトしてみない。」

「どんなバイトですか?」

「結構、儲かるバイトだよ。興味あれば、説明するからついてきて。」

「そうなんだ。じゃあ、教えて。」


 軽そうな男は雑居ビルの階段を登り、殺風景な部屋に美奈を通した。


<この女、警戒心とか全くないな。不思議ちゃんだ。もし、話しがまとまらなかったら、しゃぶ飲ませて、売っちゃうというのもアリだな。この子使って儲けるぞって、頭の中で呟こう。>

<やめてよ。この子はこんなんだけど、守護霊は私で、あなたのような弱い守護霊は吹き飛ばして、違う人に変えちゃうよ。>

<それは困る。わかった、わかった。>

<でもさ、美奈、あなたは女で力弱いんだし、もう少し、警戒しなさいよ。腕とか掴まれて、眠り薬とか嗅がされたら、逃げられないじゃない。本当に危なっかしくて、見てるだけでハラハラしちゃう。この子、大丈夫なの?>


「バイトは、こちらで指定する別の女性と一緒にバーに行って、おじさんに一緒に飲もうって声をかけ、ショルダーというお店に行きたいんだと言って連れてこい。そこで、一緒にお酒を飲んだり、フルーツとかを頼んで食べれていればいい。簡単だろ。」

「ぼったくりバーとかいうやつね。わかったけど、いくらぐらいくれるの。」

「相手がしっかり払ったら、1回、1万円を渡す。」

「寝たりしなくていいのね。」

「それは、しなくていい。そっちの方がいいか?」

「それは、いいや。わかった。じゃあ、ぼったくりバーのバイトする。いつから。」

「今日からでもできる?」

「OK。」


 美奈は、体売らなくても、ただ男の横に座って、飲んでいれば1万円ももらえるんだ、毎日やったら月30万円、それなりの月収だ、ぼったくりバーは儲かるんだねと笑って、その日からバイトを始めた。 


<これって犯罪なのよ。1万円もらっても、捕まるかもって思いなさいよ。なんか、この子大丈夫なの? 罪悪感とかないの?>


「今日、初めてだけど上手いね。どこかでやっていたの?」

「ちょっと、海外で。」

「そうなんだ。じゃあ、お金渡すよ。お疲れさま。」

「あ、疲れたな。今日は、どこに泊まろう?」

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