第2話「私達の税金で美味い飯食ってんのムカつく」



「なー、また舞踏会の招待状ってのが──」

「わっ、わっ」


 リビングに戻りながらヒラヒラと手紙を振れば、慌てた様子でお義姉さま方がこちらの手からそれをふんだくっていく。

 そうして部屋の隅で封を開けながら、きゃあきゃあと騒ぎ始める二人。それって淑女としてどうなん? という目で私が継母を見ても、うちのレディ代表は澄ました顔で食後のティーカップを傾けるだけだった。まぁ澄ました顔してるけど、この人も行くしね。


「舞踏会ねぇ……」


 昔、親父に仕事関係のやつに連れられて行ったことあるけど、あんま楽しくなかった覚えがある。舞踏会って言っても挨拶回りばっかだったし。ん、飯は美味かった!

 しかし私の行ったことのある舞踏会と明確に違う点は、その封筒に『From 王城』って書いてあるとこ。

 まーいいとこ、王族の嫁探しだろね。どういう基準で各家のポストに投函してるのかは知らんけど。そもそも何回うちのポストにシュートしてくんの。舞踏会やりすぎ、これで何回目の開催よ?

 私の税金使って大人数で美味い飯食ってると思うとイラッとしてくるが、お義姉さま方はその招待状に夢中な様子である。


「アナスタシアはまたメーンケイ君?」

「ドリゼラお姉さまこそ。"キング"は高望みしすぎでしょ」

「ふぉっ!?」


 キング!? え、うちの国王に粉かけてんのドリゼラさん!?

 え、なに、ドリちゃんはイケオジが趣味なのん……? つーか王妃はまだご健在のはずで……この前も王城のバルコニーからのほほんと手ぇ振ってたの、私早朝の広場でラジオ体操しながら見たべ?

 もしかして、ふ、不倫……っすか……?


「……」


 ……ちょっと興味出てくるじゃん? それに良い“口実”に使えそう。

 そう思った私は手を後ろに組み、トトトとステップを踏んでお義姉さま方に近付いた。


「お義姉~さまっ☆」

「「きゃっ」」


 ひどない? 呼んだだけで背中に手紙隠すとか。

 でも私はデキるシンデレラなので、ニコニコ笑顔のまま二人に聞いた。


「舞踏会、楽しそうですね? このシンデレラにも詳しく教えてく~ださ~いな♡」

「「絶対にダメ」」

「は? こっちが下手に出てりゃいい気になってんじゃねーぞ黒髪なんちゃってアジアンビューティがよ。テメーも実は連れ子だろアーン!?」

「痛い痛い痛い痛い!」


 とりあえずオジ専と国家転覆罪の容疑があるドリゼラをコブラツイストの刑に処す。教えてくれるぐらい別にいいじゃんね!

 乙女にあるまじき悲鳴を上げるドリゼラを前にして、アナスタシアが助けを求めるように継母の方を見る。すると継母はカップを静かにソーサーへ置いた。


「やめなさい、シンデレラ。そもそもあなた、社交界には興味がないと言っていたでしょう」

「今出てきた、急にね」


 ポイッと床にドリゼラを打ち捨てながら、私は手を合わせて継母におねだりのポーズをした。そこまで嫌がられると余計にね?


「私も連れてって☆ ツテで」

「無理よ。あなたドレスも持ってないし。聞いたわよ? 去年の秋に焼きイモがどうしても食べたかったからって、一緒にドレスも燃やしたんですって?」


 落ち葉集めるのめんどくせぇし、腹減ってたんだよわりーか? あとサイズも小さかったし愛するママンと楽しくファッションショーした記憶がチラついて涙が出ちゃうからねだってシンデレラなんだもん。


「じゃあお義姉さま方のドレス、どれでもいいから貸してよ」

「……」

「無言で胸を見るな殺すぞ」

「当たってる! 刃先当たってるから!」


 アナスタシアの憐憫の目にイラついたから、ついね。なにがシンデレラバストやねん。私の名前、不名誉過ぎん?

 涙目でこちらを見るアナスタシアに満足して太もものホルダーにナイフを仕舞っていれば、継母が場をまとめるように手を叩く。


「というわけで、シンデレラはいつもの通りお留守番ね」

「ちぇ~……じゃあ、はい。せめてこれ」

「なぁに、このタッパーは」

「BA☆N☆ME☆SHI☆」

「これでよく人に気品がどうとか言えたわね……私達にあの場でセコセコと料理をタッパーに詰めろと? 品がないからダメよ」

「私が晩御飯作らないといけなくなっちゃうじゃん!」


 あんたらが王城でシャレオツフレンチ食ってる間に、私は女の一人料理で満足しろってか!?


「私が女の独り飯モソモソ食ってる時に、皆が私より美味い飯食ってんの許せねぇよ……」


 許せねぇよなぁ!?


「はい、じゃあ解散。シンデレラはお皿洗いを済ませておいて。私達は夜のためにこれから美容院行くから」

「数時間で小皺が解消できる美容院なんてあんの?」

「……」

「あうっ! ちょっ、見ましたか皆さん!? 家庭内暴力ですぅ~~!! 児相に言うからな!!」


 私が継母を指差して非難するも、三人は揃って「はいはい」と肩を竦めて出掛ける準備を始めた。スルートゥスルー!?


「くっそ~~……」


 優しくペチリと叩かれた頭を押さえながら、私は思わず歯噛みする。

 へ~んだ! いいもんいいもん! どうせ昼も夜も外食すんなら、私だってゴキゲンなランチとディナー作って全部食べちゃうもんね! さ~て冷蔵庫を開ければ~……? わお、ちくわしかねぇ!!


「それじゃ、行ってくるわね」

「「行ってきま~す」」

「……いってら。なんか最近街に変な人いるらしいから気を付けて~」


 意気揚々とドアを潜っていくその背を、私はちくわを笛にして遊びながら見送った。変な人の詳細は知らん。


「……ぼー……ぼー……」


 ……いっそ燃やしたろかこの家。

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