第4話 女の体へ

 ずっと部屋にいて、語学の先生と会話したり、先生が用意した本を読むぐらいしかできない日々が続いた。

「看護師さん、なんか、最近、お腹の辺りが体調悪いんだけど、どうしてかな。」

「そうなの。検査してみるけど、整腸剤出しておくね。」

「あれ。」

「なんなの。」

「なんか、おしっこ出るあたりから血が出てる。どうしよう。どこか怪我したのかな?」

「調べてみるね。」


 看護師が少し調べて、隆の部屋に来た。

「これは生理ね。女性だったら、誰でもなるから安心して。病気じゃないし、怪我でもないし、心配しないで。(この子の年齢だと遅いけど、そういえば女の子は10歳ぐらいだったから、逆に少し早いかもしれない。この子の中で、どう変化しているかしら?)」

「生理ってなに?」

「子供を産むために、毎月、女性の体に起こることなのよ。」

「え、僕が子供産むの?」

「そうだけど。女なんだから、当たり前じゃない。」

「前から言っているけど、僕は女じゃない。」

「騒がないで。ねえ、誰か来て、来て。鎮静剤を。」

 隆は、鎮静剤を打たれ、ぐったりとベットで眠りに落ちた。


<あれあれ、生理が始まっちゃった。女として、これから毎月、面倒ね。血が漏れて、ベットのシーツが汚れたり、パンツについたり、本当に面倒だもんね。何よりも、痛いし、気持ちも不安定になるし。

 でも、体に定着したということだから、拒否反応を起こすとかで死ぬ可能性は減ったということね。これは朗報よ。

 もう男に戻るのは諦めた方がいいわね。まず、女だと認めたうえで、これからどうするか考えないと。>


 隆は、それから1年ぐらい、部屋から出ることはできず、定期的に検査を受ける日々が続いた。部屋から出られないので、走ったりできず、ゆっくりと歩けるぐらいにしか回復はできなかったが、日常生活には支障がないレベルにまでは来た。

「先生。僕は、男の子だったんだけど、手術の傷とかはないけど、どうして、下半身が、こんな女の子の姿になっちゃったの?」

「何言っているんだい。元から、こういう姿だったじゃないか。記憶が混乱しているんだと思うけど、そのうち、そんなことはないと思い出すさ。」

「違うのに・・・。」 


<何回も言うけど違うのよ。騙されないで。でも、それとは違って、体はしっかりと女になってきてるんだから、女の人生を楽しむように、考えを変えないと。>


「看護師さん、そういえば、最近、胸がむずむずするというか、くすぐったいというか、なんか不思議な感じなんだけど、どうしてかな?」

「検査してみるけど、おそらく、女性としてのバストが成長しているせいじゃないかな。私にも経験があるから、そうだと思う。」

「え、どんどん女の体になっていくんだ。僕、男なんだから、女の体にはなりたくない。恥ずかしくて、昔の友達とかに会えないじゃないか。」

「また、何言っているの? 女性なんだから、当たり前じゃない。なんで、男とかいうんだろうね。なんか、病院を訴えるとか、企みでもあるの?」

「そんなんじゃなくて、本当のこと言ってるだけなのに・・・。」


<まあ、ここまできたら、もう諦めなさい。男より女の方が、楽しいことも多いのよ。頼れる男と知り合えたら最高よ。私がそうだったんだから。>


 隆は、最近、なんとなく、自分が男だったことは間違いだったんじゃないかと思い始めてきた。 


「エコーで見る限り、子宮はしっかりと組織に癒着したな。でも、確かに正常より、少し成長が早いように見える。もしかしたら、子宮から出る女性ホルモンは、脳で調整しているんだが、男性の脳が追いついていないのかもしれない。これも、面白い。ただ、若い段階だったので、子宮を入れて、精巣を取れば、普通に女性として成長していくのが分かったことは、今回の成果だ。また、声変わりの前で、女性ホルモンが加わったせいか、子供の声から女性の声へと厚みが増している気がする。」


 更に1年が経ち、隆の胸は大きく膨らみ、腰もふっくらとして、くびれも出てきていた。また、病院は、ヘアスタイルも女性としてカットし、女性の服しか出さなかったから、どこから見ても、女性にしか見えない格好になっていた。


<後ろから見ると、ふっくらとしたお尻を揺らして歩く姿は、そこら辺の女より、よっぽど色気あるぜ。それに胸の谷間。女のフェロモンがプンプンだ。こんな、ドッキリするぐらいのいい女になるなんて、思ってもいなかったな。偶然の産物だとは思うけど、俺が憑いているドクターは、本当に天才だぜ。興奮してきちゃうね。>

<本当に、罪悪感のかけらもない人達ね。特に、あなたはもう体がないだから、興奮とかしないでしょ。

 でも、この子、顔は昔より丸顔になってるし、唇もぷっくりしてる。肌もきめ細やかだし、どこからみても女じゃない。と言うより、男っていう部分はもうどこにもない。何度も言うようだけど、せっかく男の子の守護霊になって、男の人生も楽しもうと思っていたのに、また、女の人生を見ることになっちゃた。せっかくのチャンスだったのに、がっかり。

 でも、こんなに子宮と精巣って、体を作るうえで大きな役割を果たすのね。今更にしてびっくり。なんか他人事のように言うけど、これだけ傷が全く残っていないって、このドクター、腕はいいのかもしれない。それには感謝だわ。

 ただ、こうなっちゃうと、隆だとか言っても誰も信じてくれないし、あなた、この世の中に存在しない人になっちゃうわ。こんな女、この世の中には実在しないんだから、どうするの?>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る