第10話 平穏なひととき
そんな時、横にいたボーイも帰ろうとしていた。エレベーターで一緒になり、美奈から話しかけてみた。
「お疲れ、ここで働いてるんだ。」
「お疲れさまです。僕バイトなんですけど、あなたもバイト?」
「そうそう。ところで、ラーメンとか食べようかなと思っているんだけど、一緒に行かない?」
「え、僕でいいんですか?」
「そんな緊張しなくていいから。照れてるの? じゃあ、行こう。どこか、おいしいお店知ってる?」
「じゃあ、僕の行きつけのラーメン屋に行きましょう。」
「楽しみ。これまで海外にいて、日本のラーメン美味しいって聞いていたら、早速食べてみたかったんだ。」
ラーメン屋では、二人はカウンターで食べながら、主に、美奈が喋り続けていた。
「お願いがあるんだけど、今日、泊まるところまだ決めていないから、あなたの部屋に泊めてくれない?」
「え、女性を泊めるなんて、部屋汚いですけど。」
「大丈夫、大丈夫。ただ、お金はなしでお願いね。さあ、食べ終わったし、行こう。」
「お金のことはいいけど、えー、強引すぎるんですけど。」
<この女性、強引だけど、大丈夫かな。俺って、自信がないけど、それが守護神としてこの男性の性格にも反映されちゃっているんだよな。そのせいで、こいつ、「女性に、かっこいいところ見せなくちゃいけないけど、そんなことできたことないし。そもそも、何を話していいか分からない。どうせ、つまらないやつって長続きしないんだろうな。だって、女性って、お金持ちのかっこいい人が好きなんだろ。俺、お金もないし、かっこいい所ないし。
また、俺、女性とエッチしたことないから、どうやればいいか分からなくて、できないかもしれない。あそこが小さいとか、下手ねとか、ばかにされちゃうかも。そんなことだったら、女性に近寄らない方が楽だ。」なんてい考えている。俺もそうだったから、よく分かるぞ。>
<そんなこと、女は気にしないわよ。なんか、これまで会ってきた守護神の中で、一番、いい感じじゃないの。この子、大切にしてくれない?>
<そうかな。じゃあ、この男性の頭の中でつぶやいてみるけど、ずっと消極的だったから、そう簡単に変われないと思う。>
<まずは、やってみて。>
渋谷から井の頭線で数駅乗って、池ノ上という駅で降りた。家が多く、閑散としている風景だったが、駅から5分ほど歩いたところのアパートの2階に彼の部屋があった。
「ここですけど、本当にいいんですか?」
「いいの。いいの。お邪魔しまーす。あら、結構、広いじゃない。」
「まあ、寝るって言っても、一緒の部屋で寝るしかないんですが、いいですか?
それと、先にお風呂入ります?」
「そうね。じゃあ、お風呂、使わせてもらうわ。」
「こちらで、タオルはここ。着替えとかはキャリーバックに入っているんですよね。じゃあ、どうぞ。(その間に部屋、片付けておかないと。)」
美奈はシャワーを浴びて、お風呂から出てきた。
「気持ちよかった。ドライヤーある?」
「あるけど、え? 裸で出てこないでくださいよ。(わぁ、見ちゃった。)」
「いいじゃない。この胸、大きいでしょう。お椀みたいで、形もいいと思う。私の自慢の一つ。男の人って、こういうの見ると喜ぶんだよね。ほらほら。」
「美奈さん、日本じゃ、そんなことしないですよ。(天真爛漫って感じだな。) まず、パンツ履いて。そしてシャツ着ないと。」
「そうなの? つまらない。(この人、女性に関心がない? それとも、日本じゃこんなもん? でも、さっきのおじさんは女性にガツガツしていたし。若者が違うのかな?) そういえば、棚に本がいっぱいだけど、これって何?」
「プログラミングとか好きで、最近は、ハッキングの本とか読んでるんだ。」
「なんか、面白そう。私も読んでいい?」
「裸でうろうろしないんだったら、いいですけど。」
「裸でもいいじゃない。本は読ませてもらうね。」
<この子、少し天然なのよ。別に誘っているとかじゃなくて、恥ずかしくないだけだから気にしないでって、伝えておいて。でも、なんかいい感じよ。>
<本当? この男性が、異性として相手にされていないということだと思うけど。>
<そうじゃないと思う。確かに、異性への憧れとかはまだないと思うけど、親しくなりたいって思っているはずよ。この子なりの、挨拶みたいなもの。>
<そうかな。そう伝えておくよ。>
その日から、彼は美奈に一切手を出さない、でも美奈はお風呂上がりは30分ぐらいはいつも、タオルをクビにかけただけで、それ以外は真っ裸でうろうろしているといった、奇妙な2人の生活が始まった。
<この人は、お金はなさそうだけど、信用できそうよ。きっと、あなたのこと大切にしてくれると思う。こういう男がいいんじゃない。好きになれ、好きになれ。>
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