イケメン通り

山広 悠

イケメン通り

商店街を歩いていたら、変なポスターが目に入った。


「イケメン注意」


いつもの道から少し入った細い路地。


イケメン注意って。

何を注意するのよ。変なの。


池野沙織(いけのさおり)はため息混じりに苦笑した。


イケメンが大量発生してるとか?

ホストクラブじゃあるまいし。


そもそもこんな都会とも田舎ともいえない中途半端な町の冴えない商店街に、イケメンがいるわけないじゃん。


高砂銀座(たかさごぎんざ)商店街をナメんなよ。


歪んだ地元愛に急遽(きゅうきょ)目覚めた沙織は、なぜだかプリプリしながら歩を早めていった。


すると、前方から若い男性が歩いてきた。

薄暗くてまだ顔はよく見えないが、背は高い。


まさか。


もう少し先へ進む。


…。


普通。


よっしゃ!


すれ違いざまに小さくガッツポーズをした沙織を怪訝(けげん)そうに見つめながら、高砂銀座商店街にふさわしい顔立ちをした若者は立ち去っていった。


ほらね。


なぜだか胸を反らして勝ち誇る。

少し背も伸びたような気がする。


次に来た男性はサラサラヘアーだけど、服が異常にダサく、

その次は細マッチョの不細工。

その次は足が長いのに顔がデカく、

その次は顔はめっちゃカッコいいのに体はデブと、

来る人来る人、皆、なんとも残念な特徴を持っていた。

長所もあるだけに、その残念さがハンパない。


どこがイケメン注意よ。


沙織はせせら笑いながら髪をかきあげた。


あれ?

いつものクセっ毛がサラサラになっているような…。


慌てて足元に視線を向ける。


えっ! 足も伸びてない?

そういえば体も筋肉質になっているような…。


急いで電気屋の店頭のガラスに向かう。


げっ!!!!


電気屋のショーウィンドウには、先ほどすれ違った男たちの長所を全て合わせ持った、沙織好みの超イケメンが写っていた。


いやいや…。

そりゃ、本当にイケメンがいるなら会いたいなって、少し期待はしたけどさ…。


っていうか、


「私がイケメンになってどうするのよ-っっ!!!!」


高砂銀座商店街に沙織の絶叫がこだました。



電気屋の店頭の他、いたるところに貼ってある「イケメン注意」のポスターには、よく見ると小さく(路地通り抜けの際、変身の恐れあり)との但し書きがしてあった。


                                   【了】
















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イケメン通り 山広 悠 @hashiruhito96

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